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2 住民主体のまちづくりへの取組 〜住むことが誇りに思えるまちづくり〜
(1)ニセコ町におけるまちづくりの全体像
 ニセコ町においては、ニセコに住む人々が「住むことに喜びと誇りを感じること」が最も大切なことと考え、平成6年度から積極的に「住民の視点に立った、住民主体のまちづくり」を進めてきたところである。
 そして、「住民主体のまちづくり」を進めるに当たっては、住民と行政との「情報の共有」とそれに裏打ちされた「住民参加」が必要であり、以下のような観点から「住民主体のまちづくり」に向けた取組を実践してきたところである。
 
ア 情報を共有するまち
 住民が積極的に行政に参画するには、行政の持つ情報が住民に広く提供され、住民と行政が情報を共有することが必要であり、以下のような取組により住民に対する行政情報の提供を行っている。
 
・そよかぜ通信
・もっと知りたいことしの仕事等
 
イ 住民の意見が反映されるまち
 住民主体のまちづくりを進めるためには、まちづくりの主人公である住民の意見が公平に行政に反映される仕組みを保障することが必要であり、以下のような制度により、住民がそれぞれの事情に応じて自由に意見を述べることのできる場を設けている。
 
・まちづくりトーク
・こんにちは・おばんです町長室
・まちづくり広聴箱
・まちづくり懇談会(予算広聴集会)
 
ウ 住民の視点に立って考え行動する職員づくり
 住民の視点に立ったまちづくりをするためには、その調整役となる役場職員の資質の向上やまちづくり意識の改革が重要であるとの認識から、以下のような取組を実施している。
 
・職員研修の充実
・庁内政策推進会議
 
エ 自由に議論をし、住民と職員がともに学ぶ場づくり
 住民と役場職員が行政の仕組みや役割をともに学ぶ中から、まちづくりの在り方をともに考えていく場として、「まちづくり町民講座」を開講し、参加者による学習と意見交換を行っており、講座での提案が実際の事業に反映されるなど、まちづくりの議論が活発化している。
 
オ 住民がニセコをつくる
 住民主体の行政をより一層進めるためには、住民と行政が情報を共有し、情報の質と量において同じ条件のもとで議論することが重要であり、その取組の一つとして、主要な事業については、計画構想の前段階から誰もが参加でき、自由に議論できる場として「住民検討会議」を必要に応じて開催している。
 
カ 住むことに誇りと愛着が生まれる
 以上のような「住民主体のまちづくり」を目指す取組により、住民が役場を身近に感じ、住民のためのサービスセンター・事務局として、住民が気軽に役場を利用するように住民活動も変わりつつある。また、グループや個人のまちづくり意識も高まり、その動きも次第に活発化してきている。
 町が行政情報を広く開示し、行政の施策の透明性を図る中から、地域住民もこれまでの要望・陳情型から自ら地域の課題に責任を持って参加する行動型に変わりつつある。
 
(2)住民参加のまちづくりに向けた具体的な施策
ア 住民との情報共有のための取組
(1)予算説明書「もっと知りたいことしの仕事」の発行
 地方団体の予算は、地方自治法に定められた方法・様式により作成された予算書により議会で審議されるが、この予算書だけではニセコ町の実施する施策の内容を理解することは必ずしも容易ではないことから、予算の内容を少しでもわかりやすくするよう「もっと知りたいことしの仕事」を年度当初に作成し、全世帯に配布している。
 この冊子は、単に当該年度の主要施策を示すのみではなく、町の借金(地方債残高)や貯金(基金)の額、町長や職員の給与の状況、他町村との比較なども掲載し、また、いわゆる箱物施設の維持管理費と収入の状況、各種団体などへの補助金や負担金の一覧表なども掲載している。
 
図表1-1-1 主な内容
・光熱水費などの予算費目ごとではなく、事業別に予算の使い道を説明
・予算の年ごとの推移
・支出と収入の内訳など
・他町村と比較した税収
・町の借金や貯金の状況と他町村との比較
・町の借金の詳細と実施事業
・他町村との財政状況などの比較
・特別職や職員の給与の状況
・箱物施設の維持管理費と収入
・町の補助金の支出先と金額の全リスト
・町の負担金などの支出先と金額1万円以上の全リスト
・町の委託事業の全リスト
・町の工事などの全リスト
・その他社会基盤整備の状況と他町村との比較
 
