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2 長崎県内港湾の観光レクリエーション活動からみた普及・利用促進の展開方策
(1)港湾における観光レクリエーション機能充実の基本的方向
 先のアンケート調査結果の分析と県内事例を軸とする課題、及び今後の港湾の多面的機能の発揮を踏まえた「みなとまちづくり」の大きな流れからすると、長崎県の港湾における観光レクリエーション機能の整備・利用及び管理運営の現状は、一部を除いてまだ低調で、港湾利用及び管理は従来型の交通・物流機能を中心に推移している現状がうかがえる。
 ここでは、このような現状認識に立って、県内の港湾が今後目指すべき観光レクリエーション機能充実の基本的方向を次の点に集約して捉えておく。
 
(i)地域づくりにおける港湾の多面的機能の再認識、その一環としての観光レクリエーション立地に即した港湾利用の位置づけの明確化
 ・地域づくりにおいて港湾は多面的な機能を有することを港湾管理者をはじめ関連自治体や利用者サイドが再認識し、個々の港湾の立地条件に即して観光レクリエーション振興における港湾の役割を明確に位置づけ、基本認識を共有することが必要である。
 ・アンケート調査結果によると、港湾の主要な位置づけとして、「玄関口・乗り換え口」を筆頭に、「イベントの会場」のウエイトが高い。ウエイトは下がるが、「海洋スポーツ・レクリエーションの基地」、次いで「観光情報の提供の場」としても受け止められている。ただ、「観光レクリエーションとしての活用はない」も同率程度の回答であることを考慮すると、そのような位置づけに対応する実質化はまだこれからの段階と推察される。
 ・港湾にある「観光レクリエーション施設」をみても、施設自体「ビーチ・海水浴場」をトップに、「遊漁船・瀬渡し船発着所」が見られる以外は施設立地は少なく、観光情報の提供施設である「観光案内所」を備えた港湾も限られている。
 ・港湾での観光レクリエーション活動を「支援する各種活動」について「港湾の観光レクリエーション利用がなく、必要がなかった」「どんなことが必要かわからない」といった回答が多く、無回答を含めると、特定の港湾以外では観光レクリエーション需要そのものが少なく、対応の必要性がない現状もうかがえる。
 ・港湾管理に対する利用者サイドの認識として「目的外使用」への希望が挙げられている。詳細は定かではないが、これは一方で港湾管理において、従来型の管理が堅持されていること、他方で地域生活との関連で港湾を活かす「みなとまちづくり」、「観光まちづくり」の動きがまだ活発とはいえないことを物語るものといえよう。
 ・総じて、港湾管理者によるこれまでの管理方針が市町村や住民などに定着している。観光関連事業者や利用者ニーズとして水・電気・トイレ・駐車場の確保、接岸しにくさ、港湾利用手続きや規制の煩雑さなどの指摘はあるにせよ、港湾を中心とするまちづくり意識や観光・交流の場として活かす認識は関係者にはそれほど強くはない。しかし、今後は、港湾の多面的機能の発揮が経済面だけでなく文化振興などの面で地域振興の方策となりうるので、地域づくりにおける港湾の多面的な機能について、まずは港湾管理者が明確な管理運営の方針を示し、地域関係者をはじめ観光関連事業者や利用者の理解を深めながら、みなとを活かした観光まちづくりの協働体制をつくり上げることが期待される。
 
(ii)「みなとの地域化」と立地に即した観光・交流機能の強化
 ・人口減少社会では交流人口を地域づくりの活力源にする基本的な合意事項があり、観光レクリエーション振興はその中核に位置づけられる。今後は港湾の多面的機能の一環として交流機能を担う観光レクリエーション機能についての認識を深め、港湾や周辺での交流人口の拡大や地域振興に結びつけることが求められる。
 その意味で、「地域のみなと」「地域内外の観光レクリエーション基地かつ交流拠点」としての認識の共有と具体化が課題である。
 ・長崎県では、(i)で指摘したように、港湾の観光レクリエーション機能の位置づけは未だ弱い。これは裏を返せば、一部の港湾を除いて観光レクリエーション需要が少なく、併せて従前からの港湾機能である交通及び物流機能を中心に港湾利用や管理が実施されており、例えば目的外使用の意向をもつものは初めから近づきにくい場所として認識されてきたきらいがある(対比的に、利用者にとって、漁港は水産物を介した漁村生活との関連性や自然環境地にあるものが多いため親しみやすい雰囲気はある模様。ただ、質は違うが、漁港を活かす上での重要な課題として漁業との連携や調整がある)。
 ・しかし、アンケート調査結果でみられるように、港湾はイベントを中心に地域の憩いや散策の場であり、多くはないが、内外の観光・交流の玄関口や拠点といった多面的な役割についての認識が存在することも事実である。その意味では、それらに応えるべく港湾と地域との連携及び観光・交流拠点としての利用の可能性を見直し、運用面での緩和などを検討する余地がある。
 
