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2.3 実船におけるプロトタイプ実機の効果実証実験
 
 
 本実船実験では、プロトタイプ実機の効果が、以下の2つの基準、I.平成15年7月のMEPC 49において、平成16年2月の外交会議で採択するために最終化された、バラスト水管理条約の附属書D-2規則バラスト水性能(排出)基準(案)及びII.米国ワシントン州における、バラスト水処理技術暫定承認プログラム(平成16年7月1日施行)の暫定的なバラスト水処理基準への適合性の確認、また、運用面(船舶搭載性、運用・安全性、経済性等)における最適条件の検討を目的とした。 平成16年2月に採択されたバラスト水管理条約の基準内容については「2.3.6 プロトタイプ実機の処理効果の評価」で詳述する。
 
I. バラスト水管理条約、附属書D-2規則バラスト水性能(排出)基準(案):
A. サイズ[50μm][80μm]より大きな生物の生存可能数が、[1個/m3]/[100個/m3]未満
B. [50μm]/[80μm]未満で10μmより大きな生物の生存可能数が、[1個/ml][10個/ml][100個/ml]未満
C. 病原性コレラ菌O1及びO139が、1cfu/100ml未満
1cfu/動物プランクトン1g(湿重量)未満
D. 大腸菌が、[250cfu/100ml][500cfu/100ml]未満
E. 腸球菌が、[100cfu/100ml][200cfu/100ml]未満
注)[ ]内は、MEPC49では未決のため、外交会議において継続審議する。
 
II. ワシントン州の暫定バラスト水排出基準:
A. 公海において、バラスト水を交換すること
B. 動物プランクトンの95%以上、植物プランクトン及びバクテリアの99%以上を除去又は不活性化すること
 
 なお、MEPC 49におけるバラスト水性能(排出)基準(案)の未決事項[ ]内に関しては、次の理由によりA及びBの生物サイズは[80μm]、Aの生物濃度は[100個/ml]、Bの生物濃度は[100個/ml]が妥当であると判断し、実験方法を設定した。 また、設定したサイズと濃度は、2003年7月のMEPC 49及び2004年2月の外交会議における日本提案の内容である。
 
<サイズ区分について>
 
(1)バラスト水処理技術の性能は、今後MEPCで継続審議されることになっている型式承認ガイドラインでは、植物プランクトンと動物プランクトン個々に評価する方向で検討されている。 また、米国ワシントン州の基準のように各国独自に検討されている基準も、植物プランクトンと動物プランクトンを別々に評価することが求められている。 さらに、MEPCにおけるサイズ区分の議論も、[80μm][50μm]以上は動物プランクトン、それ未満は植物プランクトンを対象にすることを念頭に行われてきた。 よって、[80μm]または[50μm]のサイズ区分は、より的確に動物プランクトンと植物プランクトンの区分ができるサイズを選定するべきであると判断した。
 
(2)世界中の海域において、主要な動物プランクトンであるカイアシ類のほとんどは80μm以上である。 また、IMO等でバラスト水によって拡散したと報告されている動物プランクトン(ヒトデ、貝、魚類等の幼生含む)もほとんどが80μm以上である。 一方、植物プランクトンには、50μmを超えるものも多くあり、特に細胞がつながる連鎖群体を形成する種類の多くは50μm以上である。 また、赤潮を形成する種類にも50μm以上の種類が多数存在する。 したがって、[50μm]で区分する場合には、動物プランクトンに比べて、生物数が飛躍的に多い植物プランクトンが[50μm]以上の区分に含まれるので、[80μm]の方が両生物群を的確に区分できる。
 
<濃度について>
 
(1)Aの[1個/m3]/[100個/m3]に関しては、[1個/m3]を採用する場合には実験・分析方法上の検出限界(最小単位)を1個/m3以下にする必要がある。 つまり、最低1m3以上の海水を採水し、濃縮過程を経て1m3以上の海水を顕微鏡下で検鏡することになる。 一方、顕微鏡下でプランクトン数を計数できるのは、1回あたり10mlが限度であるため、検出限界(最小単位)を1個/m3以下にするには試料を高濃度に濃縮するか、極めて多くの検鏡回数が必要になる。 このような高濃縮あるいは多回数の分析を行った場合を想定すると、高濃縮の場合は、生物等の物質が密集して正常な状態での生物の存在が困難となり、多回数の場合は、検鏡に長時間を要するため実験直後の状態に比べて増加する生物と死滅する生物が出てくる。 よって、[1個/m3]を用いると、処理性能を正確に評価することが困難になるため、[100個/m3]を採用する方が妥当であると判断した。
 
(2)Bの[1個/ml]/[100個/ml]に関しては、港湾が存在する富栄養海域における一般的な植物プランクトン分布数は103細胞/ml程度であり、増殖期や赤潮形成期には106細胞/mlにも達する。 したがって、基準値の濃度を[1個/ml]未満とすると、処理によって99.9%〜99.9999%、つまり植物プランクトンを約100%処理することが必要になり、現実性を考慮して[100個/ml]を採用する方が妥当であると判断した。
 
 
(1)スペシャルパイプの処理効果の実証
(2)スペシャルパイプの船舶搭載性の検討
(3)スペシャルパイプの運用・安全性の検討
(4)スペシャルパイプの経済性の検討
 
 
 実験構成は次のフローのとおりである。
 
図II.2.2.3-1 実船におけるプロトタイプ実機の効果実証実験構成
 
 
 実験対象船のバラスティングの基本は、次の3点である。
 
(1)バラスティングは、燃料油の消費や補給のタイミング、貨物の揚荷又は積荷のバランス及び荷役の進行状況によって確定する。
(2)バラスティングは、貨物の重量及び積付け位置に応じて、各港湾で漲水と排水を繰り返すことになり、特にトリム調整(船首・船尾喫水の調整)タンク及びヒール(傾きを調整)調整タンク内のバラスト水量は常に変化(一ヶ所の港湾で完全に満水又は空にするとは限らない。)し、起源海水は不特定(複数の港湾の海水が混合する。)となる場合がある。
(3)北米西岸への航海では、最初の寄港地ロサンゼルス港のあるカリフォルニア州の規制に従って、沿岸から200海里以遠で水深2,000M以上の排他的経済水域(EEZ)外での、原則全タンクのバラスト水交換を実施する。
 
 よって、実験は、実際のバラスティング状況に対応して、次のように実施することとした。
 
(1)港湾で空のタンクに漲水する場合(完全に排水して再漲水する場合も含む。)は、港湾での漲水海水(処理前海水)を原水とし、漲水時に1回処理、排水港湾で排水時に1回処理、あるいは漲・排水時両方の2回処理のいずれかを選択する。
(2)港湾でタンク内の残存バラスト水に追加漲水する場合は、追加漲水終了後のバラスト水を原水とし、排水港湾で排水時に1回処理する。
(3)港湾で新たに漲水しない場合は、出港時の既存バラスト水を原水として、排水港湾で排水時に1回処理する。
(4)北米への航海(東京港からロサンゼルス間)では、バラスト水の洋上交換が行われるため、洋上交換後、かつ、排水前(処理前海水)を原水とし、排水港湾(ロサンゼルス)で排水時に1回処理する。
 
 また、バラスト水交換の効果は、次の試料を採水・分析して評価することとした。
○東京港での漲水あるいは既存のバラスト水
○外洋上(太平洋上)での排水バラスト水
○外洋上(太平洋上)での再漲水バラスト水
○北米(ロサンゼルス)での排水海水(排水時処理の処理前海水)







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