(2)広報広聴事業
 「町民とともに考え行動する」ことをまちづくりの基本とし、そのためには行政側の情報が開かれたものであると同時に、住民とともに議論する場をつくることが重要であることから、以下のような取組を実施している。
 
事業名 摘要
そよかぜ通信  一般の電話回線を利用した音声による有線放送を活用し、1日3回定期的に行政情報を提供している。また、町長が直接登場するコーナーが週1回程度あり、タイムリーな町の問題や出来事、町長を訪問した町民との懇談など、行政の動きはもとより、町長の考え方を町民に対して発信している。
まちづくりトーク
こんにちは・おばんです町長室
 いずれも気軽に町長と町民と話をする制度である。
 「まちづくりトーク」は、おおむね5人程度の人が集まって、時間や場所を自由に設定し、町長等と対話・議論するものであり、その内容は問わない。
 「こんにちは・おばんです町長室」は、町長室の開放事業であり、特別な用事はないが町長と2人きり(又はグループ)で話がしたい場合、月1回1人20分程度で実施している。
まちづくり懇談会  予算のための広聴集会として、地区別と団体別に分けて実施しており、役所の幹部職員などが地域の会館などに行って要望や意見を伺うものであり、地域別には町内13地区、団体としては商業、農業、観光など職域、学校PTA、福祉団体など10団体程度、少なくとも年1回懇談を実施している。
まちづくり広聴箱 など  町民の声を伺う手段を多様化する観点から、町内の公共施設数カ所に備え付けた広聴箱への投書、郵送による手紙、ファックス、テープなどへの録音、電子メールなどさまざまな媒体で受け付けている。また、広報ニセコに、年数回町長あてに無料郵送できる用紙を綴じ込んでいる。
まちづくり町民講座  役場の各担当課長が講師になって住民に役場の現状や課題をお知らせし、住民とともにその課題について議論するものであり、単なる町の政策PRの場ではなく、住民と役場職員がともに学ぶ場である。例えば、財政課長が講師の場合は「町の借金や貯金の残高」、「歳入やその使途」、「他町村と比較した財政状況」などをわかりやすく説明し、意見交換を行う。また、福祉担当の課長が講師の場合は、福祉の給付事業などを説明するばかりではなく、高齢者や障害者の状況、少子化の進行状況、他町村と比較した福祉の現況、課題を説明し、意見交換を行うなど。
 
(3)住民との協働に向けた取組(事業の検討会議)
 重要な施策を実施する場合、自由に町民に集まってもらいその事業の内容を検討するものであり、従来の審議会や検討委員会とは全く別に、だれでも参加できる自由な会議として実施している。
 この検討会議も、当初は相対立する激しい議論もあったが、参加者が相互の情報を共有する中で、住民相互の理解が進み、活発な議論の中で住民の手による合意形成が進んでいる。
 
(3)まちづくり基本条例について
ア 条例制定の経緯
 ニセコ町においては、前述のように「情報共有」と共通の情報ベースによる「住民参加」を図り、役場と住民とが一体となったまちづくりを進めてきたところであるが、これは、現在のように、ある程度社会のインフラが充実し、住民の価値の多様化が進み、あるいは、財政上の制約がなされる状況においては、住民自らがまちづくりの主体とならなければ、役場などだけでは政策決定できない時代になっているとの認識によるものである。
 しかし、一方で、(1)「情報共有」「住民参加」という取組には行政側の恣意性が入りうる、(2)取組の仕組みが体系化されていない、という問題もあった。
 そこで、「情報共有」を基本とする住民自治をより確実なものとするとともに、ニセコ町のまちづくりの基本理念を明確にし、住民、行政、議会が協働してまちづくりを進めるための仕組みを保障するため、平成12年に全国で初めてまちづくりの基本条例を制定したものである。
 
イ 条例の概要
(1)基本原則
 まちづくりの基本原則として、自ら考え行動するという自治の理念を実現するため、町民がまちづくりに関する情報を共有することを基本とし、町民は必要な情報の提供を受け、自ら取得する権利を有する。
 また、町は、仕事の企画立案、実施及び評価のそれぞれの過程において、その経過、内容、効果及び手続を町民に分かりやすく説明する責務を有し、それぞれの過程において、町民の参加が保障されている。
 