(iii)多様なユーザー(住民、観光レクリエーション客、事業者等)ニーズの把握
【長崎県の観光立地条件からみた港湾の観光レクリエーション需要の低位性】
 ・以下、参考までに長崎県の観光立地条件を「資源条件」と「市場条件(需要の条件)」に分けて概括し、観光レクリエーションニーズ把握の視点を整理する。
<資源条件>
 ・「資源条件」では、サイトシーイング(みる)資源は自然資源、人文資源ともに優れたものが数多い。また、レクリエーション資源も海、山、島など多様性があり、個性的である。しかし、国土の西端地域にあり、県自体の自然地理的な特性として半島、離島が多いため、長崎市をはじめとする中核都市や特色ある中小都市、国立・国定公園区域などを除いて広域誘致力のある観光レクリエーション資源の集積は弱く、分散的である。
 ・とはいえ、県土には、古来、ユーラシア大陸や海を介した東南アジアとの交易をはじめキリシタン文化などの歴史性があり、それらが島や半島といった風土的条件と融合して多様な特性内在させており、小規模ではあっても磨けば固有の魅力を世界に発信できる潜在力をもつものが少なくない。例えば、古来のみなとを含めると、大陸交流をはじめ遣唐使、遣新羅史、元寇、松浦党や水軍の歴史、キリスト教宣教師の入国、朝鮮通信使、オランダなどとの交易やこれらにまつわる人物史など多彩な歴史や文化の蓄積と縁があるものも少なくない。その意味で、それらの魅力を発掘し、港湾の観光レクリエーション機能の整備や利用促進の素材となる資源面での可能性はあるとみるべきであろう
<市場条件>
 一方、長崎県を取り巻く観光レクリエーション市場条件としては、福岡・北九州都市圏だけが主に日帰り圏から一泊圏内の大都市市場である。3大都市圏から遠いこともあって、広域周遊観光地や広域観光ルート沿線地域を除いて遠隔地の観光レクリエーション需要を吸収しにくい側面がある。しかも大都市圏と県内とを結ぶ交通条件において新幹線が未整備であるなどまだアクセス条件が十分ではなく、加えて半島、離島県のため交通や情報基盤を含めて観光レクリエーション需要が津々浦々に十分に浸透する地域構造にはなっていない。
 ・したがって、観光レクリエーション需要の発生・集中が大きく、観光・交流機能充実の必要性が高い中核都市や著名な観光地(市町村別の観光客入込数の上位は佐世保市、長崎市、小浜市、平戸市)及び近傍の港湾は別として、それ以外の港湾では概して釣りや地域内イベントを軸に周辺住民の観光レクリエーションニーズを受け止めるのが中心である。そのため収益事業を手がける観光関連事業者の立地も限られている。
 このように、県自体の市場立地の特性が、今回アンケート調査結果における港湾の観光レクリエーション利用についての認識の低さや機能整備の低調さにつながる要因の一つと見ておくべきであろう。
【必要に成熟化する観光ニーズの分析〜新たなツーリズムニーズとアジアシフトのインバウンドを視野に入れた対応〜】
 ・長崎県の市場立地が大都市近郊に比べて今ひとつとはいえ、平成14年で県の観光入込客延数は3,000万人を超えて漸増傾向にある。
 ・しかも、観光レクリエーション需要は質的に大きな変容を遂げてきており、不況による安・近・短志向に即して車中心の日帰り旅行が増加する中で、近年では、“オルタナティブ・ツーリズム(もう一つの旅行)”の台頭が明確になってきている。それは「体験型旅行」に代表されるエコツーリズム(環境体験旅行)、グリーン&ブルーツーリズム(農漁村体験旅行)、ヘリテージツーリズム(歴史体験旅行)、インダストリアルツーリズム(産業観光)、セラピーツーリズム(癒し観光)、などの小割で成熟度の高い個性的な需要である。
 ・これらは小ロットではあるが、地域固有の「暮らしぶり」や「暮らしの場」など自分の生活と異なる生活文化を追求する体験・学習・交流型の観光レクリエーション需要である。そのため地域にとってはコミュニティビジネスなどと結びつき易く、効果は緩慢だが住民参加を喚起し、マンパワーのアップや漢方薬のように総合的な地域活性化効果をもつ。しかも、それらは目的性の強い需要であるため、小規模でも地域固有の魅力を情報化することで小ロットの特化した需要の誘客がはかれるし、学習旅行(修学旅行)、総合学習との連携も可能である。
 ・加えて、インバウンド需要(訪日観光需要)のアジアシフト(60%以上がアジア圏からの来訪で、韓国、台湾、中国本土からの来訪が多い)の中で、成熟度を増す韓国需要や台湾需要の吸収、中国需要の中期的増大やキャリアアップなどを視野にいれれば、それらの国・地域と至近の距離にあり、古来、大陸や海域交流の蓄積をもつ長崎県にとっては可能性の高い潜在需要である。例えば、釜山大都市圏と直結した航路があり、古来、大陸と南洋文化の十字路にあって朝鮮通信使などの歴史性をもち、今も日韓交流が盛んな対馬の厳原港のように、国際観光や交流と連携した港湾利用の在り方も実現性が期待できる。また、アジア圏だけではなく、ポルトガル宣教師ルイスフロイスの日本への上陸地である佐世保港横瀬に着目した西海町のポルトガルとの国際交流の取り組みも港の歴史性を活かした展開であり、このような可能性が少なくないとみられる。
 
