日本財団 図書館


第1章 知的障害者の居住環境をとりまく動向及び取組
1 知的障害者をとりまく社会的動向
(1)ノーマライゼーション社会、地域福祉社会の進展
 国では、「障害者基本法」の制定(平成5年)をはじめとして、「障害者プラン−ノーマライゼーション七か年戦略−」の策定(平成7年)、「障害者施策推進本部」の設置(平成13年)等を行い、地域社会における障害者の共生及び自立等を目標とした、ノーマライゼーション社会、地域福祉社会の実現へ向けた取組の拡充を図ってきた。平成15年度からは、新たに「新障害者基本計画及びその重点施策実施5か年計画(新障害者プラン)」を策定し、「国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支えあう『共生社会』の実現」を目標に、多様なニーズに対応する生活支援体制の整備等、利用者本位の考え方に立った施策の拡充に努めている。
 一方、千葉県では、健康福祉の基本理念である「千葉・健康福祉の5原則」((1)性別、年齢、障害の有無や種別に関わらない、(2)全ての人が人間として個人として尊重される、(3)一人ひとりの状況とニーズに応える、(4)家庭・地域での生活を基本とする、(5)健康で生きがいをもって自立して生活できる)に基づき、「千葉県・健康福祉戦略モデル(チャレンジ)構想」を策定(平成14年)している。同構想では、保健福祉施策の企画段階から当事者を含めた県民と行政が協働し、保健・医療・福祉に関する施策を対象者横断的に展開する「健康福祉千葉方式」を提唱し、この手法により、現在「千葉県地域福祉支援計画」の策定作業が進められている。
 
(2)支援費制度の導入と知的障害者の生活援助事業の拡充
 わが国の社会福祉の基本的あり方を見直す社会福祉基礎構造改革の一環として、平成15年度から、障害者福祉制度が、従来の措置制度から利用契約制度、支援費制度へと大きく転換した。
 このため、国・地方公共団体においては、障害者の利用契約を支援するための相談支援事業や地域福祉権利擁護事業などの充実が図られるほか、知的障害者の苦情解決やサービス評価、情報開示など、施設・事業者によるサービスの質向上のための努力、地域福祉の推進、障害者の地域生活支援の重視、地方分権の推進、市町村福祉の確立、市町村障害者計画に基づくサービス基盤の整備などが推進されることが望まれている。
 こうしたなかで、千葉県では、「千葉県における知的障害者地域生活支援システムの構築に向けて」(平成15年3月)を策定し、在宅で暮らす知的障害者の総合的な生活援助のあり方について提言を行った。同提言では、知的障害者が地域社会で自立した生活を確保できるよう、地域生活援助機能、地域生活支援ネットワーク推進機能を有した中核地域生活支援センターを障害保健福祉圏域内に整備し、在宅の知的障害者の支援システムを構築することが必要であるとしている。
 
(3)知的障害者の居住場所の選択と生活ホーム・グループホームの整備
 知的障害者の地域生活支援が、国、地方公共団体で拡充され、また、グループホームの入居要件が緩和されたこともあり、重度化・高齢化した人も含め、知的障害者が自らの意思により居住場所が選択できる環境が構築されつつある。
 国では、「新障害者プラン」において今後5ヵ年間(平成15年〜19年度)に、全国に新たに3万400人分のグループホームを整備することを決め、知的障害者の在宅場所としてのグループホームの期待・役割が高くなってきている。
 また、千葉県の独自の事業である生活ホームについては、グループホームに先行して、その整備が進められてきたが、今後はグループホーム制度との整合性、居住環境の向上など、新たな課題へ対応しつつ、その整備を進めていくことが求められている。
 
