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第3章 むらづくりの基本方向及び重点的取組メニュー
 
 本章では、第2章でまとめた4つの課題を解決に向け、住民と村による取組の基本方向及び重点的取組メニューを検討、提示する。このために、全国の小規模自治体を中心とする自治体の取組事例を参考として、本村での今後の重点的取組メニューを考えるものとする。これによって、本研究のテーマである小規模自治体の自治のあり方を示唆するという方針を採る。
 
 
 地域経済の振興と就業の場の確保は、定住促進・人口減少防止の必要条件である。しかしながら、企業とくに製造業の海外立地が進む今日では、企業誘致によって就業の場を創出することはきわめて困難である。また、本村の場合、周辺市町での就業にも大きな期待をもてない現状である。そこで、本村における今後の地域経済の振興と就業の場の確保は、村内の資源を活用することによる内発的な産業開発に重点を置くこととし、次の6つの取組メニューを挙げる。
 
(1)介護福祉サービスの産業化
(2)バイオマス産業の振興
(3)農産物直売システムづくり
(4)村の資源を売る「総合商社」的機能の充実
(5)若者定住のための起業支援
(6)地域建設業の事業転換などへの支援
 
(1)介護福祉サービスの産業化
 福祉関連産業は高齢化社会における成長産業である。とくに介護福祉サービスは、ヘルパーの資格を取れば誰でも比較的容易に参入できる分野であり、かつ需要が地域内で発生するという、特色をもっている。
 本村の介護保険支出総額は年間3億円にのぼり、これを村内で分配所得化することができれば、その経済効果はきわめて大きいと考えられる。地域内で<ヒト>、<モノ>、<オカネ>が循環する、いわゆる「コミュニティビジネス」の著名な成功事例として長野県栄村の「げたばきヘルパー」制度がある。
 本村でも、集落の公民館や集会所を利用してヘルパーの資格研修を行い、また集落ごと、あるいは地区(学校区)程度の単位でサービスの会社を立ち上げ、介護福祉サービスの担い手とすることを考えるべきである。
 また、高齢者世帯の家庭菜園の農作物を集荷して、直売所に届けるなどのサービスをすれば、これも一つの産業化である。
 
【事例】長野県栄村の「げたばきヘルパー」
 山里に展開した集落で住民の力による、住民による安心ネットで24時間の介護を実現し、高齢者が住み慣れた土地で安心して暮らせる村づくりをめざすもの。
 ご近所なら、下駄をはいて真夜中でも、雪の中でも駆けつけられるということから「げたばきヘルパー」と名付けられた。
 村が研修の体制を整えたことにより、女性の6割がヘルパーの資格を取得して、集落内での介護福祉サービスを行っている。主婦が自分の家のお年寄りの介護を行っても介護保険の対象にはならないが、隣近所で助け合って介護することにより、保険料収入を得ることができるのである。
 31集落に2〜3人の住民ヘルパーが対応し、村内集落を8チームに分けてヘルパーによるワーキンググループがつくられている。平成15年4月1日現在、118人の「げたばきヘルパー」(人口16人に1人、戸数6戸に1人)がいる。
 平成14年度の「げたばきヘルパー」への賃金支払総額は約850万円となっている。
 
(2)バイオマス産業の振興
 本村では現在民間企業と共同で木質バイオマス活用事業−木質バイオマスガス化発電事業−に取り組んでいる。
 バイオマス資源は、家庭のごみや家畜排せつなどの廃棄物、間伐材や農作物の非食用部分(例えばもみ殻)などの未利用資源、菜の花といった資源作物などであり、本村などの農山漁村に豊富に存在する資源である。バイオマスの産業化の一端は、このバイオマス資源を工業原料(バイオディーゼル燃料など)や製品(肥料・飼料など)に変えて、循環的に利用するとともに、エネルギーを取り出して活用しようとするものである。このバイオマス産業は、循環型社会の形成や地球温暖化防止に役立つばかりではなく、例えば間伐材の有効利用による山林管理の向上など、地域環境の保全・改善につながる側面をもっている。
 
図表3-1
 
木質バイオマスのガス化発電システム完成イメージ
資料:衣川村「村政要覧2002」
 
 バイオマスの産業的利用はまだ緒についた段階であり、例えば木材のプラスチック化などバイオマス利用技術も開発途上のものが多い。
 木質バイオマスの活用では先頭グループを走る本村は、後述の環境省のモデル事業に応募するなどして、木質に限らずバイオマスの産業利用の研究を一層推進するとともに、一定のロイヤリティを確保する体制を整えることが望まれる。また、先駆者としての実績やバイオマス資源が豊富に存在することなどを背景に、バイオマス関連産業の研究所などを誘致し、利用技術の実証の場、将来的にはバイオマス産業の拠点となることも期待されよう。
 なお、バイオマス産業の中核となる林業であるが、外材の輸入などによる長い林業不況の中で、労務者の高齢化など、産業としての体力を失ってきている。バイオマスの産業化によって復活できれば中山間地域の経済にとって、画期的な朗報となるであろう。
 