(2)まちづくりへの参加の推進
 町民がまちづくりの主体であり、まちづくりに参加する権利を有することを明文化している。
 また、まちづくりは20歳以上の大人たちだけで行われるものではないとの考えから、満20歳未満のものにも、それぞれの年齢にふさわしいまちづくりに参加する権利を明文化し、これにより、こども議会の開催、1日町長、中学生まちづくり委員会、小学生まちづくり委員会を設置している。
 
(3)まちづくりの協働過程
 まちづくりにおける町民の参加において、町は計画、実施、評価等の各段階に応じ、仕事の提案や要望等仕事の発生源の情報、代替案の内容、他の自治体等との比較情報、町民参加の状況、仕事の根拠となる計画、法令等の情報提供に努めるものとし、町の説明責任を規定している。
 
(4)財政及び評価
 予算をより住民ニーズに近づけ、効率的な運用を行うため、予算の編成に当たっては、予算に関する説明書の内容の充実を図り、町民が予算を具体的に把握できるような十分な情報の提供に努めなければならないことするともに、情報の提供については、町の財政事情、予算の編成過程が明らかになるよう分かりやすい方法によることとしている。ニセコ町においては、従来から先述の予算説明書「もっと知りたい今年の仕事」を作成、配布したり、予算編成過程の透明性の確保を図るため、まちづくり懇談会(予算広聴会)などを実施し、住民に対する財政情報の提供を充実している。
 また、まちづくりの仕事の再編、活性化を図るため、まちづくりの評価を実施することとしており、その評価は、まちづくりの状況に照らし、常に最もふさわしい方法で行うよう検討し、継続してこれを改善しなければならないこととしている。
 以上の趣旨を踏まえ、補助金等検討委員会(委員8人すべて町民。うち公募によるもの2人)を設置し、町内にある団体に対する補助金の見直しを行っており、平成14年〜平成16年までの3年間で、町民が主体となって個々の補助金の実態を調査し、非効率な補助金の廃止若しくは削減を行い、補助金の効果を最大限にして、補助の目的を明確にしている。
 
(5)町民投票制度
 ニセコ町にかかわる重要事項について、直接、町民の意思を確認するため、町民投票の制度を設けることができることとし、それぞれの具体的な事案に応じ、別に条例で定めることとした。
 この制度は、情報共有化の取組と住民参加が行われた後、どうしても解決が見出せない場合の最終手段として想定されているものであり、行政の思惑や一方的な住民の思惑を成立させるものではない。
 
(6)まちづくり基本条例の位置付け
 他の条例等との関係については、この条例に定める事項を最大限に尊重しなければならないとし、この基本条例に「最高法規性」があることを規定している。さらに、この条例に定める内容に即して、教育、福祉、産業等分野別の基本条例の制定に努めるとともに、他の条例等の体系化を図ることとしている。
 
ウ まちづくり基本条例制定後の具体的な取組
 まちづくり基本条例においては、第11条において満20歳未満の町民にも、それぞれの年齢にふさわしい形でのまちづくり参加を規定しており、この規定を具体化するものとして、「こども議会」が設置された。具体的な取組みは以下のとおりとなっている。
 
区分 内容
(1)組織及び形式 ・定数16名(小学校5・6年生8名、中学校1・2年生8名をもって構成) ・小・中学生による混合議会(議会をわけることも可) ・議長1人、副議長2人、議員16人で構成 ・事務局教育委員会学校教育係
(2)選考の方法 ・学校からの推薦又は公募
(3)活動期間及び
時間
・活動期間はおおむね5日間 ・活動時間は放課後又は休み期間を利用
(4)活動内容 ・テーマを設定し、3日間の議会を開会 ・円卓による議論形式の議会を中心に開催。ただし、1日だけ議場を使った議会を開催 ・1日だけの議会は、町議会と同様に議員(小・中学生)の一般質問に町長、助役、収入役、教育長、担当課長が答える形式 ・議会、議員の役割をレクチャー(外部講師なども検討)
(5)議会報告及び
反映
・議員からの報告書(感想)を広報やオフトークにて住民に公表。テーマ別での検討、議会での要望は、まちづくり懇談会と同様の取扱
(6)対応者 ・事務局は、議会事務局の協力を得て教育委員会で行い、議会答弁者は、町長、助役、収入役、教育長、テーマごとの担当課長・係長







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