(3)平成16年度における「三位一体の改革」の姿
ア 予算編成時における経緯
平成15年7月29日に「16年度予算の全体像」が経済財政諮問会議において、竹中大臣から提案され、経済財政諮問会議で合意された。その中で、「16年度予算の骨格」として、三位一体の改革に対する基本的な取組姿勢が明示されている。また、同日に片山総務大臣から「平成16年度予算における国庫補助負担金の改革等について」が各大臣に通知されるとともに、経済財政諮問会議において提示され、具体的に説明された。
その中身としては、補助金の基本的な見直しの考え方、特に見直すべき項目のリストが示されている。
8月1日には「平成16年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」、いわゆる概算要求基準について閣議了解されている。この中で、概算要求基準の考え方として、「基本方針2003」を踏まえ、平成15年度に続き歳出改革の一層の推進を図ることとし、一般会計歳出及び一般歳出について実質的に平成15年度の水準以下に抑制することを目標に、歳出全般にわたる徹底した見直しを行い、歳出の抑制と所管を超えた予算配分の重点化・効率化を実施するとともに、国債発行額についても極力抑制するとされている。具体的には、公共投資関係については、前年度当初予算における公共投資関係費に相当する額に100分の97を乗じた額の範囲内に抑制することとし、各省庁の要望については、各所管ごとに、前年度当初予算における公共投資関係費に100分の97を乗じた額を算出した上で、その額に100分の120を乗じた額を上限とすることとしている。裁量的経費については、前年度当初予算における裁量的経費に相当する額(科学技術振興費に相当する額を除く。)に100分の98を乗じた額に、前年度当初予算における裁量的経費に相当する額のうち科学技術振興費に相当する額を加算した額を上限として縮減を図ることとし、各省庁の要望については、各所管ごとに、前年度当初予算における裁量的経費に相当する額(科学技術振興費に相当する額を除く。)に100分の98を乗じた額に、前年度当初予算における裁量的経費に相当する額のうち科学技術振興費に相当する額を加算した額を算出した上で、その額に100分の120を乗じた額を上限とすることとしている。三位一体の改革の関連では、補助金についての見直しの考え方として、その取組方針が記述されており、特に地方公共団体に対して交付される国庫補助金については5%カットということが明示的に示されている。また、地方財政との関係では「基本方針2003」に沿って、歳出規模の抑制と交付税総額の抑制の方向が示されており、「基本方針2003」が予算編成作業の中にも具体的に反映された形となった。
その後、地方においても三位一体の改革に対する期待の高まりがみられ、8月27日の21世紀臨調の緊急提言を皮切りに、9月の知事会長私案、10月9日には指定都市からの提言、23日には全国市長会から、11月18日には全国知事会が提言をとりまとめている。これら提言はどれも税源移譲を前提とし、生活保護費負担金などの国が責任を果たすべきものを除き、ほとんどの国庫補助負担金を原則として廃止すべきであるとしている。これら地方の声を受け、11月18日の経済財政諮問会議において、総理から、「3年間で4兆円の補助金改革であるから、初年度の平成16年度は1兆円の補助金の廃止・縮減等を行うべきである。」との指示が出され、21日の閣僚懇談会の場で各閣僚にその旨の指示が出され、翌22日には内閣官房から1兆円の改革を達成するために、各省庁に対し削減目標が示された。これに対し、各省庁からは、義務教育費国庫負担金等のうちの退職手当・児童手当の一般財源化、生活保護費負担金及び児童扶養手当給付費交付金の国庫負担率の引き下げなど、地方の自由度を全く拡大しないものが提出されるなど、政府部内での調整は困難を極めたが、財務大臣、総務大臣と関係省庁の大臣との折衝等を経て、12月12日に16年度における国庫補助負担金の改革案及び税源移譲の実施と特例的な交付金の創設が政府・与党の合意としてとりまとめられたのである。また、税源移譲についても議論が進められ、12月17日の与党税制協議会の大綱において所得譲与税の創設が決定された。
一方、地方交付税については、12月18日の総務大臣、財務大臣折衝により、16年度地方財政対策が決着し、地方財政計画の抑制とそれを通じた交付税総額の抑制について決定したところである。
