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2 宮古らしい空間をつくる伝統的手わざに関する学校の取り組み調査
(1)調査目的等
 伝統的手わざの再生・育成にとって、その手わざが地域で暮らす人々の生活の中にどれだけ溶け込んでいるか、また理解されているかが大切である。特に次時代を担う子どもたちが伝統的手わざをどれだけ身近に感じることができているかが、非常に重要である。そこで宮古地域において、伝統的な製造業や物づくり等の手わざが、学校教育及び学校の課外活動等で活用されているか、また、どのように活用されているか等について把握することを目的としてアンケートを行った。
 
ア 調査対象及び調査時期
 調査対象は宮古地域の小学校21校、中学校17校・高等学校4校の計42校である。調査時期は平成15年9月である。
 
イ 回収状況
 小学校9校、中学校7校、高等学校4校の計20校から回答を得た。協力が得られた学校は以下の通りである。
 
図表2-3 回収状況
回答をよせた学校     
1 北小学校 10 北中学校 17 宮古高等学校
2 南小学校 11 久松中学校 18 宮古農林高等学校
3 宮原小学校 12 鏡原中学校 19 湘南高等学校
4 西辺小学校 13 池間中学校 20 宮古工業高等学校
5 狩俣小学校 14 西城中学校    
6 宮島小学校 15 砂川中学校    
7 下地小学校 16 上野中学校    
8 上野小学校        
9 佐良浜小学校        
 
 
(2)調査結果
ア 伝統的な製造業や手わざの活用状況
 回答があった20校のうち、地域の伝統的な製造業や手わざを、学習教材として「活用している」と回答したのは9校、「以前は活用していたが現在は活用していない」が5校、「活用したことはない」が6校であった。
 
図表2-4 教材としての活用状況
 
 
イ 伝統的な製造業や手わざ活用の具体的な内容
 伝統的な製造業や手わざ活用の具体的な内容は多様な分野に及んでいる。内容をみると、見学や調べ学習に加えて、実際にものづくりなどの手わざを実践体験する学習にも取り組んでいることがわかる。(図表2-5参照)
 
図表2-5 手わざ活用の具体内容
学校名 学習概要 対象学年 実施年度 備考
13年度 14年度 15年度
北小学校 社会科で地域を調べる学習で宮古上布(伝統工芸館)を見学 小学4年 13年度      
総合学習で宮古焼きについて 小学6年   14年度    
伝統工芸(宮古上布):社会科の学習、総合的な学習の時間 小学5年 13年度 14年度 15年度  
伝統的な郷土料理について:総合的な学習の時間 小学5年   14年度   子どもの希望
により実施
南小学校 総合的な学習の時間に宮古焼を体験(講師招聘) 小学4年 13年度      
宮原小学校 社会科(4年)の学習内容で地域の伝統工芸として取り扱った。ブーを紡ぐ方に直接会いブーうみの実践をしてもらった。苧麻の採集と繊維とり、ブーうみの流れを取材しながら質問事項を準備しそれに答えてもらう方法でおこなった。 小学4・5年   14年度    
狩俣小学校 民具づくり(風車・ぎっちょなど) 小学3年 13年度      
焼き物づくり 卒業記念として、陶工新里津和公氏の協力による 小学6年 13年度      
佐良浜
小学校
鰹節工場見学 小学3年 13年度 14年度 15年度  
佐良浜の漁業(アギヤー・パラオ) 小学4年 13年度 14年度 15年度  
北中学校 地域の製塩所の見学を通じて地域の産業に見識を深めるとともに、地域の人々の職業観や生き方に触れる学習をおこなった。 中学2年     15年度  
池間中学校 池間の鰹漁体験学習 伝統的な鰹一本釣りを鰹船に乗り込んで体験させる。また、鰹をさばく実習も行い鰹漁一連の流れを学習する。 中学1〜3年 13年度 14年度    
西城中学校 三線の指導(選択音楽) 中学2年     15年度  
平良市総合博物館において民具伝統工芸等の見学(社会科) 中学1年   14年度    
地域の伝統行事、祭祀、伝統工芸等の調べ学習(総合的な学習の時間) 中学1・2年 13年度 14年度 15年度  
地域の郷土料理、泡盛等の製造所における体験学習(総合的な学習の時間) 中学1年   14年度 15年度  
アダン葉ぞうり製作(夏休み、図書館行事) 中学1〜3年   14年度    
宮古みそ、とうふ作り体験学習(総合的な学習の時間) 中学1年     15年度  
宮古高校 流木や宮国部落の伝統行事網引きの材料になるツル性の草(キャーン)等の自然素材を生かした作品を作り、学校参観日に作品展示を実施した。 高校2年     15年度  
現在、廃材を利用し描く内容を決め(トールペイント)、素材を糸鋸で加工し、作品を楽しく作成中。 高校1・2年
選択
  14年度 15年度  
宮古農林
高等学校
苧麻(ブー)うみ「地域が育んだ文化財をどう守り、後世に伝えていくか」という課題の解決のため、ブー積みの知識・技術を学び、宮古上布の伝承に貢献したい。1. 実態調査 2. 苧麻(ブー)の栽培 3. 苧麻(ブー)積み従事者との交流、実践 4. まとめと今後の課題 高校3年 13年度 14年度 15年度  
宮古織製作(1)糸巻き(2)糸のつなぎ方(3)練習用織機で織る(4)整経(5)織る(6)糸づくり、草木染め 高校3年 13年度 14年度 15年度  
宮古工業
高等学校
三線演奏で沖縄の伝統芸能に触れさせ、郷土に対する興味と誇りを持たせる。 高校3年
選択
  14年度    
カンカラ三線の製作 楽器に対する愛着と郷土音楽に触れさせる。 高校3年
選択
    15年度  
 
