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5 港湾の観光レクリエーション機能整備の特性と普及・利用促進の課題(総括)
(1)港湾の観光レクリエーション機能の現状
(1)地元地域(市町村)の認識
・ 「海」の資源性は、地元市町村の多くが認識しているが、これは必ずしも「港湾の観光レクリエーション利用」に直結するものではない。港湾を「生活・産業のための交通基地」、「漁業の基盤施設」としての見方が強い場合、また、港湾の環境自体が快適でない場合は、観光レクリエーションに結びつけたくない実感もみられる。
・ 観光レクリエーション振興における港湾の位置づけについては、「観光交通の主要結節点」、「イベントの会場」との認識があり、港湾の観光レクリエーションへの利用には、観光産業の振興、地域イメージの形成、地元住民の福祉等多様なメリットが認識されている(メリット感がデメリット感を大きく上回っている)。
 
(2)港湾及び周辺における観光レクリエーション活動の受入施設
・ ビーチ・海水浴場が約4分の1の港湾でみられ、次いで遊漁船・瀬渡し発着所も1割強みられるが、総じて収益施設は少ない。トイレ、売店、駐車場なども各2〜3割程度の保有率であり、観光関連施設の整備水準は必ずしも高くない。
 
(3)港湾の観光レクリエーション利用の実態
・ 港湾でみられる観光レクリエーション活動としては、約3分の2の港湾が「釣り」を挙げている。次いで遊漁船の利用、港湾での祭や行事、散歩・散策、海水浴が各3〜4割ずつ挙げられている。地元利用が多いと推察されるが、観光関連施設の整備水準と対照すれば、相対的によく利用されているともいえる。
・ それ以外のマリンスポーツ、体験活動などは未だ低率にとどまっている。
・ 地元地域が港湾で開催するイベントは少なくないが、長崎の帆船まつり、みなとまつりをはじめ、数カ所を除くと地元住民を対象とする数百人〜数千人規模のものが多い。
・ 港湾ごとに観光レクリエーション活動の受容状況をみると、集客施設・事業・イベント等がみられる港湾は、都市部・離島・漁村等背後地の条件にかかわらず県内各地に分布している(特に観光レクリエーション機能の種類・活動量ともに多い港湾が、都市部を中心に数カ所みられる)。
・ 背後地が似かよった条件にあっても、釣りや散策等の自然発生的な利用以外に主だった利用がみられない港湾も少なくない。中には国際交流史等に固有の資源性があっても「観光レクリエーション利用はない」とする港湾もある(海運や漁業等を主たる利用形態とする地域拠点港にこの傾向が目立つ)。
・ 港湾の観光レクリエーション利用は、県内では現在のところ、港湾及びその周辺陸域にある歴史性や地元の産業等を活かした展開というより、陸・水域のスペース供給力又は、海洋の資源性(景観や生態系)に立脚した展開が主流であるといえる。
 
(2)観光魅力(資源性)
・ そこで、港湾の資源性に着目してみると、港湾及び周辺海域にある観光レクリエーション資源として、約4割が「固有の自然」、3割以上が「固有の歴史」を挙げた。海産物等の魅力も挙げられ、港湾及び周辺には比較的豊富に観光資源があることがわかった。
・ マリンスポーツ等への適地との回答も3割近くの港湾でみられるが、これがどこまで客観的な評価に基づくものかは不明である。
・ また、旅行代理店や広告代理店などからすると、イメージや景観の魅力はあるものの、「飲食・宿泊の魅力」、「気象・海象条件」などは「まだよくわからない」との回答が目立つなど、魅力要因等を把握し、情報化してPRにつなぐ流れは未だ十分でない状況がうかがわれる。
・ 地元市町村では、観光施設の整備が魅力化につながるとの認識が強いように見受けられるが、地元事業者の認識では、大規模な施設に大量の集客をすることが魅力の具現化とは考えず、自然環境を大事に、利用者と意思疎通を図りながら、小規模でも確実な顧客を獲得していきたいとの意向もみられ、「魅力」に対する認識もズレも認められる。
 
(3)港湾の観光レクリエーション利用の促進状況
(1)宣伝・PRによる誘客
・ 港湾を利用した観光レクリエーションの、市町村による宣伝・PRについては、港湾の魅力自体を売るというより、港湾で行われるイベントのPRが中心である。観光協会や商工会、漁協などとタイアップし、地域を挙げた宣伝・実施体制をとっているものが多い。
・ 一方、地元のマリンレジャー事業者等は、地域のイベントに参加したり、自らイベントを開催するような場合もあるが、小規模な事業所では独自に口コミやインターネットホームページによるPRを軸にしているところも多い。いずれにしろ「港湾」という括りでのPRは少ない。
 