【国の施策動向】
―環境省「環境と経済の両立を目指したまちづくりモデル事業」
 2004年度実施。事業要件として、住民や事業者らが幅広く参加するまちづくり協議会を設立すること、事業計画に環境保全や経済活性化の具体的な目標を明示することなどを求めている。4月上旬ごろまで自治体からまちづくりのアイディアを募集した後、モデル地域を10ヶ所選定する。同事業は、全国の市町村から地球温暖化対策と地域の活性化を同時に進めるまちづくりのアイディアを募集し、選定評価委員会が優れたものを市と町村各5ヵ所ずつ計10ヶ所、モデル地域に選定する。モデル地域は、3カ年計画で風力発電などを生かしたまちづくりに取り組み、事業の効果を検証する。同省は各モデル地域に対し、市は1ヵ所当たり5億3000万円、町村は同1億2000万円を投入し、成功事例の普及を目指す。
 実施要綱によると、同事業は、二酸化炭素の排出削減などの環境保全と経済活性化の両面で効果が高く、全国的なモデルとして他の地域への波及が見込めるものと規定している。事業計画には、環境保全と経済活性化の具体的な目標と、その根拠を明示する。事業の実施に当たっては、地域ぐるみで取り組むために、住民や事業者ら多くの関係者が参加したまちづくり協議会の設立を求めている。また、事業の1年目終了時までに事業効果の測定・評価方法を策定。2年目終了時と事業完了時に評価結果をまとめるほか、事業完了から3年後に効果の持続状況を検証し、その都度、同省に報告するとしている。
 
(3)農産物直売システムづくり
 本村の基幹的産業である農業は、米、りんどう、畜産以外はいずれも小規模で、他産地と市場で競合する力をもつものではない。さらに稲作をはじめ農業を取り巻く経営環境は厳しさを増しつつある。こうした背景を考えるならば、直売をはじめとする多様な販売戦略の展開を通して、農家手取りの増大14、農業振興を図ることが必要である。
 独自の販売戦略により新たなビジネスモデルを構築した事例として、JA甘楽富岡の取り組みが有名である。少量多品目生産と直売所の整備、大型スーパーなどへの直売コーナー設置による地域農業の活性化に成功している事例である。
 本村では、すでに、古都の遊食および黒滝温泉における直売が行われており、好調な売り上げを記録している。むしろ出荷の体制の不備などで需要を満たしきれていない状況である。
 また、広域農道の整備により流入交通量が増える傾向にある。さらに、集客力のある平泉の観光ポイントや前沢の大型スーパーなどもある。
 こうした資源、機会を生かし、直売、契約栽培を柱とする多様な販売戦略の展開によって農業振興を図ることが必要と考える。
 
【事例】群馬県JA甘楽富岡の販売戦略
 群馬県の富岡市を中心とした5市町村が管内であり、総面積の7割以上を山林が占める中山間地域である。かつては養蚕とこんにゃくいもが基幹作物であった。しかし、生糸・こんにゃくの輸入自由化などにより桑園を中心に900haが遊休農地化し、販売農家が組合員の4割程度まで減少するなど地域農業の再構築が喫緊の課題となった。
 JA甘楽富岡農協は地場生産・地場流通を柱とした少量多品目生産による地域農業の活性化を戦略として産地再生化に取組みを開始した。
 不耕作地と女性・高齢者などの労働力を有する農家をリストアップし、一軒一軒回って作物の作付けと販売を依頼するとともに、販売を再開する農家の支援のために700m以上に及ぶ標高差を活かした108品目のリレー出荷などの栽培指導の実施、出荷規格の簡素化、直売所「食彩館」の開設(平成8年)などに取り組んだ。
 「食彩館」での販売の仕組みが(注)、農家の消費者ニーズに対応する経営感覚や創意工夫を引き出すことに効果を発揮した。
 10年からは、高速道路で東京まで1時間という地の利を活かして、首都圏の大手量販店・生協の店舗内に直売コーナー「インショップ」を設置し、契約出荷によって朝採り野菜を提供している。
 こうした取り組みの成果のうえに、8品目の重点野菜の産地形成を図るため、大手量販店・生協との相対取り引きを実施している。その際にも地元に設置した総合パッケージセンターを活用して産地段階で店舗での陳列用の出荷調整製・包装を実施するなど流通マージン及び雇用を産地側に確保する,工夫に努めている。
 このように農地や労働力と立地条件を活かしながら、他産地とは異なる販売戦略によって地元や大消費地の消費者ニーズをとらえており、販売額は平成7年(1995年)の86億円から平成12年(2000年)の97億円にまで拡大した。
(注)農家各自が出荷、陳列、売価設定まで行い、売れた分だけ精算され、売れ残りは閉店後回収する仕組み
資料:農林統計協会「図説 食料・農業・農村白書 平成13年度」
 
