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(4)長崎県の港湾特性に対応した重点施策展開のポイント
 長崎県の港湾における観光レクリエーション機能の現状と特性をアンケート調査結果などから再度とりまとめて見ると次のとおりである。
 
○港湾は交通の結節点や観光イベントの会場としての認識は高いものの、港湾自体が直接的に観光レクリエーションの場となっているという認識は希薄である。
○アンケート調査結果では、観光資源が活かし切れていない、とする回答が多い。これは、港湾またはその周辺に観光資源はあるが、具体的に観光レクリエーションの対象として理解されていないことも一因と考えられる。
○しかしながら、港湾やその周辺の観光レクリエーションのポテンシャルを認識して、既に海洋性観光レクリエーション需要を吸収している中核都市や個性的中小都市及び著名な観光地やその近傍地では、今後の海洋性観光レクリエーション需要の増大を見据え、長崎県ならではの海の魅力を活かそうとする意欲がうかがえる。
○港湾でみられる観光レクリエーション活動としては、港湾での釣り、遊漁船での利用、地域の祭りや行事、散策や散歩などがあげられており、広域的な観光や交流につながるものは少ない。また、港湾を利用したイベントでは、駐車場や交通手段の確保などが課題としてあげられている。
○具体的な港湾を意識して商品化されている旅行ツアーなどは少ない。広域観光ルートの一部として活魚などの食や特産物の買物とあわせたツアーが中心である。
○アンケート結果からみると、港湾の観光レクリエーション機能の利用は限定的で、港湾周辺の観光資源の活用も十分行われていない現状がうかがえる。
○しかしながら、佐世保港の西海パールシーリゾート及び長崎港の長崎サンセットマリーナは、ともに県内を代表する広域型の海洋性観光レクリエーション施設として定着している。両者は機能的な相違があるので一概に限定はできないが、大きく分ければ、前者が西海国立公園の景勝地・九十九島観光を軸とした「海の観光タイプ」の中核であり、後者は広大な海洋環境を活用する「マリンスポーツタイプ」の中核であると思われる。
○西彼杵半島の西海町七ツ釜港には、遊漁船の事業協同組合が立地し、時津港には民間マリーナが立地している。これらは、東シナ海に面する外海側と大村湾の内海側にある違いや港湾の所在するまちの特性などを背景に、特色ある海洋性レクリエーション機能特化型としての活用の事例である。
○五島の福江港も福江島及び周辺地域の拠点港湾として、島内外を結ぶ交通ターミナル機能をはじめ人流・物流の基地性と観光レクリエーションの基地性を持っている。ここを拠点とする木口汽船では、水中の生態を展望できる海中公園、五島の風土ならではの数々のキリシタン教会群、や東シナ海に沈む夕陽といった固有の地域資源を活かして観光船を成立させており、港湾の観光レクリエーションの場としての利用を高め、地域経済の振興に寄与するとともに、福江港及び福江市や福江島、ひいては五島列島のイメージをも高めている。
 
 今回アンケート調査結果において『長崎の観光は海洋がキーワード』(旅行代理店)という指摘があるが、先進事例を含めて考えると、長崎県の海の魅力とそれを活かす港湾の役割の重要性が再確認できる。
 このような、アンケート調査結果と事例などに基づいて先に記した「基本的方向」と「地域的展開方策」から、長崎県の港湾特性に対応した重点施策を検討する際に考慮するポイントを次の点に提案する。
 
(1)港湾に関連する「海洋性観光レクリエーションニーズ調査」の実施
(2)海洋性観光レクリエーションの先導的モデル港湾、事業体の指定
(3)港湾の観光レクリエーション機能充実のための「ソフトウェア情報バンク」の設置
(4)拠点港湾を核とする広域連携事業のプロジェクト化
(5)基盤としての「みなとまちづくり」の促進
 
 (1)は、港湾に関連する海洋性観光レクリエーションニーズの動向(利用者ニーズ、事業者ニーズ)を把握し、港湾の観光レクリエーション機能充実の参考資料とするものである。
 例えば、既存の観光統計などに加えて、海洋性観光レクリエーションニーズの全県的、定期的調査を実施し、地域や事業者独自の調査情報なども可能な範囲で結集し、港湾・関連地域(市町村)及び関連事業者などに提供する仕組みが考えられる。
 
