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第7節 海上保安庁タイ海上警察・港湾局による海賊対策連携訓練
 
 日本の海上保安庁は、最近の東南アジア周辺海域における海賊及び船舶に対する武装強盗事件の多発・凶悪化を懸念し、海賊対策国際会議、海上犯罪取締セミナーの開催、東南アジア諸国からの海上保安大学校への留学生の受入等各種の対策を推進しているところです。
 さらに、この対策の一環として、本年度は、大型巡視船を年4回、航空機は年2回、東南アジア周辺海域に派遣し、関係国を訪問のうえ相互理解の推進や連携訓練の実施などを通じ、東南アジア海域の航行安全の確保に貢献しています。
 本年度は、8月にシンガポールを、10月にフィリピンを訪問し、海賊対策連携訓練等を実施したところですが、これに引続く12月、ヘリコプター搭載大型巡視船「りゅうきゅう」(船長 濱田 喜代治)をタイへ派遣し、タイ海上警察、港湾局とともに海賊対策連携訓練を実施しました。
 当事務所はこれまで、海上保安庁や日本財団が主体となって実施したシンガポール、マレーシアでの海賊対策国際会議への支援業務や、各種海賊対策国際会議への出席、海上警備機関からの情報収集等、マラッカ・シンガポール海峡をはじめとする東南アジア海域で発生している深刻な海賊事件への対策構築に一定の貢献をして来たところです。
 今般、海上保安庁のタイ寄港、連携訓練実施の機会を捉え、当事務所所長志村がタイ国家警察、海上警察、港湾局への表敬訪問に同行、当事務所の先方機関への紹介、海上警備機関の現状、海賊関係情報の収集等を実施した他、タイ・バンコク南部のレムチャバン港沖で実施された連携訓練を見学する機会を得ました。
 連携訓練は、12月12日、レムチャバン港沖にて、タイ海上警察巡視船3隻、王立タイ警察航空隊航空機1機、タイ港湾局巡視船2隻、海上保安庁巡視船「りゅうきゅう」及び同搭載機MH619、同搭載警救艇、被害想定船としてチャーターされた貨物船1隻の合計船艇8隻、航空機2機で実施されました。
 訓練内容は、タイ沿岸公海上を航行中の貨物船「HARIN号」が海賊に襲撃されたとの想定で、被襲撃通報をタイ海上警察エマージェンシーセンターが受信、同センターがタイ関係機関及び海上保安庁に情報を伝達、その後、海上保安庁が巡視船「りゅうきゅう」を派遣し、海上警察及び港湾局と連携し被襲撃船及び救命艇から計6名を救助するまでの諸作業を実施するものでした。訓練は、3機関の船艇に訓練調整官を互いに派遣のうえ実施したこと等から、初めての連携訓練であったにもかかわらず、スムーズに進行し無事終了しました。
 日本の海上保安庁巡視船のタイ訪問ははじめてとのことでしたが、タイ側の海賊対策への関心は高く、これまでに日本が講じて来た海賊対策へ積極姿勢を高く評価するとともに、「りゅうきゅう」の滞在中は極めて友好的で、かつ「りゅうきゅう」側も訓練のみならず他海上警備機関間の関係強化を目指した友好活動にも限られた人員をフル稼働させ、当初の目的を十分に達したと考えられます。
 今回の連携訓練に参画したタイ海上警察職員の中に、昨年実施された日本財団の招聘事業で訪日し、日本の海上保安庁で研修を受けた方がおり、今回連携訓練の企画立案、巡視船の受入準備に中心的役割を果たしていました。このような人的交流の必要性、重要性を痛感するとともに、確実に実を結びつつあることを実感しました。
 今後は、これら近隣諸国と構築した良好な関係を維持し、海賊対策等具体的な業務に結び付けていくことが肝要かと考えます。
 なお、巡視船「りゅうきゅう」はタイでの連携訓練終了後、帰国の途につきましたが、昨年末に発生した不審船事件に休む間もなく出動したとのことです。
 
第8節 ハイジャック事件における船舶位置自動通報装置の効果
 
 6月19日、マレーシアポートディクソンを出港し、東マレーシアのラブアン港向け航行中のインドネシア貨物船「Selayang」号(4,050総トン、所有者Petrojaya Marine Sendirian Bhd (Singapore)、運航者Shell Malaysia、軽油3,500トン積載、インドネシア乗組員17名乗組)がマラッカ海峡でハイジャックされました。
 本事件は、その約1週間後の6月27日、インドネシア海軍及び海上警察が海賊を逮捕する結末を迎えることになりますが、それに至るまでの過程は、これまでのハイジャック事件とは様相を異にするものでした。
 それは、同船には船舶位置自動通報装置が装備されていたことから、ハイジャックされた後も同船の位置がリアルタイムで把握され、事件解決に決定的な役割を果たしたからです。
 具体的な装置名や同船の航跡は公表されていませんが、関係者によれば同船はシンガポール海峡へ入る直前(イユ・クチル沖)に襲撃され、当初予定されていた航路を大きく南に逸れ、ボルネオ島の南沖合いを経由して東方へ向かい、フィリピンへ抜ける針路を取っておりました。
 しかしながら、船主から同船の正確な位置を入手していたIMB海賊情報センターが、インドネシア当局へ位置情報を通報し続けた結果、遂にバリクパパンの北東約65海里のサマリンダ沖でインドネシア海軍及び海上警察が取り押さえたものです。インドネシア海上警察は、大小8隻の高速艇とヘリコプターを使用したとのことです。
発見された当時、同船の船名は「Wang Yu」と変えられていたとのことです。
 当時乗船していたインドネシア人海賊10名は全員逮捕されるとともに、当時まだ船内にいたインドネシア人乗組員17名全員が無事保護されました。積荷の軽油もまだ手がつけられていない状態で発見され、同船はインドネシア海軍によりバリクパパン港まで曳航されています。
 現在、逮捕された海賊の取り調べが続けられているということですが、報道によれば、同船は積荷である軽油を売却するためにフィリピンへ向かっていたとのことです。
 同船の位置が詳細に把握されているにもかかわらず、同船の発見逮捕まで約8日間という日数を要したことは、今後の課題として検討すべき事項と考えられますが、船舶位置自動通報装置の威力の高さが改めて認識される結果となりました。
 







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