(4)施設サービスの再構築
 知的障害者入所施設は、適切な指導・訓練を通じ、入所者の社会復帰を図ることが基本的な機能・役割とされている。千葉県においても、平成15年現在、知的障害者入所施設61ヵ所が整備され、約3,400人の知的障害者が入所し、指導・訓練を受けている。
 しかし、全国の知的障害者入所施設の多くでは、入所者が地域生活へ移行するケースは少なく、長期の生活施設として機能している現状があり、千葉県においても、10年以上の長期入所者の占める割合が高い。また、在宅の知的障害者についても、父母など同居している家族が、退職・高齢・死亡などの理由で支援・援助が困難になった場合に、「ついの住みか」として知的障害者入所施設の利用を希望するケースが多い。
 平成14年12月に策定された国の「障害者基本計画」(新障害者プラン)では、基本的な方針(考え方)として、「障害の有無にかかわらず、国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う共生社会」を目指すこととし、障害者施設についても「施設サービスの再構築」として、(1)施設等から地域生活への移行、(2)施設の在り方の見直しの2つを掲げ、「本人の意向を尊重し、入所者の地域生活への移行を促進」し、「『障害者は施設』という認識を改め」、入所施設は地域の実情を踏まえて真に必要なものに限定、障害の重度化や高齢化に対応する専門的ケアの確立、施設の一層の小規模化、個室化を図るなど、施設サービス体系の大きな見直しを打ち出している。
 また、国とは別に地方公共団体においても、知的障害者入所施設のあり方の見直しを進めるところが出てきており、宮城県では、宮城県福祉事業団が運営する知的障害者の入所施設「船形コロニー」の入所者485人全員を、平成22年までにグループホームなどでの地域生活に移行させるという「『施設解体』みやぎ宣言」を発表している。
2 知的障害者の現状
(1)全国的動向
ア 知的障害者数
 平成12年現在、全国の在宅の知的障害児・者は約32万9,000人で、その内訳は18歳未満が約9万4,000人、18歳以上が約22万1,000人(年齢不詳1万4,000人)となっている(厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査」平成12年9月1日現在)。
 一方、施設入所者は約13万人で、内訳は18歳未満が約9,000人、18歳以上が約12万1,000人となっている。
 
図表1-1 知的障害児・者の数(平成12年)
(単位:人)
区分 総数 在宅者 施設入所者
総数 459,100 329,200 129,900
18歳未満
18歳以上
不詳
102,400
342,300
14,400
93,600
221,200
14,400
8,800
121,100
-
(注)
施設入所者とは、知的障害児施設、自閉症児施設、重症心身障害児施設、国立療養所(重症心身障害児病棟)、知的障害者更生施設、知的障害者授産施設の各施設に入所している知的障害児・者
資料:
在宅は厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査」(平成12年9月1日)、施設入所者は厚生労働省「社会福祉施設等調査」(平成12年10月1日)による
 
 このうち、年齢別の在宅者数をみると、20歳未満の在宅者数は少なく、20歳以上になると増加し、60歳以上になると再び減少する。在宅者が最も多い年代は20代の約8万人で、在宅者全体の24.2%を占めている。
 
図表1-2 年齢別にみた在宅の知的障害児・者の数(平成12年)
(単位:人)
資料:厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査」(平成12年9月1日)
 
 次に、在宅者の障害の程度をみると、「最重度」「重度」が41.9%、「中度」「軽度」が45.8%となっている。18歳未満の「最重度」「重度」は51.9%、「中度」「軽度」は38.6%、18歳以上の「最重度」「重度」は39.1%、「中度」「軽度」は、49.5%となっており、18歳未満の「最重度」「重度」の占める割合が大きい。
 
