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第III章 長崎県の港湾観光レクリエーション普及・利用促進の基本的方向と展開方策
1 今後の港湾整備の在り方と海洋性レクリエーション振興の一般的枠組み
(1)求められる港湾の多面的機能の見直しと港湾を活かした地域主導の観光まちづくり
 景気の低迷、財政の悪化、地域経済の活力の減退、グローバリゼーションやIT化などによる世界レベルでの港湾競合や港湾機能の高度化といった環境変化の中で、我が国の港湾は、その役割に即して効率的な投資及び交通・物流を軸とした従来型港湾から多面的機能を発揮する方向へと再編を迫られている。グローバルな流通機能を担う特定重要港湾などでは国際競争力の強化が求められている。一方、地域の流通機能を担う地方港湾では、地域の産業構造や高齢化社会の到来などの生活条件の変化に対応した交通・物流機能の高度化や港湾の役割分担などを目指した再編のほか、交流人口の拡大によって生活に潤いや活力を与え、立地特性に即して観光レクリエーション基地や交流拠点として息づくための港湾整備と利用促進の在り方が求められている。また、人工環境としての港湾も環境にやさしいエコポート(またはエコロジカルポート)の形成に象徴されるように、自然環境と調和した港湾づくりが求められるようになってきた。
 地域のアメニティ環境と観光レクリエーションや交流拠点の創造という点からは、港湾や周辺地域のウォーターフロントの変化が典型的である。端的に、大都市港湾などの重厚長大型産業集積の跡地が飲食・ショッピング、イベントや観光・交流などの魅力を持つアメニティ空間へと転換されている例は各地にみられる。地方港湾でも、港湾や背後地の立地特性に即して、みなと自体の交流拠点化(水族館、飲食・買物施設・観光情報センター、魚センターの整備等)をはじめ、自然風景地や鯨・イルカなどのウォッチングの基地、遊漁やスキューバダイビングの基地といったものも見受けられる。
 
 このような流れの中で、平成13年3月には、国土交通省によって新世紀港湾ビジョン「暮らしを海と世界に結ぶみなとビジョン−国と地域のパートナーシップによるみなとづくり−」が作成されている。また、平成14年秋に交通政策審議会は国際競争力と地−活性化を踏まえた「みなとまちづくり」を答申。これは「みなと」を徹底して地域の財産として住民参加で育てあげ、それを根底に据えてひろく交流によるまちづくりを方向づけている。
 一方、近年、「観光まちづくり」と言う言葉が定着してきた。これは「住んでよく、訪れてよいまちづくり」を観光振興の理念とし、究極において「生活者交流」(自分の生活と異なる暮らしにふれあい・人的交流を楽しむ)の視点からツーリズムの対象となる個性的なまちづくりを進めようとするものである。
 
 ここでいう「港湾を活かした観光まちづくり」とは、このような流れを踏まえたもので、そのコンセプトは、「みなとまちづくり」と「観光まちづくり」の理念を融合させ、「みなと自体の観光対象・観光レクリエーション基地かつ交流拠点としての整備・活用」及び「みなとを活かした個性的まちづくりからの観光・交流の促進」の2面性に留意して、地域主導による観光レクリエーション振興を目指すものである。
 
(2)海洋性観光レクリエーション振興の一般的体系
 港湾とは、大掴みにとらえれば、海と陸とを結ぶ装置であり、交通や物流をはじめ広く人、物、金、情報の交流拠点としての多面的な役割がある。特に、港湾の観光レクリエーション機能の充実を検討する上では、海域利用の基地かつ拠点である側面が重視されるため、検討の前提として、海洋性観光レクリエーションの振興を踏まえておくことが不可欠である。
 このような認識から、以下、港湾の観光レクリエーション機能の充実を検討する前段として、海洋性観光レクリエーション振興の一般的問題点・課題及び普及・利用促進の枠組みを確認しておきたい。
【海洋性観光レクリエーション普及・利用促進の体系と施策の展開例】
 我が国は島国であり、北海道から沖縄、小笠原に至る多様性のある環海性の立地条件を有するが、国民の観光レクリエーション活動においては、一部海水浴や釣りなどの活動を除いて、海の利用が十分に定着しているとはいえない。確かに海の観光レクリエーション活用には気候、地形、海象などの一定の制約はあるが、基本は「海を知り、海に親しむ文化」の定着を背景に、海の観光レクリエーションの「需要の拡大」と「受入体制」の整備、特に持続可能な開発と環境管理を踏まえた多様な観光レクリエーション活動の意義及び楽しさの周知や利用促進の仕組み(ソフトウェア)づくりが必要である。
以下、既存の研究成果から、海洋性観光レクリエーション普及・利用促進の体系と施策の展開例を示す。
 