(2)観光情報・活動情報等の提供
・ 港湾及び周辺での観光レクリエーションという括りでの情報の提供については、「特に行っていない」とする市町村が6割を占める。旅客船ターミナルがある場合、観光案内所を置く港もあるが、港湾及び周辺陸海域での観光レクリエーション活動に役立つ形の、体系だった提供体制にはなっていないようである。例えば、アクセス交通の連結状況、港湾周辺で宿泊・飲食の場が確保できるかどうか、周辺の観光地・観光施設への交通はどうかなどがわかりにくく、来訪者が自らの活動目的に沿って事前に計画を立てるにも、体系だった情報がなく苦労も多い。
・ 中には、観光地づくりのコンセプトに「海」を位置づけ、観光船業者とタイアップして遊覧を観光の目玉にしている地域もあるが、予約が必要であるなど、事前情報がないと利用しにくい面もある。
 
(3)港湾での観光レクリエーションの支援体制
・ 安全管理や環境保全など、港湾での快適な活動を支える事業等は、県・市町村・民間団体・事業者などが参画し、比較的幅広く行われている(清掃活動、定期巡回、水難救助訓練等)。
・ しかし、港湾の観光レクリエーションを促進する企画、マリンレジャー人材育成、海域での船舶の故障等のトラブル対処など、活動の質や楽しみを支える体制は十分でなく、マリンレジャー事業者等がボランタリーに担っているような傾向もみられる。
・ 市町村、マリンレジャー事業者等が共通的に感じている大きな問題は、漁業者との調整である。配慮を要する問題であり、民間事業者からすると、協議の場を持つなどの面で行政の役割に期待したい意向もみられる。
 
(4)港湾観光レクリエーションの機能の普及利用を図る上での問題点・課題
(1)港湾での観光レクリエーションへの取り組み意向
・ 観光レクリエーション事業者・活動団体の過半数、市町村の半数近くが「港湾での観光レクリエーションへのニーズ・関心は今後も高まるだろう」と見ている。
・ 関心が高まるであろうと注目されているのは、海洋スポーツ、クルーズ、港湾環境を活かした飲食・買い物などであり、現状の釣り中心の活動とは異なる港湾利用イメージも展望されている。
・ 事業者の多くが採算性を気にしつつも、過半数が今後「積極的に取り組みたい」との意向を示している。市町村は、約半数が「現状維持」であるが、「積極的に促進したい」との回答も3割、「抑制したい」との回答は皆無であり、前向きな態勢にあるといえる。
 
(2)利用促進上の問題点・課題
・ 市町村は、観光関連施設の不備や交通の便の問題に次いで、地元に業者が育っていないこと、港湾での観光レクリエーション活動の知名度が低いことを問題視している。
・ 事業者・活動団体は、駐車スペースやレジャー水域の確保、水・電気・トイレ等の確保などのベーシックな施設環境を問題視しつつ、ゴミや違法係留等利用者のモラル意識や「マリンレジャーがよく知られていない」ことを問題視している。
・ 利用促進で有効と思う施策については、市町村は「人にやさしい港湾環境づくり」、「目的外使用への規制緩和」をまず挙げ、事業者は「海洋観光・マリンレジャーの共同的なPR」を挙げている。周辺陸・海域の魅力とつなぎたいとの意向は市町村・事業者を通じてみられ、観光地域・施設間及び公民の「連携」が重要とする認識も共通している。
・ 施設確保については、例えば、市町村でも既存施設を活用して駐車場に充てるなど、必ずしも新規整備に頼らない解決方法をとっているケースもある。民間事業者の場合、施設面での悩みは市町村以上に抱えているとも考えられるが、施設に頼らないサービスを提供する等々、柔軟な工夫もみられる。
・ 港湾の目的外使用への柔軟な対応、海洋観光・マリンスポーツへの理解促進、漁業との調整、海陸の資源性調査やニーズ把握、周辺の観光資源・施設・地元の産業や活動との連携、共同的なPR・情報提供は、公民共通の課題である。共通する課題への共同的な対応体制づくりから着手することが利用促進の早道であるともみられる。
6 実態調査に基づく総括
 
 
 
 
 
 







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