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第3節 マレーシア海事執行調整センター
 
 マレーシア海事執行調整センターは、マレーシアにおける海上法令執行機関(海上警察、税関、入管、漁業省、海軍)の調整機関として位置付けられ、またこれまでの国際海賊対策会議等においても、マレーシアにおける海事法令執行機関を代表する立場で積極的に発言しています。
 
1 概要
 「マレーシア海上執行調整センター」(MECC: Maritime Enforcement Coordination Center)は、マレーシア首相府国家安全保障局に所属する組織です。
 本部はクアラルンプールの北約200Kmの都市ルムットに所在しています。ルムットは、マレーシア海軍本部基地のある都市で、MECCは海軍基地の一角に設置されています。
 MECC所長は、マレーシア海軍からの出向者です。
 
2 役割
 役割は、収集した海上治安に関係する情報を、海上警察、税関、入管、漁業省、海軍等関係組織に情報提供することとされています。
 
3 施設、装備
 MECCは、船艇、航空機等の実働部隊を有していません。
 施設としては、クラン及びジョホールに設置されているマレーシア船舶交通情報センター(ポートクランVTIS、ジョホールVTIS)(※1)にMECC運用卓を設置し、海上警察、海軍職員を常駐させ、マラッカ海峡における海上治安に関する情報を収集しています。
 さらに、MECC本部にポートクランVTIS、ジョホールVTISとリンクする集中情報センターを設置しています。なお、MECCとしては、マレーシア船舶交通情報提供システム(VTIS)用に設置された8つのレーダーサイトとは別に、MECC用としてランカウイ島にレーダーサイトを設置運用しています。
(※1)マレーシア船舶交通情報センターは、マラッカ海峡、特に分離通航路における船舶交通の安全確保、強制船位通報制度の運用を目的として1998年12月から運用を開始している施設。マラッカ海峡に沿って、8つのレーダーを設置、ポートクランとジョホールに集中管理センターを設置し、レーダー映像による船舶交通の監視、情報提供、航行中船舶との無線交信等を実施している。
 
4 職員
 職員は92人〜100人。
 
5 インドネシアとの協力
 マラッカ海峡における海上治安に関するインドネシアとの協力関係については、インドネシアのビンタン島タンジュン・ピナンに設置されている「GUSKAMLABAR」(グスカムラバ)という組織がマレーシアMECCのカウンターパートナーとなっています。
 GUSKAMLABAR(グスカムラバ)とは、マレーシアMECCのインドネシア版で、海軍、海上警察、沿岸警備局、税関、入管、漁業監督省等の海上治安関係組織が参画しています。
 年1回の会合をそれぞれ交代で実施し、マラッカ海峡における海賊問題、海上治安問題等について話し合う他、海上法令執行機関間における合同訓練を実施しています。
 
MECC所長と意見交換、情報交換する
当事務所志村所長
 
 
MECC正門
 
第4節 IMO・国連における海賊対策の動向
 
1 IMOの動向
(1)IMOによる海賊統計
 国際海事機関(IMO)が加盟各国からの報告に基づき作成した海賊統計は以下のとおりになっています。
(1)2000年に発生した海賊及び武装強盗件数(以下、単に「海賊件数」という。)は471件(72人死亡、129名負傷、2隻ハイジャック、3隻行方不明、1隻破壊)。
 1999年の同期間に比べ162件52%の増加を示している。
(2)IMOが海賊統計を取り始めた1984年から本年(2001年)5月末までに発生した海賊等件数の累計数は2,309件。
(3)地域別にみると、
 
地域 1999 2000 増減
地中海 4 2 -2
西アフリカ 36 33 -3
マラッカ海峡 37 122 +85
南シナ海 136 140 +4
インド洋 51 109 +58
東アフリカ 16 29 +13
南アメリカ 29 41 +12
 
(4)ほとんどの事件が船舶の錨泊中又は停泊中に領海内で発生している。
(5)多くの報告において、ナイフや銃を持った5〜10人のグループに襲撃されている。
 
※海賊の実態をより正確に反映する統計が必要との意見がIMOへ多く寄せられているとのこと。これらの意見は、一般的に言われている「海賊行為」を一国の刑事管轄権に属することが明確な「武装強盗行為」と区別すべきという意見と、「既遂」「未遂」を区別すべきという2つの意見が大勢を占める。
 IMOでは、今後のIMO統計はこれらの意見を踏まえて作成することとなった。
 なお、現在、最も活用されているIMB(国際海事局)統計については、既に統計は相当に細分化され区別されているとの姿勢を取っている。
 
(2)IMO海賊対策プロジェクト第2フェーズ
 1998年から開始されたIMO海賊対策事業は、2000年3月、インドのムンバイ地域セミナーでその第1フェーズを完了しましたが、海賊等が依然として多発し、航行安全、海洋環境の脅威となっていることに鑑み、IMOは予算を勘案しつつ第2フェーズを進めることを決定しました。
 先般、その初回ミッションが、日本等の財政援助を得て、インドネシアのジャカルタ及びシンガポールに派遣され、地域セミナーに参加した各国の対応状況、IMOガイドラインの履行状況、海賊の発生状況等の確認を行いました。今後、中南米及び西中央アフリカへ評価ミッションを派遣する予定とのことです。
 IMOでは、「地域間合意」の必要性が今後の方向性として強調されています。
 
(3)海賊捜査コード
 海賊によりハイジャックされた船舶が第3国に入港した際の捜査手続きについての指針を定めた「海賊捜査コード」が次回、IMO総会で決議されることとなりました。
 なお、同総会における決議文のなかで、海賊事件多発海域に責任を有する政府に対して、付近航行入港船舶にとって有効なアドバイスをその周知のためにIMOへ報告することを要請することとなりました。
 
(4)IMO識別番号の船体への表示
 偽船名、偽造書類による船舶の運航を防止することを目的として、IMO識別番号を船体外板及び主隔壁(機関室)に強制的に標記させることが提案されています。
 2006年7月からの強制化を目指し、1974年SOLAS条約11章を改正するというものです。
基本的には多数の国が賛成している模様ですが、SOLAS条約改正に伴う技術的検討の必要性から今後さらに詳細に検討される模様です。
 
2 国連(UNICPOLOS)関連
 2001年5月7日から11日にかけて、ニューヨークにおいて開催された「UNICPOLOS」(United Nations open-ended Inforaml Consultative Process on Ocean and Law of the Sea)会合においては、以下の結論が出されました。
(1)国連総会は、各国に対して海賊及び武装強盗の防止、撲滅を図るため、適切な国際機関等と協力することを求める。
(2)IMOは、STCW条約の下、乗組員に対する海賊及び武装強盗に対する警戒訓練について検討すべきである。
(3)船舶登録の適正化が、海賊事件等に関与している船舶の発見に有効であることを踏まえ、IMOはその実行手段を検討すべきである。
(4)国連総会は、各国に対してローマ条約の批准、武装強盗を訴追するための適切な法体制の整備を求める。
(5)効果的な海賊対策を実行するためには、地域間の協力が必要不可欠である。IMO他各国が地域間協力のイニシアチブを取ることが望ましい。
(6)船舶所有者、乗組員は海賊事件を適切な当局及び旗国を通じてIMOへ通報することが推奨される。
(7)IMOは「海賊捜査コード」を可及的速やかにファイナライズすべきである。
 また、海賊及び武装強盗事件が多く発生している沿岸国は、適切な緊急対応計画を策定すべきである。







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