(2)「6.『国と地方』の改革」の内容
「6.『国と地方』の改革」の内容は、次のとおりとなっている(図表2-3-7参照)。
ア 「改革のポイント」について
この「6.『国と地方』の改革」は、最初に「改革のポイント」として、国と地方の改革、三位一体の改革の基本理念に言及している。この「改革のポイント」は、内容的には2つのものから構成されている。一つは、「地方分権の推進」であり、もう一つが「国・地方を通じた行財政改革の推進」である。「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」はその名が示すとおり、全体が行財政改革的な考え方を底流としているなかで、「地方分権の推進」を明確に記述している点で異彩を放っている。この点は、小泉総理の発言にも「官から民へ」「国から地方へ」という発言が多いが、ここにもみられるように、地方分権の理念の重要性を踏まえて「改革のポイント」部分が構成されているということである。
イ 「三位一体の改革によって達成されるべき『望ましい姿』」について
「改革のポイントで」示された基本理念を踏まえ、「望ましい姿」として、次の3つの姿を掲げている。
I 地方の一般財源の割合の引き上げ
II 地方税の充実、交付税への依存の引き下げ
III 効率的で小さな政府の実現
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Iは、使途の特定されていない財源である一般財源の割合を引き上げていくことが示されている。
IIでは、税源移譲等による地方税の充実確保を図るとともに、一般財源ではあるが国への依存財源である交付税総額を抑制すること等により、地方の一般財源に占める地方税の割合を着実に引き上げることとしている。つまり、IとIIにより、まず地方の一般財源の割合を引き上げ、その中でも地方税の割合を引き上げることが記されている。
IIIは、行財政改革から演繹されてくる部分である。近年、景気の低迷に伴う地方税収の減、さらには地方税においても減税が実施されていること等から、地方の財源不足は多額に上っており、平成11年度以後10兆円前後の通常収支の不足が生じている状況となっている。平成15年度においては17.4兆円もの財源不足が生じるところとなっている。この状況に対し、国・地方を通じた財政健全化を図ることにより、国・地方トータルのプライマリーバランスを、まずは2010年代初頭までに黒字化することを目指し、さらにその先に、地方財源不足の解消を目指していくことが示されている。
ウ 三位一体の改革の具体的な改革工程
(1)国庫補助負担金の改革
国庫補助負担金の改革については、「国庫補助負担金等整理合理化方針」に基づき、20.4兆円(平成15年度予算ベース)に及ぶ、国庫補助負担金の全体を見直し対象として、概ね4兆円程度を目途に廃止・縮減等の改革を行うことが示されている。
このうち、「重点項目」とされているものについては特に重点的に見直しを行うこととされ、また、公共事業については、これら重点項目の見直し((1)地方道路整備臨時交付金の運用改善、(2)市町村事業等に係る国庫補助負担事業の原則廃止・縮減、(3)事業主体としての国と地方の役割分担の明確化)に加え、行財政の効率化・合理化の観点からも全体的な改革にとり組むこととされている。
(2)地方交付税の改革
「基本方針2002」においては、地方交付税のくだりについて、「9割以上の自治体が交付団体となっている現状を大胆に是正していく必要がある。このため、この改革の中で、交付税の財源保障機能全般について見直し、『改革と展望』の期間中に縮小していく。」とされており、「基本方針2003」のとりまとめにあたっても、この記述がベースになっている。
地方交付税制度は(1)地方団体が標準的な行政水準を維持するのに必要な財源を保障しつつ、(2)地方団体間における財政力格差を調整する仕組みから成り立っている。(1)に該当するものが、財源保障機能とされるものであり、(2)に該当するものが財源調整機能である。
この財源保障機能には日本全体を視野に入れたマクロとしての財源保障機能と、個々の地方公共団体の基準財政需要額や基準財政収入額の算定を通じて、必要とされる全国標準的な行政水準のところまでを保障するというミクロの財源保障機能の二つの面がある。
マクロの面では、地方財政が計画的運営を維持するために必要な財源を国全体として保障するものである。具体的には、地方財政全体として必要とされる標準的歳出総額が賄われるよう地方財政計画の策定を通じ、地方税収等と合わせて所要の地方一般財源の総額を確保することである。