 (2)は、港湾の観光レクリエーション機能の充実と地域活性化を促進する意味で、先導的なモデル港湾及び関連する事業体を指定し、全県的な観光レクリエーション機能の普及・利用促進のソフトウェアを提供するための拠点化を図ることを意味する。
 例えば、規模と機能複合度の高い重要拠点港湾(重要港湾のうち中核都市港湾等)に立地している第3セクターの「長崎サンセットマリーナ(マリンスポーツのモデル地区)」及び「西海パールシーリゾート(エコツーリズムのモデル地区)」については、その公的な性格に鑑み、「県内の港湾観光レクリエーション活動の普及・利用促進の先導モデル」と位置づけ、観光レクリエーションにおける港湾利活用の「ソフトウェア等の情報中枢化」を図り、県内の他の港湾やその周辺地域に、情報やノウハウを波及させる拠点とすることが一案として考えられる。また、立地や規模は異なるものの、半島や離島地域の港湾においても、個々の観光レクリエーション活動についてのノウハウなどを学ぶことができる事例もある。
 一方、中小都市や離島の定期航路が就航しているような「地域拠点港湾」では、「地域の観光レクリエーション交通・情報基地型」の機能充実を軸に、その立地条件を活かして、先の活動類型に対応させたソフト分野の魅力の強化や活動類型の状況に応じてモデル港湾としての指定も考えられる。
 半島地域や離島などの人口集積の少ない地域に立地する「一般港湾」では、地域の伝統や個性を高める地域活動と連動して港湾の歴史性・文化性の掘り起こしを行い、背後地や周辺の海域環境などの資源特性を活かして、特定ニーズの吸収を軸に「地域資源対応の観光レクリエーション活動特化型」(例えば、松浦水軍のみなと、ルイスフロイス上陸のみなと、朝鮮通信使のみなと、スキューバダイビングの基地、イルカウオッチング基地、トローリングや遊漁の基地等々)のイメージづくりと連携したモデル港湾とすることも考えられる。
 
 (3)は、港湾における観光レクリエーション機能を充実させるために必要となるノウハウや管理運営の手法、それを進める上での課題や解決方式などの情報提供とアドバイスのできる「ソフトウェア情報バンク」の設置を意味する。例えば、観光情報センターなど既存のデータバンク機能を活用し、そこに港湾の観光レクリエーション振興に関するソフトウェアを集約する方法やそれと関連して専門家からなるアドバイザー制度を設けるのも一案である。
 
 (4)は、海洋性観光レクリエーションについて拠点機能を持つ港湾を核として、周辺の港湾や海域を活かした広域的な連携を推進することを意味している。これは、先に記したように、港湾立地の状況と機能特性を組み合わせて需要に見合った広域事業を立ち上げるもので、商品化するための体験プログラムの整備やモーターツアーの実施を念頭に置くと更に効果的である。
 例えば、長崎サンセットマリーナ、西海パールシーリゾートを拠点かつ基地として周辺海域の「中核みなと広域連合(仮称)」を形成し、広域ネットワークや海洋観光ルートの開発を促進して、点から線、線から面へと訴求力を強化することも一案である。
 一方、「地域拠点港湾」の交流拠点化と「一般港湾」の、観光レクリエーション機能特化型の魅力を「中核みなと連合」にリンクさせ、さらには、長崎から佐世保へのクルージングルートとして、例えば「東シナ海クルーズ海道(仮称)」を構想し、このゾーンを軸に、壱岐・対馬も含めて対馬海流域を取り込んだ全県的な海洋性レクリエーションの普及・利用促進を先導することも今後検討の余地がある。
 また、本県は日本の西端に位置しアジアにも近いことから、東シナ海域、朝鮮海峡、日本海などを広範に活かした「国際ツーリングルート」の開発も中長期的な検討課題と考えられる。
※長崎港を中心とする企画として、既に長崎サンセットマリーナから関係者に『“マリンレジャースポット”プロモーション企画案(草案)』が提案されている。これは「海の魅力による新しいレジャー、リゾート客の掘り起こし」を狙ったもので、長崎サンセットマリーナ、出島ハーバー、伊王島、高島の個性を発現させながらネットワークを画したもので、今後の事業のシーズとして大変興味深いものと考える。
※西海パールシーリゾートでは、国、県と連携して、九十九島の無人島を活かしたエコツーリズムの拠点化を検討している。これも広域ネットワークの中で魅力を高めることができる体験型の取り組みであり、長崎港の広域連携が都市近郊のマリンスポーツ体験を軸とする魅力複合型のモデルとすれば、西海パールシーリゾートの取り組みはエコツーリズム型のモデルとも言える。
 
 (5)は、生活空間としての「みなと」を核に地域の個性や潤い豊かな環境を推進することが、「みなとまちづくり」であり、引いては港湾を活かした観光まちづくりにもつながるものと考えるものである。
 そのためには、「みなと」を「地域の財産」として育て、生活、産業、交流などに多面的に活かしていくことが重要であり、港湾整備から管理運営に至る各段階で可能な限り住民参加の仕組みを工夫して「みなとまちづくり」を促進することが必要である。その具体的な手法の一案として、住民が港湾の整備や管理運営に可能な限り参加し、官民が一体となって港湾の機能を高めるための住民参加型プロジェクトアセスメント(事業の事前評価)や港湾環境管理アダプションシステム(港湾里親制度)などがある。
 港湾における観光レクリエーション機能の充実を図るためには、地域が持つ個性的な海洋資源を、地域住民や海の利用者自らが、貴重なものとして実感するとともに、地域の文化として定着させることが求められる。その意味で、幼少の頃から地域の文化に親しむための取り組みを促進することは重要である。また、長崎サンセットマリーナやパールシーリゾート、遊漁船組合などの関係者もその方向で取り組んでおり、引き続き、海洋少年団などの活動を通じた具体的な海の体験学習カリキュラム(環境学習)などを進めることも必要と考える。
アダプションシステムとは「里親制度」の意味で、ここでは港湾の清掃や美化などの一部管理運営を住民やNPOを中心とする里親に委託するシステムである。里親は自主性をもって環境管理に当たることになり、地域関係者の環境保全や港湾に対する理解を深めるのに寄与するものである。







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