こうした、それぞれの対策が具体的に定まり、12月19日の政府与党協議会の了承を経て、12月24日にはこれらも織り込んだ平成16年度の予算案が閣議決定されたところである。
イ 改革の内容
(1)国庫補助負担金の改革
国庫補助負担金の改革については、総額で1兆円規模の廃止・縮減等が行われることになった。内訳としては、公共事業関係の国庫補助負担金の廃止・縮減等が4,527億円(「まちづくり交付金」に振り替えられた1,330億円を含む)、児童保護費等負担金(公立保育所運営費)等の一般財源化が2,440億円、義務教育費国庫補助負担金等(退職手当・児童手当)の暫定的一般財源化が2,309億円、その他の国庫補助負担金の廃止・縮減等が1,000億円程度となっている。なお、義務教育費国庫補助負担金等のうち退職手当及び児童手当に係る部分については、今後、その所要額が大きく増加することが見込まれること等から、暫定的一般財源化という位置づけになっている。
(2)税源移譲等
平成18年度までに所得税から個人住民税への本格的な税源移譲を実施することとし、それまでの間の暫定措置として、平成16年度に一般財源化される児童保護費等負担金(公立保育所運営費)等分2198億円、平成15年度に三位一体の改革の「芽出し」として行われた一般財源化分のうち国負担とされた2,051億円、合わせて4,249億円を所得譲与税として税源移譲することとしている。所得譲与税は、使途を限定しない一般財源として、人口により都道府県及び市町村(特別区を含む。)へ譲与するものである。
また、暫定的に一般財源化される義務教育費国庫負担金等(退職手当・児童手当)については、税源移譲予定特例交付金を設け、税源移譲までの各年度の退職手当等の支給に必要な額を確保することとしている。税源移譲予定特例交付金は地方特例交付金の一つとして法律上位置づけられた上で、都道府県を対象にして、原則人口を基準として交付することとしている。
(3)地方交付税
「基本方針2003」に沿って、以下のように地方財政計画の歳出を前年度比1.8%減に抑制し、地方交付税の総額を前年度比6.5%減の16兆8,861億年に抑制している。
ア 地方財政計画計上人員について、教員、警察官等の増員を盛り込んだうえで、全体として1万980人を純減。
イ 一般行政経費(単独)について、市町村合併の推進のための経費、治安維持に要する経費を織り込んだ上で、自助努力による効率的な行財政運営を前提に前年度に比し0・3%減の11兆1,500億円程度に抑制(平成16年度の国庫補助負担金の一般財源化に伴う振替計上分6,200億円は、ここから除かれており、これについては、別立て計上。)。
ウ 投資的経費(単独)については、平成15年11月28日の経済財政諮問会議で、麻生総務大臣から表明された「三位一体の改革について」を踏まえ、平成17年度までに景気対策のための大幅な追加が行われる以前の水準を目安の抑制することとし前年度に比し9.5%減の13兆4,700億円程度を計上することとしている。
なお、地方交付税の算定の改革については、地方団体の自主的、自立的、効率的な財政運営を促す方向で、以下の措置を講じることとしている。
ア 都道府県分の補正係数については、高等学校費(生徒数)、特殊教育諸学校費(児童及び生徒の数・学級数)の種別補正、徴税費の密度補正などを廃止。
イ 都道府県分の公共事業等にかかる事業費補正については、臨時河川等整備事業債(一般分)について、平成16年度許可債から事業費補正の適用を廃止(継続事業については、平成17年度実施分まで経過措置を講じる)。
ウ 平成14年度より実施している市町村分の段階補正の見直しを引き続き継続。
エ 単位費用の算定に当たり、ごみ収集等についてアウトソーシング後の経費を算定の基礎とする見直しを段階的に進める。
(4)今後の三位一体の改革
三位一体の改革は平成18年度を改革目標年度としており、今後も引き続き議論が進められることになっている。実質的な改革初年度である、平成16年度予算においては、見直し対象となった国庫補助負担金の見直し内容、税源移譲額及び税源移譲の方法、交付税改革のあり方等について、様々な議論が巻き起こった。こうした議論を踏まえつつ、今後も引き続き三位一体の改革に取り組むこととなるが、三位一体の改革があくまでも地方分権の推進ということを目的とするものであり、その観点から、地方の歳出・歳入の自由度を高め、真の地方自治の確立につながるように対応していくことが、何よりも重要であろう。
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