 ・以上は、長崎県のマクロな観光レクリエーション立地の概括と近年の観光レクリエーション需要変化の一端をかいつまんだものであるが、今後は高齢社会における障害者・高齢者の需要も念頭に置いて、これまで把握が十分でない港湾に係わる海洋性観光レクリエーションなどの利用者ニーズの調査・分析(旅行・イベントエージェントを含む関連事業者等のニーズも含む)を継続的に実施し、港湾・観光関連事業者・地域関係者で情報を常に共有し、立地に即した港湾の活用の可能性を探ることが期待される。
 
(iv)地域主導の観光レクリエーション立地分析と固有の活用計画の立案
 ・先にアンケート結果でみたように、港湾・関連地域の観光レクリエーション需要の把握が弱いということは、ニーズに即した港湾・関連地域の観光レクリエーションの魅力や適地などの再発見が弱いことに通じ、収益事業を行う民間事業者の参入やコミュニティビジネスの起業化が少ないことにも通じる。
 ・しかし、先にふれたように、観光レクリエーション需要が成熟度を増し多様化している昨今では、特定のニーズに特化した(例えば、スキューバダイビング)需要の吸収も可能性がある。したがって、まずニーズを踏まえて地域主導で港湾・関連地域の観光レクリエーション立地条件の再評価を行い(魅力の発掘、港湾区域・背後地・近海における観光レク資源・活動適地、観光レク市場、関連事業者、観光地経営体制等の見直し)、港湾の役割を明確に位置づけた観光レクリエーション振興計画を立案する必要がある。事実、アンケート調査結果や現地調査を踏まえると、圧倒的に多い釣りや遊漁船の基地としての利用とともに、イルカウォッチング、スキューバダイビング、海中展望などその港湾・関連地域ならではの利用が見られるのは、地域資源を活かした特定需要吸収型の事業が可能となる証であり、今後の在り方を考える上で示唆に富む。
 