(4)村の資源を売る「総合商社」的機能の充実
 昭和45年(1970年)には、農産物などの素材そのものが飲食費全体の35%を占めていたが、平成7年(1995年)には19.1%に低下した。消費者が100円の食品を食べるとき、昭和45年(1970年)は35.0円が農家などの手取りになっていたが、平成7年(1995年)は19.1円に減少したということである。
 これは、素材としての農林水産物の相対的な価値が下がり、その素材に加工を施した価値、またサービスが加わったところの価値割合が高まってきていることを意味する。
 
図表3-2 最終消費された飲食費の帰属割合
資料)「産業連関表」から農林水産省で試算
 
 こうした状況のなかで本村の経済活性化を図るには、本村の農産物、きのこや山菜などの山の幸、川の幸などに様々な加工などを施し、市場に出していくことが求められる。その市場で評価を得るには、きめ細かな市場調査、開拓を進め、地域全体を売り込む仕組み・組織が必要である。
 こうした村の資源を販売する「総合商社」として著名なのが、福井県名田庄村の「(株)名田庄商会」である。本村においても同じような目的で「古都の遊食」が設立されているが、今のところ十分機能しているとはいえない状況である。今後、モノを販売するという機能を中心に充実を図る必要がある。
 
【事例】福井県名田庄村の「(株)名田庄商会」
 昭和59年、村と農協などの民間組織がほぼ半分ずつ出資する第三セクターの「(株)名田庄商会」を設立、市場調査と開拓、特産品の開発・生産・販売、住民所得の向上、就労機会の増大など村おこしに関わることを幅広く手がけている。主力商品は名田庄漬、自然薯加工品、しめじなどである。また、例えば小学校の工作材料として竹を販売し、授業には技術をもつ講師を派遣するなどのソフトを併せた事業を展開している。このほか、道の駅や村営ホテルの運営などにあたっている。まさに村の「総合商社」ということができる。
 「商会」のモットーは、「村おこしになることは何でもとりあげ、必ず成功させること」、「村内の行政、団体、生産者、住民のパイプ役となる。村内の1人でも多くの人に商会参画を呼びかけること」の2つである。
 
あきない館
 「商会」の従業員は社員19名、パート9名、役場からの出向2名となっている(なお、村の人口は2,951人(平成12年の国勢調査)。
−名田庄商会ホームページによる
 
(5)若者定住のための起業支援
 若者定住のためには働く場を欠けないし、産業振興を図る必要がある。
 産業振興の方法には、(1)「既存産業の振興」、(2)「新産業の創造」、(3)「企業誘致」の3つの方法が考えられる。しかし、企業誘致は難しい状況にある。そして、そもそも企業誘致という「外来型開発」では地元企業との有機的な産業連関がつくられない、利潤は本社に吸収されて地域経済の拡大再生産につながらないなど、地域の産業が本当によくならない場合が多い。つまり(1)や(2)の産業の「内発的開発・発展」を進めることが得策である。
 現在の本村には、サービス産業など若者が希望するような働く場は少ないことも事実であり、雇用のミスマッチから若者の定住環境は十分整っているとはいいがたい状況にある。したがって、既存産業の振興を図る一方で、地域資源などを活用して新産業を起こすこと―ベンチャーを育成することが必要である。
 こうしたベンチャー育成で学ぶべき事例としては、三重県紀和町の「若者定住促進条例」制定とこれに基づく「起業助成」の例や島根県海士町の「研修生制度」などがある。
 岩手県には、「科学技術および研究開発に関わる産学官の人々の交流組織(場)」である「INS(岩手ネットワーク・システム)」やベンチャー育成で全国的に名が知られた花巻市起業化支援センターなどがある。これらとの連携を図りながら、衣川方式の起業家(ベンチャー)育成支援を進めていくことが求められよう。
 
【事例】三重県紀和町の「若者定住促進条例」
 紀和町は棚田の保全活動で有名であるが、若者(満50歳未満)の定住条件拡大のために力を注ぎ、「若者定住促進条例」を制定したことでも知られている。この条例に基づき各種補助・助成制度を設けている。最高100万円を助成する「起業助成」、事業融資の利子に対する「利子補給」(最高10万円)。空き家の貸付(家主)や修繕費(UIターン者)への助成などがある。
 
