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2.4 船舶搭載性の検討
 
 本実船実験で使用したプロトタイプ実機(処理水量:100トン/時間レベル)の大きさは、直径100mmのパイプ本体と長さ650m、幅350mm、高さ550mm程度の閉塞対策作動装置で構成されており、また、附属する装置もポンプと操作盤だけである。 このように本装置は、スペースが少なくて済むコンパクトなものである。 この装置を実際の外航商船のバラスティングに使用可能なカスタマイズ実機にするには、処理水量の増加が必要であるが、本装置の場合は、スリット部等の内部構造を変えずにそのままパイプ径を大きくし、ポンプ能力を上げるか新たに追加するだけで処理水量を増やすことができる。 また、本体構造が単純なため、設置個所のスペースに合わせて向きを自由に変えることができ、配管もスペースに合わせて配置することができる。 さらに、新造船のみならず既存船にも搭載が可能であり、これも本装置の特徴の一つである。 これらを考慮すると、本装置は、船舶搭載性に非常に優れていると評価できる。
 
 
 今回のプロトタイプ実機の実験では、日本と北米西岸間を2往復し、延べ12回装置を稼動して実験して約1,200m3のバラスト水を処理した。 その間、故障や不具合は発生しなかった。 また、閉塞対策装置は、スリット部に目詰まりが起きて一定以上の圧力差(処理装置の上流と下流の差)を感知すると、スリット板と衝突板の2枚のプレートが回転し、目詰まり物質を下流側に排除するように設計した。全実験を通して2回作動したが、その作動も順調であった。 このような装置の安定した作動は、内部構造が単純である本装置の特徴のためと考えられる。 これらの結果から、本装置をカスタマイズ化したとしても、安全性は充分に確保されると評価できる。
 運用性については、今回の実験では、バルブ操作やスリット部流速の確保のためのポンプの稼働を手動で行った。 これらを実際のバラスティングに合わせたオートメーション化を図ることで、充分に簡易なオペレーションにすることが可能である。 また、簡単な構造のため、定期的な本体内部の点検及び閉塞対策装置の作動確認以外は、特別なメンテナンスも必要ない。 よって、本装置は運用性においても非常に優れていると評価できる。
 
 
 プロトタイプ・スペシャルパイプの構造は非常に単純であることから、スケールメリットによってイニシャルコストを低く抑えることができる。 図.2.2.3-3に示すように、主要部の構造は、スリット板と衝突板及びそれらが一体となったプレートを回転させるモーター及び制御部は圧力計とCPUで構成されるが、これらの部品はいずれも高価なものではない。 この単純な構造によって、処理後の生物の死骸等の目詰まり物質がスリットを塞いだ場合でも、自動的に圧力差を感知し逆洗浄(スリット板と衝突板を反転させ目詰まり原因物質を下流に流出させて解消する)を行う機構となっている。 このため、スリット板及び衝突板を交換せずに内部の洗浄が随時可能であり、通常運航中のメンテナンスはバラスト配管に付属する、バタフライ弁等に準じたメンテナンスによって、十分にピーク時の機能を維持することができる。 また、スリット板及び衝突板は鋼製の厚い板であり、閉塞対策作動時及びバラスト操作中に起こり得る、急激な圧力変動に対する耐久性も備えている。 これらのことから、長期間の使用においても高い信頼性があるため、入渠時の点検や部品交換等のメンテナンスコストは少額と予想できる。 さらに、本装置の搭載による、システムの特別な操作、作業人員の追加、作業時間の増加等の新たな負担を乗組員に要求することがない。 よって、本装置は経済性にも優れていると評価できる。
 
 
 カスタマイズ実機に関しては、2003年9月に開発メーカー、ポンプメーカーと共同で検討を開始した。 そして、2004年2月に「船舶のバラスト水及び沈殿物の管制及び管理のための国際条約」が採択され、バラスト水排出基準が決定したことを受けて、プロトタイプ実機の構造を軸とした基準に適合するカスタマイズ実機の仕様に関する検討・協議を造船会社、船舶運航会社も含めたチームで本格的に開始した。
 
 
 「船舶のバラスト水及び沈殿物の管制及び管理のための国際条約」のD-2規則バラスト水排出基準に適合する、カスタマイズ実機の製作に向けての課題は、次の2つである。
 
(1)平成14年度の陸上実験において、流量を増やしスリット部の流速を速くすることにより、効果が向上することを確認している。 また、スリット板と衝突板の間隔及びスリット板の形状を変更することにより、剪断応力による効果及びキャビテーションの崩壊効果を増幅できる可能性がある。 このように、スペシャルパイプは、さらなる性能向上が可能である。 厳しい基準となった50μm以上の生物に対して、より高い殺滅効果を得るための改良は、流速と圧力差の安定化及び低エネルギーコストをベースに検討する。
 
(2)病原菌等が繁殖している水域で漲水する場合を想定し、これら微細な生物に対して効率的に効果を発揮する方式(平成11年度事業で高い効果が確認されているオゾン処理法等)について、多くの選択肢をもって柔軟に対応できるように、有効な処理法との複合化システムを検討する。
 
 今後は、これら課題を解決するための陸上実験を行って、カスタマイズ実機の設計に必要な要件を調査し、製作への支援を行う必要があると考える。
 
 
 周知、情報交換活動及び資料の作成としては、4件の資料を作成してシンポジウム等で発表するとともに、合計7件の新聞発表が行われた。 さらに、2004年2月3日にはNHK総合テレビの報道番組「クローズアップ現代」においても紹介された。
 
<シンポジウム等での発表:公表論文は次ページ以降に収録>
(1)船舶バラスト水による生物拡散防止装置の開発:第17回海洋工学シンポジウム、2003年7月17日〜18日(東京)
(2)Progress report on the ‘Special Pipe System’ as a potential mechanical treatment for ballast water: 第2回バラスト水処理研究開発シンポジウム(Globallast)、2003年7月21日〜23日(ロンドン)
(3)Test procedure for evaluation of ballast water treatment system using copepoda as bzooplankton and dinoflagellates as phytoplankton: 第2回バラスト水処理研究開発シンポジウム(Globallast)、2003年7月21日〜23日(ロンドン)
(4)船舶バラスト水の管理:第29回海洋工学パネル、2004年1月30日(東京)
 
<新聞、テレビ等での紹介>
(1)海運水産ニュース、2003年4月8日
(2)バラスト水浄化装置完成:日刊工業新聞、2003年10月2日
(3)日本財団、バラスト水の新型処理技術説明会「スペシャルパイプ」実船搭載:日刊海事通信、2003年11月10日
(4)バラスト水処理に新手法:神戸新聞、2003年11月11日
(5)バラスト水処理に新手法:神戸新聞インターネット版、2003年11月11日
(6)日本海難防止協会、バラスト水の水生生物処理の新技術を開発、商船三井のコンテナ船で実験、神戸で公開:海事プレス、12037号、2003年11月12日
(7)船舶バラスト水問題大詰め:日本海事新聞、2004年2月2日
(8)クローズアップ現代:NHK総合テレビ、2004年2月3日







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