6. モーダルシフトに係わる船舶航行上の問題点の調査
(1)“モーダルシフト”の基本理念及び本調査における対象
“モーダルシフト”の考え方が初めて我が国で登場したのは、昭和56年運輸政策審議会答申「長期展望に基づく総合的な交通政策の基本方向」においてであり、この時には、オイルショックを受けて“省資源低公害型物流体系の形成”が目指され、省エネのための施策として“モーダルシフト”が提唱された。また、平成2年運輸政策審議会物流部会答申「物流業における労働力問題への対応方法について」においては、“モーダルシフト”が物流業の労働力不足対策、交通混雑緩和のための施策としても位置づけられた。更に、平成13年7月6日閣議決定「新総合物流施策大綱」並びに平成14年3月19日地球温暖化対策推進本部決定「地球温暖化対策推進大綱」においては、二酸化炭素排出量削減のための施策として位置づけられている。(表−6.1.1)
このように、我が国における“モーダルシフト”の意義については、大きく「物流効率面」、「環境面」、「労働問題面」の三つとして捉えられるが、このうち、本調査においては、「物流効率面」、「環境面」(特に、温室効果ガス(CO2)排出量に焦点を絞った。)の二つを対象として検討を行った。
表−6.1.1 モーダルシフトの理念
|
施策目標 |
根拠 |
モーダルシフト |
省資源低公害型物流体系の形成 |
■昭和56年運輸政策審議会答申 「長期展望に基づく総合的な交通政策の基本方向」 |
物流業の労働力不足対策 交通混雑緩和 |
■平成2年運輸政策審議会物流部会答申 「物流業における労働力問題への対応方法について」 |
温室効果ガス(二酸化炭素)排出量の削減 |
■平成13年7月6日閣議決定 「新総合物流施策大綱」 ■平成14年3月19日地球温暖化対策推進本部決定 「地球温暖化対策推進大綱」 |
|
(2)“輸送コスト”の考え方
本検討における「輸送コスト」とは、荷主の立場における「運送事業者への支払物流費(運賃)」を言うこととする。
物流における「輸送コスト」は、モノの流れの中におけるそれぞれの立場・視点により異なるものである。荷主が運送事業者を利用して貨物を目的地に輸送する最も簡単なモデルにおいて、それぞれの立場・視点による「輸送コスト」の構成は、図−6.1.1のとおりとなる。
(参考文献:「付加価値創造のロジスティクス」苦瀬博仁(東京商船大学教授)著)
図−6.1.1 立場・視点による「輸送コスト」の違い
本検討を進めるにあたり、荒川又は隅田川を利用した舟運により物流事業を行っている3事業者に対してヒアリング調査を実施した。(「2.2 荒川通航船社へのヒアリング」 参照)このヒアリング調査において、各事業者の水上輸送の現状について把握し、本検討における条件設定の基礎資料とした。ヒアリング調査に基づき設定した水上輸送パターン3ケースについて図−6.2.1に示す。
図−6.2.1 ヒアリング調査に基づき設定した水上輸送パターン
本検討においては、「6.2 荒川周辺の物流状況調査」において設定した水上輸送パターン3ケースに対して、それぞれ陸上輸送に転換したケースを想定し、「物流効率面」、「環境面」に及ぼす影響について推計・評価を行った。
推計・評価を行う項目としては、「物流効率面」として「輸送時間」及び「輸送コスト(荷主の立場における支払物流費:「6.1(2)“輸送コスト”の考え方」参照)」を用い、「環境面」としては「ガス排出量」を用いた。この「ガス排出量」については、地球温暖化問題において取り上げられている温室効果ガス※のうち、排出量低減について最も様々な分野で取り組みがなされている“二酸化炭素(CO2)”の排出量を用いることとした。
※温室効果ガス:温室効果ガスとは二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン(HFCs)パーフルオロカーボン(PFCs)六ふっ化硫黄(SF6)の6種類が京都議定書で定義されている。
以上を踏まえ、本検討における条件設定については、表−6.3.1に示すとおりである。
表−6.3.1 モーダルシフトに係る検討の条件設定
(拡大画面:47KB)
|
|