【事例】島根県海士町の「商品開発研修生」
 特産品や観光商品などの開発に当たる人材を有給研修生として受け入れ、地元にない発想での開発提案を求めるもの。芸術・美術、環境、営業、製造、観光、食品、情報、映像、イベント・語学、園芸などで経験者を中心として人材を募集し、1年間、農産加工場を拠点として活動してもらうものである。これまで、新鮮なサザエを利用したサザエカレーなどの開発実績を上げている。
 
(6)地域建設業の事業転換などへの支援
 本村の平成13年(2001年)の建設業就業者は138人である。岩手県全体に比べると建設業の比重が軽いが、国を基準とする特化係数は1.163と地域産業としての重要性は高い。
 「平成13年度建設工事施工統計調査」(国土交通省)によれば、岩手県の<元請完成工事高の公共比率>は53.8%(元請完成工事高4,457億円)と全国平均の38.9%と大きく上回っており、公共工事への依存度が高い。しかし、公共工事(「建設工事施工統計調査」による)は、全国的には平成9年度の32兆円をピークに減少しつづけ平成13度は26兆円になっており、岩手県でも同様の傾向を示し始めている。
 
図表3-3 建設業事業所・従業者の状況
    事業所(所) 比率(%) 従業者(人) 比率(%)
全産業 6,350,101 - 60,158,044 -
建設業 606,944 9.6 4,943,615 8.2
岩手県 全産業 72,456 - 629,454 -
建設業 7,075 9.8 72,457 11.5
対国特化係数 1.022 - 1.401 -
衣川村 全産業 191 - 1,444 -
建設業 14 7.3 138 9.6
対国特化係数 0.767 - 1.163 -
対県特化係数 0.751 - 0.830 -
平成11年建設業 14 - 120 -
資料)総務省「事業所・企業統計調査報告」より作成
 
 平成11−13年(1999−2001年)比較では、本村の建設業事業所、従業者とも大きな変動はない。しかし、公共事業費の削減によって、建設業者のなかには存続の危機にさらされているものが少なくなく、岩手県内では平成9年(1997年)(18件)以降倒産件数が漸増傾向にあり平成14年(2002年)は48件となっている((株)東京商エリサーチ調べによる)。農家の兼業や現金収入の道につながっている建設業が存続しなくなると、地域の就業環境は、ますます厳しいものとなる。したがって早期に事業転換などの支援を行うなど、何らかの対策が必要である15
 その対策として、建設業者間の合併や資本提携、協業化といった再編の必要性が指摘されている。しかし、地方建設業者のほとんどはオーナー会社や同族企業であり、合併などへの抵抗感は強い。
 こうした状況から、自治体や業界団体を中心に、従来の建設業とは異なる新分野への進出や事業転換などを促す動きが出てきている。環境・リサイクル、農業、介護福祉など各分野への進出や、リフォーム、焼酎造りなどを試みる例もある。
 本村においても、例えば<兼業農家の働く場>といった、就業の多様なニーズに応えるためにも、建設業の存続・維持が期待される。例えばバイオマス関連事業への転換を図るなど、村の産業の芽、資源を活かした転業支援施策を検討することなどが必要であろう。
 
図表3-4 新規分野進出事例
企業所在県 取り組み概要
A社・栃木県 間伐材を活用した砂防工事、護岸工事及び道路施設用製品の開発と販売
B社・富山県 排脱石膏(硫酸カルシウム)をリサイクルした景観型雑草抑制材の開発
C社・山形県 遊休地を利用したダチョウの飼育と食肉処理、販売
D社・新潟県 免疫機能を高める物質をもつキノコ「ハナビラタケ」の量産・販売
E社・滋賀県 訪問介護・居宅介護住宅改修・デイサービスなどの介護ビジネスに参入
F社・山口県 手すり・車いすリフト・リハビリ用機器など福祉機器の研究開発と販売
G社・福島県 複数の画像を繋ぎあわせるモザイキング技術を生かし画像処理会社を設立
H社・岩手県 コンクリート補修財と補修技術の開発と施工
I社・徳島県 珪藻ひばの開発、珪藻ひばを用いた壁装仕上材の販売等
J社・北海道 有機肥料「大地の再生」の生産・販売
資料:(財)建設業振興基金の資料より作成
 

14JAへの出荷では、<JA集荷所・経済連等→卸売市場→仲卸→小売店→消費者>へと流れる間に農家出荷時100円のものが250円になるといわれている。これに対して直売であれば出荷時130円、販売手数料2割として150〜60円で販売できる。つまり、農家の手取りは増え、消費者も安い農産物を買うことができるのである。―以上 JA全中「月刊 JA2003年5月号」山本雅之氏による
15時事通信によれば、国土交通省も、政府の地域再生本部と連携し、公共工事への依存度が高い地方の中堅・中小建設業者の事業転換などを促すための支援策を検討している。







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