ミクロの面では、各地方団体における法令等に基づき実施する事務事業等一定水準の行政の計画的運営を保障するものである。具体的には、基準財政需要額及び基準財政収入額の計算という地方交付税の算定を通じて各地方団体の財政需要に見合う財源を地方税収と地方交付税で充足できるよう保障するものである。
マクロとしての財源保障機能の縮小については、「基本方針2003」では、「国の歳出と歩調を合わせつつ」地方財政計画の歳出を徹底的に見直していき、交付税総額を抑制し、財源保障機能を縮小していくとされている。具体的には「国庫補助負担金の廃止、縮減による補助事業の抑制」、「地方財政計画計上人員4万人以上純減」、「投資的経費(単独)を平成2〜3年度の水準以下に抑制」、「一般行政経費等(単独)を現在の水準以下に抑制」の4つが掲げられている。
「地方財政計画計上人員4万人以上純減」については、平成17年度まで毎年1%の削減を行うこととされている国の定員削減計画に準じた削減を図ることとし、地方団体においても概ね1年間に1万人のペースで計画計上人員の純減を図ることを目標にしたものである。
また、「投資的経費(単独)を平成2〜3年度の水準以下に抑制」については、「改革と展望」において、国の公共投資について「『改革と展望』の期間を通じ、景気対策のための大幅な追加が行われた以前の水準を目安に、その重点化・効率化を図っていく」とされていることを踏まえたものである。すなわち、地方単独事業についても、これに準じることとし、「改革と展望」の最終年度である平成18年度までに平成2〜3年度頃の水準を目安に抑制することとしたものである。
ミクロの財源保障機能の縮小については、各地方団体に配分される交付税額を算定する際に用いる基準財政需要額等の算定方法を簡素化していき、また、段階補正、あるいは地方債元利償還金の後年度算入措置を現在の見直し状況から、更に見直しを進めていくこととしている。
このように、財源保障機能は縮小していくこととなっているが、平成15年4月1日に塩川財務大臣から提出された「三位一体の改革の進め方について」で述べられていた「廃止」ということについては及んでいない。むしろ、「基本方針2003」に「他方、必要な行政水準について国民的合意を図りつつ地域間の財政力格差を調整することはなお必要である」という記述があり、財源保障機能と財源調整機能を一体として機能させている交付税の基本フレームについては引き続き維持していくことが示されている。
(3)税源移譲を含む税源配分の見直し
ここではまず、「「改革と展望」の期間中に、廃止する国庫補助負担金の対象事業の中で引き続き地方が主体となって実施する必要のあるものについては、税源移譲する。その際、税源移譲は基幹税の充実を基本に行う。」とされており、平成18年度という期限をつけて、基幹税の充実を基本に税源移譲を行うことが明確にされているのが、大きな特徴である。
このうち、基幹税とは、税源が普遍的に存在し、国や地方の税収において中核的な役割を果たしている税とされており、一般的に個人所得課税、法人所得課税、消費課税等が挙げられている。
また、「税源移譲に当たっては、個別事業の見直し・精査を行い、補助金の性格等を勘案しつつ8割程度を目安として移譲し、義務的な事業については徹底的な効率化を図った上でその所要の全額を移譲する。」こととされており、移譲割合についても明記されている。この趣旨は、税源移譲額は個別事業毎に補助金の性格を勘案しつつ決定されるものであり、その一応の目安を8割としているが、義務的な事業については、国が個別に制度的な検討を行い、徹底的な効率化を図った上で、その所要額全額を移譲しようというものである。すなわち、義務的な事業については10割、それ以外のものについては8割程度を目安として移譲するということになっている。
あわせて、「18年度までに必要な税制上の措置を判断」して、その一環として地方税の充実を図ることとされているが、これは、「改革と展望」の期間中に国と地方双方が歳出削減努力を積み重ねつつ必要な行政サービス、歳出水準を見極め、また、経済活性化の進展状況及び財政事情を踏まえ、必要な税制上の措置を判断することとされている。
なお、「必要な場合、地方の財政運営に支障を生じることのないよう暫定的に財源措置を講ずるものとする。」とされており、国庫補助負担金の削減規模によっては、平成15年度同様、税源移譲までのつなぎとしての暫定的な財源措置を講じることもあり得ることを示しているものである。