(v)港湾の観光レクリエーション利用基盤の整備、情報受発信システムを核とした多面的利用促進方策の展開
【基盤整備】
 ・住民や域外からの観光レクリエーション利用を促進する上では、港湾・関連地域へのアクセス交通整備、加えて案内板・誘導標識、係船機能(海陸)、駐車場やトイレなどを含む基盤の充実が前提となる。
 ・ヒアリングなどからすると、県内の石炭産業の消失、不況に伴う産業活動の低迷や人口流出などから、地方港湾の人流・物流機能が低迷し、その結果として船の出入りや物揚場など港湾用地の低利用化の発生もうかがえる。これは一面であるが、このほか経済の低迷などによる交通・物流機能や生産機能の衰退で、結果的に併存していた水産機能が残り、その活性化の一環として遊漁や海の体験学習などと結びつける動きもうかがえる。このような港湾は、例えば駐車場とトイレがあれば釣りや体験漁業の基地、あるいはもっとイベントの場として使う展開も考えられる。その意味で、観光レクリエーション施設の整備以前に、港湾環境を活かすための最低の基盤整備や既存施設の活用なども一層考慮すべきであろう。
【地域の情報化と情報基盤の整備】
 ・一方、観光レクリエーション需要の多様化・個性化・高度化の中で、台頭する地域の暮らし体験やふれあいを求める「地域観光」需要の吸収を促進するためには、ニーズに即して関連地域の市町村や事業者などの観光レクリエーション振興の意識を喚起すること、その上で港湾の蓄積を緻密に顕在化し、地域資源の情報化と利用促進のための情報戦略、それを展開できる専門的人材の確保が必要である。その展開の一端としては、育成または導入型の人材調達とマルチメディアからオールドメディア、さらに成熟度の高い観光レクリエーション需要に信頼性の高い口コミによる情報受発信の仕組みなど双方向のコミュニィケーションシステムや顧客管理の強化がポイントとなる。
 ・アンケート調査結果によると、6割の市町村が港湾のPRを行っておらず、港湾の宣伝PRはイベントの場として表に出ているに過ぎない。「必要性がなかった」と言うのが実状であろうが、今後は単一団体や地域内だけでの取り組みではなく、利用者や事業者を含めて広範に連携し、多面的な情報受発信を進めることが急務である。
 ・特に、需要の少ない半島や離島では、繰り返し来訪する利用者の増大を図ることが重要であるため、積極的に港湾・関連地域の情報化やユーザーとのコミュニケーションの拡大を進め、協働して港湾・関連地域の観光レクリエーション機能の充実や海の環境などに参加してもらう仕組みづくりを進めるべきであろう。
 
(vi)多様な主体が協働するみなとを活かした観光まちづくり推進の仕組みづくり
 ・みなとを活かした観光まちづくりの視点から港湾の整備・管理運営を考えると、新たな時代変化に即して多様な関連主体が参加できる管理運営システムを工夫することが重要である。具体的には、港湾管理者として港湾の多面的な活用についての情報提供の機会を拡充するとともに、機会をとらえて住民、NPO、事業者、行政の役割分担にもとづく連携システムの構築を相互に模索することがポイントである。
 ・公的分野では、国、県、市町村の立体的連携、港湾関連地域の市町村内では、みなとを活かした観光まちづくりに対応すべく関連分野との連携を一層強化し、分野横断的な連携体制を拡充することが期待される。
 ・アンケート調査結果では、港湾の観光レクリエーション機能の充実やみなとまちづくりに意欲を示している地域が散見されるので、例えば、このような地域を振興のモデル地域とし、みなとを活かした観光まちづくりを推奨することも一考の余地がある。
 
(vii)港湾の多面的機能を発揮できる管理運営方式の確立
 ・長崎県は大都市圏の直接的影響下にはない。無論、大きな定住、交流人口の集中する地方中核都市(長崎市)、地方中心都市(佐世保市等)や西海国立公園区域にある九十九島などの優れた観光地の近くに立地する港湾では、比較的整備された観光レクリエーション施設や利用がみられる。
 しかし、佐世保港を除いて県管理港湾であり、地域内外の観光レクリエーション需要もそれほど顕在化していなかったため、特に都市集積を離れた港湾では、「地域にあって地域化」が弱く、港湾の観光レクリエーション利用もあまり考えられていない。
 ・一方、今後は、特に地域社会と関係が深い地方港湾、特に半島・離島に立地する港湾は、背後地の人口減少や高齢化が進んでいるので、「地域のみなと」「住民のみなと」として、まちづくりとの関連性をより密にしながら交流人口の拡大を進めていくことが地域活性化につながる。そのためには、特に交流人口を喚起・吸収する最たる分野である観光レクリエーション利用に対応した目的外使用の在り方や地域活性化と結びつける上での港湾管理の運用面での見直し、地域の主導性にもとづく関係者への管理運営委託など新たな港湾の運営管理ルールづくりを進めることが課題である。
 ・併せて、観光レクリエーション活動は地域の全分野との連携で成立する総合性が特徴であるため、港湾の観光レクリエーション機能の充実や活用については、港湾所管と関連分野との協調を強化するとともに、多様な関連主体をプロデュースできる分野横断、関係者参加による企画・マネージメントシステムの確立と関係者間のふだんの交流の下地づくりを進めることが肝要である。







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