参考資料:「ゆとりある国民生活の実現に資する海上レクリエーションに関する調査報告書」平成12年12月運輸省海上交通局、以下A、B、Cを一部改変。
 
A:社会・経済条件や法制度的条件をめぐる促進要因の改善
項日 施策の展開例
(1)余暇時間の増大 ○四季型休暇の実現
○小・中学校における「海上レクリエーション休日」の導入
(2)費用負担の軽減 ○海上レクリエーション関連施設利用における、家族割引制度や小・中学生あるいは高齢者割引制度の実施
○海上レクリエーション関連機材購入の際の、小・中学生や高齢者割引制度の実施
○海上レクリエーション関連施設の共通クーポンの発行(EX:マリンカード)
(3)海事思想に関する啓発 ○生涯学習カリキュラムにおける「海の文化学習」や「海に親しむスポーツ学習」等の導入
○海上レクリエーション関連情報提供の充実(海の情報センター:「シー・i」)
○“海”に関する国際的なものも含めた各種シンポジウムの開催
○海に関する各種イベントのパブリシティによる広報活動の充実
○“海”をテーマにしたトレンディードラマや映画の制作
(4)海上レクリエーション体験の充実 ○“ボート天国”を介した技術・マナーの向上と供に、安全思想の普及
○「総合学習制度」に対応した「海の学習 教室」システムの導入
○海上クリェーション種目の学校教育(体育)カリキュラムへの組み入れ
○小型船舶操縦士等のライセンス取得の容易化(年齢や試験内容)
○海上レクリエーション指導体制充実のための支援
(5)地方公共団体への助成 ○海洋レクリエーション関連各種補助事業の拡充(特にイベント等のソフト事業への支援)
(6)マリンレジャービジネスの育成 ○優良マリンレジャークラブ・スクールの認定と助成
○マリーナ整備等“場”の整備によるボートなどのマリン器材販売促進支援
(7)柔軟性有る行政対応の仕組みづくり ○横断的行政組織対応の推進
(例えば川と海とでの管轄の違いにより、河川を活用したマリーナ整備や港湾における観光レクリエーションの展開等が必ずしも一体的な取り組みができにくい面がある)
○行政事務手続きの簡略化(各種許認可事務の簡素化、迅速化)
 
B:地域サイド固有の条件をめぐる促進要因の改善
B-1:整備・事業化段階で取り組む方策
項目 施策の展開例
(8)施策方針の確立 ○総合計画等、地域計画のマスタープランヘの明確な位置づけ
○海上レクリエーション振興基本構想・計画の策定
(9)基盤・環境整備の促進 ○基本資源としての“海浜”の魅力創出
(自然海浜の保全・養浜、人工海浜の造成、親水性護岸の整備等)
○海に親しむ拠点として、観光(飲食等を含む)・文化等を複合化した魅力的な拠点づくり
○基盤施設整備にあたっての、アクセス条件改善、駐車場整備等海への受け入れ体制の充実
○水質汚濁防止の観点から、トイレ、下水処理施設の整備
○自然環境保全のための環境保全条例の制定
○海浜景観保全のために、景観保全条例の制定、景観協定の締結、デザインコントロール等の実施
(10)用地確保の工夫 ○水面利用に際し、施設用地の造成(埋め立て)を伴えば、漁業補償の問題が生じるため、海面使用料負担で対応可能な漁業区域内(漁協との連携)におけるマリーナ整備の推進
○港湾関連用地・水路(例えば工業用水路、貯木場)など遊休臨海工業用地の転用ができるように「用途変更」の積極的な検討
(11)財源調達の工夫 ○ウォーターフロント整備に関する各種制度事業の導入 工夫
○整備主体が行政の場合、国庫補助の拡充、起債枠の拡大等の実施
○整備主体が民間(第3セクターを含む)の場合、開銀等による出資及び融資(長期・低利)の拡充、無利子貸し付け、税制上の優遇措置等の実施
○公有地の土地信託方式の活用
○会員制(ユーザーの組織化)による預託金方式の活用
(12)事業推進体制の確立 ○運営段階の支持力と運営力(資金、ノウハウ等)を当初から組み込んだ民活型のPFIや第3セクターによる事業推進体制づくり
○施設整備後の摩擦を未然に防止する意味も含め、漁業関係者や地区住民の参入を企図した組織づくり
○ユーザー活用の会員制システムによる整備
 
B-2:地域運営段階で取り組む方策
項目 施策の展開例
(13)海域利用調整の実施 ○海の土地利用計画(海空間ゾーニング)の確定
○漁場利用に関し、漁業者と遊漁(業)との間で申し合わせ締結
(例えば遊漁船の操業区域、操業時間、漁法等の協議組織整備)
○漁業及び航路事業と海上レクリエーションとの調和を図るため、全ての船艇による“自主航行ルール”の制定
(14)環境管理の実施 ○汚水、廃水処理に関するトラブルの未然防止のための、マリンリゾート業者と行政、漁協との協定締結
○行政、民間事業者、地区住民等の共同設立組織(例えば美化財団)等による総合的な海岸美化の推進
(15)安全確保対策の推進 ○事故防止意識の高揚
○安全指導インストラクターの認定
○海難救助パトロール体制の充実(ライフセービングシステムの充実)
○マリンレジャー専用保険の創出
○マリンパトロールの拠点整備
(16)指導体制の充実 ○指導者育成のためのセンター組織の整備
○指導カリキュラムの開発
○海上レクリエーション活動に関する技術習得の場(スクール)の拡充
○活動者の技術向上の目標達成基準としての「資格制度」の拡充
(17)情報提供・PRの実施 ○イベント情報などレクリエーション情報も含む各種海事情報を総合的、一元的に利用できる情報ネットワーク拠点(シー・i)の整備
○競技会やイベントの開催、それに伴うパブリシティの活用による海上レクリエーションエリアとしてのPR・イメージアップの推進
(18)地域運営体制の確立 ○海上レクリエーション関係者の横断的組織の編成による地域トータルの運営体制の確立(前記の海域利用調整、環境管理、安全確保対策などおのおのの協議組織が必要となるが、これらを統合した“横断的”組織)
○前記組織をベースに、“海”資源を地域振興の核として位置づけ
各種産業団体、住民団体などを組み込んだ地域関係者の一体的な推進体制づくり







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