図−6.3.1 陸上輸送のルート設定
表−6.3.2 陸上輸送経路の想定
ルート |
路線名 |
距離 [km] |
速度 [km/h] |
距離の出典 |
速度の出典 |
川崎→住商浮間 |
川崎→1号羽田線 |
4.7 |
25.5 |
住宅地図 |
H11センサス |
1号羽田線 |
13.8 |
33.6 |
H11センサス |
H11センサス |
都心環状線 |
5.0 |
29.0 |
H11センサス |
H11センサス |
6.0 |
24.7 |
H11センサス |
H11センサス |
5号池袋線 |
10.3 |
22.2 |
住宅地図 |
H11センサス |
5号池袋線→住商浮間 |
3.7 |
22.0 |
住宅地図 |
H11センサス |
合計 |
43.5 |
27.3 |
|
|
川崎→三愛石油 |
川崎→1号羽田線 |
4.7 |
25.5 |
住宅地図 |
H11センサス |
1号羽田線 |
13.8 |
33.6 |
H11センサス |
H11センサス |
都心環状線
6号向島線 |
5.0 |
29.0 |
H11センサス |
H11センサス |
10.5 |
19.7 |
H11センサス |
H11センサス |
6号三郷線 |
10.6 |
31.6 |
H11センサス |
H11センサス |
6号三郷線→三愛石油 |
2.4 |
40.0 |
住宅地図 |
規制速度 |
合計 |
47.0 |
29.1 |
|
|
君津→東京製造所 |
君津→館山自動車道 |
1.7 |
80.0 |
住宅地図 |
規制速度 |
6.1 |
40.0 |
住宅地図 |
規制速度 |
館山自動車道 |
8.2 |
92.2 |
H11センサス |
H11センサス |
1.8 |
92.6 |
H11センサス |
H11センサス |
7.0 |
96.9 |
H11センサス |
H11センサス |
10.0 |
93.5 |
H11センサス |
H11センサス |
7.5 |
94.7 |
H11センサス |
H11センサス |
東関東自動車道 |
0.7 |
74.1 |
H11センサス |
H11センサス |
6.9 |
94.8 |
H11センサス |
H11センサス |
1.0 |
94.7 |
H11センサス |
H11センサス |
湾岸線 |
8.9 |
59.7 |
H11センサス |
H11センサス |
6.2 |
54.8 |
H11センサス |
H11センサス |
9号深川線 |
5.3 |
26.0 |
H11センサス |
H11センサス |
都心環状線 |
6.0 |
24.7 |
H11センサス |
H11センサス |
5号池袋線 |
13.6 |
22.2 |
住宅地図 |
H11センサス |
5号池袋線→東京製造所 |
2.5 |
23.5 |
住宅地図 |
H11センサス |
合計 |
93.4 |
63.6 |
|
|
|
|
注) |
「速度」は、「道路交通センサス一般交通量調査(平成11年度、国土交通省)」によるものであり、ピーク時(交通量が最大となる時間帯、すなわち、概ね朝・夕の最も渋滞の激しい時間帯)の平均速度である。 |
表−6.3.3 距離帯・貨物重量別トラック運賃原単位(単位:円)
|
50km |
100km |
200km |
500km |
1000km |
100kg |
1,276 |
1,321 |
1,526 |
2,053 |
2,874 |
1t |
7,345 |
8,095 |
10,192 |
15,654 |
24,517 |
2t |
11,674 |
13,557 |
18,618 |
30,086 |
48,088 |
4t |
14,923 |
23,098 |
33,246 |
59,619 |
103,503 |
10t |
22,464 |
34,745 |
50,034 |
90,464 |
157,419 |
|
|
出典:「物流サービスに係わる内外価格差調査報告書」平成11年3月運輸省 |
図−6.3.2 輸送手段ごとの二酸化炭素排出量原単位
出典:「環境と運輸1998」交通エコロジー・モビリティ財団;運輸省監修 |
|