また、「地方が納税者の理解を得ながら、課税自主権を活用して地方税の充実を図ることは重要な課題であり、課税自主権の拡大を図る。」とされており、地方分権の推進という観点から地方が更に課税自主権を発揮しやすくなるよう、標準税率のあり方を見直すなど、できるだけ拡充する方向で検討を行う方針が示されている。しかし、この点については、政府税制調査会の「中期答申」において、「主要な税源は国・地方の法定税目とされていることなどから、現行の枠組みでの課税自主権の活用による地方税の充実確保には限界がある」と指摘しているところであり、課税自主権の活用と税源移譲の問題は別問題であり、課税自主権の活用が、三位一体の改革の主要な役割を果たしうるものではないことには留意する必要がある。
さらに、「こうした三位一体の取組により、地方歳出の見直しと併せ、地方における歳出規模と地方税収との乖離をできるだけ縮小するという観点に立って、地方への税源配分の割合を高める。」とされ、税源移譲の実現も含め、今後の税制改正を通じて地方税中心の歳入構造の確立を目指す、との方向性も明確に示されている。税収ベースでは国対地方が3:2、しかし、実際の事業実施ベースでは、国対地方の歳出は2:3、この乖離幅を極力縮小していくということである。「その際、応益性や負担分任性という地方税の性格を踏まえ、自主的な課税が行いやすいという点にも配意し、基幹税の充実を基本に、税源の偏在性が少なく税収の安定性を備えた地方税体型を構築する。」とされており、このような税体系の構築にふさわしいのは、個人住民税や地方消費税であり、今後の税制改正にあたっては、これらの充実確保を重視すべき、との方向性を示唆している。
図表2-3-7 「6.『国と地方』の改革」の内容
経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003(抄)
第2部 構造改革への具体的な取組
6.「国と地方」の改革
―「三位一体の改革」を推進し、地方が決定すべきことは地方が自ら決定するという地方自治の本来の姿の実現に向け改革。
【改革のポイント】
「官から民へ」、「国から地方へ」の考え方の下、地方の権限と責任を大幅に拡大し、国と地方の明確な役割分担に基づいた自主・自立の地域社会からなる地方分権型の新しい行政システムを構築していく必要がある。このため、事務事業及び国庫補助負担事業のあり方の抜本的な見直しに取り組むとともに、地方分権の理念に沿って、国の関与を縮小し、税源移譲等により地方税の充実を図ることで、歳入・歳出両面での地方の自由度を高める。
これにより、受益と負担の関係を明確化し、地方が自らの支出を自らの権限、責任、財源で賄う割合を増やし、真に住民に必要な行政サービスを地方自らの責任で自主的、効率的に選択する幅を拡大する。
同時に、行政の効率化、歳出の縮減・合理化をはじめとする国・地方を通じた行財政改革を強力かつ一体的に進め、行財政システムを持続可能なものへと変革していくなど、「効率的で小さな政府」を実現する。
(1)三位一体の改革によって達成されるべき「望ましい姿」
(1)地方の一般財源の割合の引上げ
地方税の充実確保を図るとともに、社会保障関係費の抑制に努めるなど、地方財政における国庫補助負担金への依存を抑制することにより、地方の一般財源(地方税、地方譲与税、地方特例交付金及び地方交付税)の割合を着実に引き上げる。
なお、その際、国・地方の財政事情を踏まえるとともに、歳出の徹底した縮減・合理化に努める。
(2)地方税の充実、交付税への依存の引下げ
税源移譲等による地方税の充実確保、地方歳出の徹底した見直しによる交付税総額の抑制等により、地方の一般財源に占める地方税の割合を過去の動向も踏まえつつ着実に引き上げ、地方交付税への依存を低下させる。この結果、不交付団体(市町村)の人口の割合を大幅に高めることを目指す。
また、課税自主権の拡大を図ることにより、地方団体や住民の自立意識の更なる向上を目指していく。
(3)効率的で小さな政府の実現
「改革と展望」の方針に沿って歳出構造改革を行うことに加え、「三位一体の改革」により、真に地方にとって効果・効率の高い選択を行うことを可能にすることを通じて、「効率的で小さな政府」を実現する。
地方財政においては、現在、約17兆円を上回る財源不足が生じている。国・地方を通じた歳出の徹底的な見直しを行うなど財政健全化を図ることにより、プライマリーバランスを黒字化し、更に地方財源不足を解消することを目指す。