図表1-3 年齢別にみた在宅の知的障害児・者の性及び障害の程度(平成12年)
(単位:人、( )内は%)
区分 総数 障害の程度
不詳 最重度 重度 中度 軽度 不詳
総数 329,200
(100.0)
184,500
(56.0)
130,900
(39.8)
13,800
(4.2)
45,500
(13.8)
92,600
(28.1)
77,600
(23.6)
73,200
(22.2)
40,300
(12.2)
18歳未満 93,600
(100.0)
58,900
(63.0)
34,100
(36.4)
600
(0.6)
17,800
(19.1)
30,700
(32.8)
17,800
(19.1)
18,300
(19.5)
9,000
(9.6)
0〜4歳
5〜9歳
10〜14歳
15〜17歳
12,400
30,100
33,100
18,000
7,800
19,600
20,000
11,400
4,600
10,400
12,600
6,400
-
-
400
200
2,400
5,000
7,200
3,200
3,000
10,800
11,200
5,600
1,600
7,400
5,800
3,000
3,000
4,600
6,200
4,400
2,400
2,200
2,600
1,800
18歳以上 221,200
(100.0)
124,000
(56.0)
94,600
(42.8)
2,600
(1.2)
26,700
(12.1)
59,700
(27.0)
57,400
(25.9)
52,100
(23.6)
25,300
(11.4)
18〜19歳
20〜29歳
30〜39歳
40〜49歳
50〜59歳
60〜64歳
65歳以上
15,600
79,800
50,700
37,700
22,500
5,600
9,200
10,000
45,500
27,700
21,300
12,400
2,600
4,400
5,600
33,500
22,100
16,200
9,600
3,000
4,600
-
800
1,000
200
400
-
200
2,200
12,000
5,600
3,400
2,000
800
600
4,400
24,100
12,000
9,400
6,200
1,400
2,200
3,400
19,000
12,800
9,800
6,800
1,800
3,600
4,800
18,000
13,200
9,800
4,200
1,000
1,000
800
6,600
7,000
5,200
3,200
600
1,800
不詳 14,400
(100.0)
1,600
(11.1)
2,200
(15.3)
10,600
(73.6)
1,000
(6.9)
2,200
(15.3)
2,400
(16.7)
2,800
(19.4)
6,000
(41.7)
資料:厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査」(平成12年9月1日)
 
イ 知的障害者の生活の状況
(1)生活の場所
 「知的障害児(者)基礎調査」(平成12年9月1日現在)から、在宅の知的障害者の生活場所をみると、「自分の家やアパートで暮らしている」が86.9%を占めている。これに対して、「グループホーム」は3.7%、「会社の寮」は0.5%、「通勤寮」は0.2%となっている。
 
図表1-4 生活の場
(単位:人、( )内は%)
区分 総数 自分の家や
アパート
会社の寮 グループ
ホーム
通勤寮 その他 不詳
総数 329,200
(100.0)
(86.9) (0.5) (3.7) (0.2) (7.5) (1.3)
18歳未満 93,600
(100.0)
(95.3) (-) (-) (0.4) (3.4) (0.9)
18歳以上 221,200
(100.0)
(84.2) (0.7) (5.4) (0.1) (8.3) (1.2)
不詳 14,400
(100.0)
(73.6) (-) (-) (-) (20.8) (5.6)
資料:厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査」(平成12年9月1日現在)
 
(2)家族
 世帯の同居者については、親と同居する人が全体の79.6%を占めている(「親、兄弟姉妹と同居」(47.0%)と「親と同居」(32.6%)の計)。これに対して、「一人暮らし」は3.5%、「夫婦」は1.8%となっており、親から独立して生活をする人の割合は5.3%となっている。
 
図表1-5 生活同居者
(単位:人、( )内は%)
区分 総数 ひとりで 夫婦で 親と 親、兄弟姉妹と 兄弟姉妹と 友だち等と その他 不詳
総数 329,200
(100.0)
(3.5) (1.8) (32.6) (47.0) (3.8) (4.0) (6.1) (1.1)
18歳未満 93,600
(100.0)
(-) (0.2) (20.6) (74.7) (0.2) (0.4) (3.0) (0.9)
18歳以上 221,200
(100.0)
(5.1) (2.4) (37.3) (36.4) (5.4) (5.4) (7.0) (1.0)
不詳 14,400
(100.0)
(2.8) (2.8) (40.3) (30.6) (2.8) (4.2) (12.5) (4.2)
資料:厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査」(平成12年9月1日現在)
 
