第IV章 長崎県における港湾を活かした観光まちづくり推進の考え方
1 港湾を活かした観光まちづくり意識の共有と人材育成
港湾の観光レクリエーション機能の充実を進めるには、今後の社会経済環境の変化や地域の立地変化などを踏まえ、港湾の多面的な機能を見直すとともに、「地域の“みなと”としての認識」を深める上で、市町村をはじめ住民など多様な主体が計画づくりから管理運営に至るまで幅広く参加する視点が重要となっている。
「みなとまちづくり」については、既に国土交通省によって提案されており、今年度から、「みなとまちづくり事業」に先行的に取り組む自治体の人材育成の研修会も進められている。
長崎県としても、観光も視野に入れ、交流の拠点としての「みなとまちづくり」のあり方について、人材育成や地域のオピニオンリーダーなどの発掘とあわせ、検討を進める必要がある。
2 港湾を活かした観光まちづくりの推進における行政対応の今後の課題
現在、県内の市町村では、港湾の交通結節点や観光イベントの会場としての認識は高いものの、港湾自体が観光レクリエーションの場であるとの認識は低い。これは、長崎県の港湾が、大都市近郊の港湾のように観光面での需要が集中しているところではないことも一因であろう。また、港湾の整備から管理運営についても、従来型の交通や物流の機能拡充を軸に進められてきたことも要因として挙げることができよう。
しかし、今後の港湾においては、従来型の機能のみだけでなく、地域の活性化に資するための港湾やその周辺部を含めた地域の観光レクリエーション機能の拠点としても重要性が増すものと考えられる。
そのため、今後、次のような対応の検討が課題となるであろう。
(i)観光レクリエーション機能の充実を含むみなとまちづくりについて、住民・NPO・観光レクリエーション事業者・市町村・港湾管理者などが協働して進めることができるための機会づくりや情報提供
(ii)港湾における観光レクリエーション機能の充実に関する部門横断的な行政連携の強化
・港湾部局と観光など関連部局との連携の強化
以上の問題意識から、みなとを活かした観光まちづくりの進め方としては次の3点が考えられる。
(1)既存の観光振興組織の取り組みと港湾が持つ多面的機能との連携による観光レクリエーション機能の充実
(2)地域主導による「みなとを活かした観光まちづくり推進プログラム」の策定
(3)みなとを活かした観光まちづくり活動の展開
(1)は、既存の観光振興組織の取り組みと、港湾の多面的な機能を連携することで、その交流機能の中核を担う観光レクリエーション機能の充実を促進する部門を横断的な取り組みの強化を図ることである。具体的には、既存の観光振興組織などにおいて、港湾管理者が港湾の観光レクリエーション機能について積極的に働きかけて理解を促進することを意味する。
(2)は、先のニーズ調査と連携して港湾及びその周辺地域に呼びかけ、地域主導で「みなとを活かした観光まちづくり推進プログラム」を策定するとともに、社会実験の検討も含めて地域主導による事業推進の可能性を高めるものである。
例えば、県が港湾の観光レクリエーション機能の充実に関する基本方針と進め方のガイドラインを示し、関係する市町村を軸に希望を募り、港湾の観光レクリエーション機能の充実や観光まちづくりを進める意欲のある地域団体などとともに地域主導のプログラム作成を多面的に支援するソフト事業も一案である。
このソフト事業は、その取り組みプロセスにおいて、地域における港湾の多面的機能の再発見や地域の誇りの醸成を含めて住民意識を高めるとともに、観光レクリエーションの資源性や適地条件などを主体的に調査し、自らみなとを活かした観光まちづくりにつなげる効果が期待できるものと考えられる。
(3)は、みなとを活かした観光まちづくりを進める広義のCI運動の展開と言ってもよい。具体的には、地域住民主導による「港を知り、港を生活や観光レクリエーションに活かす活動」、例えば、港湾の多面的な見直しワークショップ、海洋性レクリエーション体験、プレジャーボートの不法係留の実態把握、海域利用調整の学習、港湾・関連地域の清掃活動、港湾管理に対する障害などの検討、それらを含めた港湾の観光レクリエーション活用に関するシンポジウムの開催など多面的な展開が考えられる。この取り組みも、国の「みなとまちづくり」の取り組みなどとの連携を検討しながら、(2)とも複合した展開や支援を検討した方がより効果的であろう。
あとがき
これまで長崎県における港湾の観光レクリエーション機能の充実について、「みなとを活かした観光まちづくり」の視点から検討を進めてきた。
この検討は、背景に、「観光・交流振興において港湾をどのように位置づけ、いかに活かすか」といった観点を踏まえ、調査の趣旨からして、「港湾における観光レクリエーションの場としての魅力や観光振興面での活用からみた機能充実のあり方」を中心に検討したものである。
内容としては、市町村・港湾、観光関連事業者及び関連団体へのアンケート調査や県内の一部先進事例調査を限定的に実施し、既存の調査研究も援用して、長崎県における港湾の観光レクリエーション機能整備、利用実態、及びその普及や利用促進のあり方の検討を主軸に、港湾で行われる類型的な観光レクリエーション活動別の対応方策なども検討した。
しかし、今回調査は港湾の観光レクリエーション機能や関連地域の実態把握を含めて十分ではなく、港湾を活かす視点からの調査としては画期的であるが、まだ序論的な域をでない。
一方、港湾の本来的な機能かつ現状で稼動している港湾機能の多くは従来型の人流・物流機能・水産業を始めとした産業機能である。個々の具体的な港湾の観光レクリエーション利用のあり方を検討するうえでは、当然、個々の港湾について観光レクリエーションを含む総合的な立地条件を検討し、従来型の港湾機能と観光レクリエーション機能との複合や利用上の競合調整などを踏まえ、その中で個々の港湾の観光レクリエーション振興を方向づけることが必要となるであろう。
本研究の成果は、港湾の観光レクリエーション機能の充実を図る、ひとつの方向性を示したものであるが、本文中にもあるように関連部門との連携を強化し、その中でそれぞれの体制を踏まえながら再考する必要があると考えられる。
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