 
図表2-6 活用分野別教材活用状況
分類 件数
宮古上布 4
宮古織製作 1
宮古焼き 2
陶芸製作 1
民具づくり 1
民具見学 2
アダン葉草履製作 1
カンカラ三線製作 1
自然素材や廃材を生かした工作 2
伝統的郷土料理 1
伝統的郷土料理づくり体験 1
みそ・豆腐づくり 1
鰹節工場見学 1
製塩所見学 1
泡盛製造体験 1
漁業・漁法 1
鰹漁体験 1
三線演奏 2
伝統行事・祭事 1
※網掛けは、手わざ実践体験
 
 
ウ 伝統的な製造業や手わざ活用の主な理由
 伝統的な製造業や手わざを教材に活用する主な理由としては、「地域の歴史に関心を持たせること」が最も多く、以下「地域に根づく生業に関心を持たせる」「郷土に愛着を持たせる」「手わざを通じて地域の多様な人材と交流ができる」が主要な理由となっているが、「創造力・感性を育む」や「多様な経験の場を提供する」とする意見も得られた。
 
図表2-7 手わざ等を教材として活用する理由(複数回答)
項目 回答教
(1)手わざを育んだ地域の歴史に関心を持たせること 15
(2)地域に根づいている生業に関心を持たせる 9
(3)手わざを通じて郷土に対する愛着・誇りをもたせること 9
(4)手わざに関わることで創造力・感性を育むこと 4
(5)多様な経験の場を提供すること 4
(6)手わざを通じて地域の多様な人達と交流ができること 7
(7)その他 0
(8)特に重要でない 0
(9)無回答 1
 
 
エ 伝統的な製造業や手わざ等に関連する課外活動の状況
 回答が得られた20校のうち、課外活動でも伝統的な手わざ等に関連する取り組みがみられるのは2校であった。
 
図表2-8 伝統的な手わざを活かした課外活動
学校 活動クラブ等 所属児童生徒数 指導者
上野小学校 三線クラブ 7 外部講師
宮古農林高等学校 農業クラブ・家庭クラブ 8 米田洋子
 
 
オ 伝統的な製造業や手わざ等の活用に関する課題
 伝統的な手わざ等の活用するにあたっての課題として多くの意見が得られた。その内容は「人材の確保」や「人材活用の仕組み」などの人材に関することが最も多く、その他、「対応する事業者や技能者の負担」、クラス単位で対応する場合の「場所や空間の確保」に関すること、その他、特に学校側が主体となって取り組む必要がある課題等があげられた。
 
図表2-9 手わざ等を教材や野外活動に活用する際の課題
分類 意見
人材確保 人材の確保
地域ボランティアを要請する場合の日程調整や謝礼などをどうするか。
地域ボランティアを要請する場合の安全面での配慮(保険をどうするか)
小学生向けに説明してくれる人が不足している。
地域の伝統的な工芸・民芸・美術等、総合的な学習の時間で実施することができるが、手わざ職人の確保、工房等人的物的な部分で不十分な所がある。
指導者の確保
やはり、地域の伝統を教材として活用するには、もちろん教師もそれなりに勉強する必要があり、また、もっと地域の人材を発掘し、指導を依頼することも大切であると思う。
人材活用の
仕組みの充実
外部講師との連絡調整が課題
地域人材の活用
各市町村で作成している人材バンクをもっと実用性のあるものにしてほしい。(依頼してもあまりいい返答がなかったことがあった)
地域の伝統的な製造業やものづくりの手わざ等を教育教材に活用することによって、地域の多様な人たちと交流し、郷土に対する愛着や誇りを持つことができると思う。
体験的な学習は「総合的な学習」で取り扱うことが多いと思うが、近年この学習の事前段階での綿密な計画・評価・子ども達のワーク等、事前事後の準備で時間・労力を要している。受け入れ側と依頼側の相互協力の充実で中身が充実した活動展開ができると考える。
後継者の育成 地域の伝統的な製造業、美術・工芸等は、受け継いで発展させる必要があり、若い人の後継者を育成することは急務だと考える。
対応者の負担 製造業者の営業に支障(生産活動の迷惑)をきたす。一度だけならよいが何度ともなると気が引ける。
宮古上布のように公的機関の対応ならよいが、個人営業等に何度もお願いしにくい。
伝統的な製造業そのものの企業基盤が弱い場合、協力依頼をすることを躊躇してしまう。(やや気が引ける)
場所・空間確保 地域の伝統的な工芸・民芸・美術等、総合的な学習の時間で実施することができるが、手わざ職人の確保、工房等人的物的な部分で不十分な所がある。
平成14年度の夏季休業中に校内研修(職員)で、宮古焼き、宮古上布の研修を実施した。その中で気づいたのは「伝統工芸館のスペースがあまりに狭い」ということ。
学校側主体の
課題
教材づくり 教材が難しい(例えば、宮古上布は体験させられるのが限られるし、理解しにくい)
小学生向けに説明してくれる人が不足している。
実際に見学に行く前に概略を知りたい。できたらwebページを充実してほしい。
時間 夏季休業中に児童を対象にした教室で時間的な余裕のある時実施できればいいと考えている。
現場との打ち合わせ時間の確保
位置づけ 教育課程上の位置づけ
小・中・高校を指定して、技能保持者(人材)を派遣したり、予算措置等を図る。
予算確保 材料費などの予算の確保
活動予算の捻出
時間が限られていたため、カンカラ三線製作で柄の部分を市販物を使用し、予算面が厳しかった。伝統的ものづくりに関連するものに特別予算を設けても良いのではないか。
移動・交通 交通の便が課題







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