(2)三位一体の改革の具体的な改革工程
(1)国庫補助負担金の改革
地方の権限と責任を大幅に拡大するとともに、国・地方を通じた行政のスリム化を図る観点から、「自助と自律」にふさわしい国と地方の役割分担に応じた事務事業及び国庫補助負担金のあり方の抜本的な見直しを行う。
このため、「改革と展望」の期間(当初策定時の期間で平成18年度までをいう。以下、「6.『国と地方』の改革」において同じ。)において、別紙2の「国庫補助負担金等整理合理化方針」に掲げる措置及びスケジュールに基づき、事務事業の徹底的な見直しを行いつつ、国庫補助負担金については、広範な検討を更に進め、概ね4兆円程度を目途に廃止、縮減等の改革を行う。その際、国・地方を通じた行財政の効率化・合理化を強力に進めることにより、公共事業関係の国庫補助負担金等についても改革する。
(2)地方交付税の改革
地方交付税の財源保障機能については、その全般を見直し、「改革と展望」の期間中に縮小していく。他方、必要な行政水準について国民的合意を図りつつ地域間の財政力格差を調整することはなお必要である。
また、国・地方を通じた歳出の縮減、必要な公共サービスを支える安定的な歳入構造の構築等を通じて、早期に地方財源不足を解消し、その後は、交付税への依存体質から脱却し、真の地方財政の自立を目指す。
このような観点から、次のとおり取り組む。
(i)国の歳出の徹底的な見直しと歩調を合わせつつ、「改革と展望」の期間中に、以下のような措置等により、地方財政計画の歳出を徹底的に見直す。これにより、地方交付税総額を抑制し、財源保障機能を縮小していく。この場合、歳入・歳出の両面における地方団体の自助努力を促していくことを進める。
・国庫補助負担金の廃止、縮減による補助事業の抑制
・地方財政計画計上人員を4万人以上純減
・投資的経費(単独)を平成2〜3年度の水準を目安に抑制
・一般行政経費等(単独)を現在の水準以下に抑制
(ii)国の関与の廃止・縮小に対応した算定方法の簡素化及び段階補正の見直しを更に進めていく。また、基準財政需要額に対する地方債元利償還金の後年度算入措置を各事業の性格に応じて見直す。同時に、地方債に対する市場の評価がより機能するように取り組んでいく。
(iii)現在、9割以上の地方団体が地方交付税の交付団体となっているが、三位一体の改革を進めることを通じ、不交付団体(市町村)の人口の割合を大幅に高めていく。
(iv)税源移譲を含む税源配分の見直し等の地方税の充実に対応して、財政力格差の調整の必要性が高まるので、実態を踏まえつつ、それへの適切な対応を図る。
(3)税源移譲を含む税源配分の見直し
「改革と展望」の期間中に、廃止する国庫補助負担金の対象事業の中で引き続き地方が主体となって実施する必要のあるものについては、税源移譲する。その際、税源移譲は基幹税の充実を基本に行う。税源移譲に当たっては、個別事業の見直し・精査を行い、補助金の性格等を勘案しつつ8割程度を目安として移譲し、義務的な事業については徹底的な効率化を図った上でその所要の全額を移譲する。あわせて、「18年度までに必要な税制上の措置を判断」して、その一環として地方税の充実を図る。なお、必要な場合、地方の財政運営に支障を生じることのないよう暫定的に財源措置を講ずるものとする。
15年度の義務教育費国庫負担金等の削減分についても併せて対応する。
また、地方が納税者の理解を得ながら、課税自主権を活用して地方税の充実確保を図ることは重要な課題であり、課税自主権の拡大を図る。
こうした三位一体の取組により、地方歳出の見直しと併せ、地方における歳出規模と地方税収入との乖離をできるだけ縮小するという観点に立って、地方への税源配分の割合を高める。その際、応益性や負担分任性という地方税の性格を踏まえ、自主的な課税が行いやすいという点にも配意し、基幹税の充実を基本に、税源の偏在性が少なく税収の安定性を備えた地方税体系を構築する。
上記の諸施策について、フォローアップ(追跡調査)を行いつつ、三位一体の改革を強力に推進する。また、改革を円滑に実現するため、15年度予算における取組の上に立って、来年度予算の中で改革を着実に進める。
(3)市町村合併の推進
改革の受け皿となる自治体の行財政基盤の強化が不可欠であり、「市町村の合併の特例に関する法律」の期限である平成17年3月に向けて、市町村合併を引き続き強力に推進する。
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