(3)将来の生活意向
 将来の生活意向については、親との同居を希望するのは、知的障害者本人が37.5%、父母が46.7%となっており、父母側での同居意向が高くなっている。これに対して、ひとりでの生活を希望するのは、知的障害者本人が12.5%、父母が1.7%で知的障害者自身の自立・独立意向が強い。また、グループホームの利用については、知的障害者が12.5%、父母が14.1%で、1割以上の知的障害者や父母が利用の意向を有している。
 
図表1-6 記入者別にみた将来の生活の場の希望
(単位:人、( )内は%)
区分 総数 ひとりで 夫婦で 親と 兄弟姉妹と 友達など グループホーム 施設 その他 不詳
総数 329,200
(100.0)
(6.3) (11.6) (33.2) (8.3) (1.6) (11.5) (8.6) (6.8) (12.2)
記入者 本人 3,200
(100.0)
(12.5) (6.3) (37.5) (6.3) (12.5) (12.5) (-) (6.3) (6.3)
本人とその他 218,900
(100.0)
(7.7) (13.7) (29.6) (9.1) (1.6) (11.4) (8.2) (5.6) (13.2)
父母 81,200
(100.0)
(1.7) (8.4) (46.7) (2.5) (1.7) (14.1) (7.9) (7.2) (9.9)
親族 13,400
(100.0)
(3.0) (-) (16.4) (32.8) (-) (1.5) (16.4) (13.4) (16.4)
その他 12,400
(100.0)
(12.9) (8.1) (25.8) (8.1) (-) (6.5) (14.5) (17.7) (6.5)
資料:厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査」(平成12年9月1日現在)
 
(2)千葉県の動向
ア 知的障害者数
 千葉県の知的障害児・者数は、平成15年3月末現在、約2万2,000人(知的障害名簿搭載者数)で、このうち、18歳未満の知的障害児は6,000人、18歳以上の知的障害者は1万6,000人となっている。千葉県の知的障害者数は、増加する傾向にあり、平成13年以降は2万人を超えている。
 
図表1-7 千葉県の知的障害者数の推移
 
(注)
各年とも3月31日現在、単位:人。
資料:
千葉県障害福祉課
 
イ 知的障害者の生活状況
 18歳以上の知的障害者の生活場所をみてみると、在宅で生活をする人は約1万2,600人、知的障害者入所施設(知的障害者更生施設、知的障害者授産施設等)で生活をする人は約3,400人となっており、在宅で生活する知的障害者が全体の約8割を占めている。
 在宅者の内訳をみると、持家・賃貸住宅等の自宅に居住する人が約1万2,000人、福祉系住宅に居住する人が約600人となっており、自宅に居住する人は、ほとんどが親等の家族と同居している人で占められ、単身又は夫婦等で生活する人の割合は極めて少ないと考えられている。家族と別居し独立した生活の場を確保している知的障害者は、主として福祉系住宅の入居者で、現在、千葉県内には知的障害者生活ホーム、知的障害者グループホーム、知的障害者通勤寮、知的障害者福祉ホームの4施設がある。
 
図表1-8 在宅・施設別にみた知的障害者数(平成14年度)
(注)
平成15年3月31日現在
資料:
千葉県障害福祉課
 
図表1-9 知的障害者施設の施設数及び定員状況(平成14年度)
区分 施設数
(ヶ所)
定員(人)
入所 通所
知的障害者更生施設
 うち知的障害児施設と併設
 うち管外施設
知的障害者授産施設
知的障害者小規模通所授産施設
知的障害者通勤寮
知的障害者福祉ホーム
知的障害者デイサービスセンター
心身障害者福祉作業所
心身障害者小規模福祉作業所
知的障害者グループホーム
知的障害者生活ホーム
78
1
4
31
5
1
2
6
62
36
26
70
3,071
-
-
384
-
40
20
-
-
-
119
311
1,450
-
-
926
80
0
0
80
1,267
431
0
0
合計 317 3,945 4,234
(注)
平成15年3月31日現在
資料:
千葉県障害福祉課







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION