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(2)大和市「どこでもコミュニティ」
(1)大和市の概況
 大和市は、神奈川県のほぼ中央に位置し、東京都心から約40km、横浜から15kmに位置する、面積27.06km2のまちである。市内を私鉄3線が縦横に走り、また国道や高速道路のインターチェンジも近く交通の便がよい。年々人口は増えており、現在21万7千人、年齢構成は全国平均に対して若い。また市外に通勤、通学している市民が多く、昼間人口が減少するという特性を持っている。新旧住民が混在しており、地域コミュニケーションの必要性が高いといえる。
 
図表2-18 大和市の位置
 
(2)背景
 大和市が最初にインターネットによる双方向コミュニケーションに取り組んだのは、平成7(1995)年のことである。都市計画マスタープランの案をWWWで公開し、電子メールで市民の意見を求めた際、従来では世帯あたり0.5%程度にとどまっていた参加率がインターネットはその10倍程度に拡大した。この試みを契機として、インターネットによる双方向コミュニケーションの様々な試みが、各担当課で展開されるようになった。
 昼間の間会社や学校へ行く市民が積極的に地域社会に参加できることを目指し、平成12年1月より電子情報交流システム「どこでもコミュニティ」の運用を開始している。
 
図表2-19 「どこでもコミュニティ」開始までの経緯
平成7年度 都市計画課のホームページを開設
都市計画マスタープラン計画策定でインターネットを活用し市民の意見を募集(全国初の試み)
平成8年度 行政情報の提供に向けたインターネット研究会をスタート
大和市ホームページ本格運用開始
平成9年度 インターネット活用戦略計画を策定
平成10年度 情報化基盤の整備開始。
総合計画見直しのための電子会議室開始。
平成11年度 情報政策課設置。職員へのパソコン教育。通産省地域生活空間創造情報システム事業電子市民会議室「どこでもコミュニティ」開始
 
 
(3)「どこでもコミュニティ」の概要
 「どこでもコミュニティ」は、いつでも、だれでも、どこからでも参加できる電子情報コミュニティである。様々な世代の方々が交流する場として、また行政の政策形成における市民の意見反映の場として機能しており、このシステムを市民に提供することで、大和市民の生活にあった活発なコミュニティを創り出し、元気な大和市を育てることを目指している。
 「どこでもコミュニティ」は、行政主催のコミュニティと市民主催のコミュニティから構成され、大和市の在住者、通勤、通学者、大和市民と行政の活動を応援したい人は誰でも参加できる。発言をするには登録が必要であるが、閲覧のみを行う場合には登録の必要はない。
 
(4)どこでもコミュニティの基本機能と特徴
 このシステムは、画像や音声、動画など多様な手段を利用し意見交換する機能を備えており、より具体性のあるコミュニケーションが行なえるよう配慮されている。また、電話やFAXから、コミュニケーションへの参加と情報の取り出しを行なうことができ、インターネット以外の手段でも情報の取得や発信ができる。このことによって、できるだけ多くの市民が気軽に参加できるようにしている。
 また、発言をする際には「起(提起)」「考(考察)」「案(提案)」「問(質問)」「答(回答)」「独(独り言)」の6種類の中から自分の発言意図にあった発言種別を選択する仕組みになっている。これにより、どこでもコミュニティでは、進行役がいなくても議論が結論(提案)に向かって流れ、さらに質問と回答が議論の流れを妨げないように工夫されている。
 
図表2-20 「どこでもコミュニティ」の基本機能と特徴
機能 特徴
電子コミュニケーション
機能
・協働で情報カードの編集ができる。
・ソートなど情報の整理ができる
・情報カードの検索ができる
・情報提供の種別を選択できる
電話による
参加機能
・電話番号を認識し自動的に認証する
・音声で電子コミュニケーションに参加できる
・投票にも参加できる
・パソコンの苦手な人も、携帯電話で意見を言いたい時も、いつでも、だれでも、参加できる
FAXによる
参加機能
・電話番号を認識し自動的に認証する
・FAXで電子コミュニケーションに参加できる
・情報カードを取出すこともできる
・パソコンの苦手な人も、携帯電話で意見を言いたい時も、いつでも、だれでも、参加できる。
画像データ
・ベース機能
・市民と行政が協働してつくる画像データベース
・充実した検索機能を利用できる
・会議室の発言とリンクさせることができる
・文章を書くのが苦手な人も、画像を引用しながら説明できる
リアルタイム・
コミュニケーション機能
・NetMeetingでリアルタイムの会議を開くことができる
・コミュニケーションをより深めるためにコミュニケーションボードを使うことができる
電子投票機能 ・電話からもインターネットからも投票できる
・認証システムで重複投票を防ぐことができる
・投票の結果がすぐにわかる
認証機能 ・電話でも、パソコンでも認証できる
・コミュニティに安心して参加できる
・安心して投票できる
・誰が何を言っているのか分かり、安心できる
 
(5)職員の取り組み
 どこでもコミュニティの情報交流の様子は、大和市の全ての行政組織に配信される。大和市職員は、どこでもコミュニティに全員参加で取り組んでおり、職員はeメールアドレスを持つと自動的に「どこでもコミュニティ」のシステムに登録され、市民と個人名で責任を持って
やりとりする。「どこでもコミュニティ」に書き込まれた内容については、履歴の残る周知のもとでの対応が求められ、職員の責任ある対応は、市民からの信頼を増すことに貢献している。
 
(6)最後に
 大和市の「どこでもコミュニティ」は、現実の空間に近づくことを目指している。住民にとっては電子会議室に信頼感が持てるかどうかは重要な点であり、その点大和市の「どこでもコミュニティ」は、行政職員が個人名を公開し責任を持って対応することで信頼感を増しており、現実世界と電子掲示板とをうまくつないでいる。また、市民は便益の増加のためだけではなく、誰かの役に立つようにとの思いから発言するので、相手が誰かということがある程度は分かることは信頼感が増すためにも重要である。
 大和市の「どこでもコミュニティ」は、その信頼感によって参加者が着実に増えており、活動が広がっていると考えられる。
 
(3)浦安市「e-まっぷ・システム」
(1)浦安市の概況
 浦安市は、東京湾最奥部、千葉県西北部に位置し、東京都に隣接する面積16.98km2のまちである。
 昭和58年には東京ディズニーランド、平成13年には東京ディズニーシーが開園し、その周辺では国際級の大型ホテル群や多目的ホールが建ち、ベイエリアの中核都市として目覚しい発展を続けている。
 人口は14万7千人(平成15年12月末現在)、高齢化率(65歳以上の人口の占める割合)は約8.5%と全国有数の若い都市である。
 
図表2-21 浦安市の位置
(2)上位計画
ア 上位計画
 浦安市では基本構想において、まちづくりの基本理念の一つに「市民と行政が協働するまちづくり」を掲げており、情報化の推進にあたってはこの基本理念に沿った各種施策を推進している。
 平成13年3月に「浦安市情報化基本計画」を策定し、浦安市の情報化を推進していくための指針を示した(計画期間:平成13年〜22年)。情報化基本計画では、情報化を進めることにより、市民サービスの向上や行政事務の効率化を図るとともに、「人が輝き躍動するまち・浦安」の実現に取り組むことを明確にしている。
 そして、平成14年2月には「第一次浦安市情報化整備計画(:以下、整備計画という)」(計画期間:平成14年〜16年)を策定し、「浦安市情報化基本計画」に基づき具体的な事業の取り組みとスケジュールを示した。整備計画では電子自治体に求められる具体的な市役所像を「市民サービスの向上を目指すもの」と「行政の効率化・質の高度化を図るもの」の二つに大別し、それぞれの3年後のイメージを描いた上で、年度ごとの事業計画の概要を示している。事業計画は、(1)人と都市(まち)を守る情報化、(2)生きがいと暮らしを広げる情報化、(3)賑わいとふれあいを育む情報化に大別され、(1)の中で「統合型GISの構築」も明確に位置付けられている。
 
イ 統合型地理情報サービス(双方向型インターネットGlS)事業計画
 浦安市では、電子自治体の推進と市民主体のまちづくりを推進する有効な手段(コミュニケーション・ツール)として、高い導入効果が期待されているWebGISと平成12年度に確立し整備を進めている「共用空間データベース(e-まっぷ)」とを連携させた「双方向型インターネットGIS」=『e-まっぷ・システム』の構築を「浦安市統合型地理情報サービス(双方向インターネットGIS)事業計画」に基づき、平成14年度より進めている。
 なお、『e-まっぷ・システム』の構築あたっては、下表に示す3つが基本方針とされている。
 
図表2-22 事業計画の3つの基本方針
基本方針 内容
庁内から地域へ 有用な共用空間データベースを地域に還元
・「共用空間データベース」を地域へ配信する仕組みを提供
・行政情報を「共用空間データベースとともに配信
・「共用空間データベース」の配信にはGISを活用
情報提供から
サービス提供へ
地域活性化と生活創造への活用ツールを構築
・「e-まっぷ・メール」、「e-まっぷ・掲示板」、「e-まっぷ・ひろば」、「my-まっぷ」を提供
効果から公益へ 見るだけのページから使えるページへ
・地域の方々にディスクスペースを提供
・ディスクスペースとともにシステム機能(GIS)も提供
・利用者同士の情報閲覧を可能にする
 
 
(3)双方向型インターネットGIS(=『e-まっぷ・システム』)の全体像
『e-まっぷ・システム』は、「e-まっぷ・メール」、「e-まっぷ・掲示板」、「e-まっぷ・ひろば」、「my-まっぷ」で構成されており、それらの様々な機能を使用目的に応じて使い分けることができる。
 
図表2-23 e-まっぷ・システムの全体像
 出所:浦安市
 
ア 「e-まっぷ・メール」
 市民から市へ、もしくは市民間で地図付きメールを送信するためのメールサービスである。
 市民からの要望や意見の対象(場所・位置)が明確になるため、例えば、市民は、電球の切れた街灯の場所や道路の陥没した場所などを明確に伝えることができ、受け側の市は、的確に状況を把握することができる。また、アンケートに利用すると、位置を伴う情報収集を行うこともできる。地図が送信されることにより、記入する側も負担も軽減される。これまでに、(1)都市計画マスタープランの素案に対する意見の収集、(2)散歩調査、(3)交通バリアフリー基本構想に対する意見収集などで活用が図られている。
 
図表2-24 e-まっぷ・掲示板
(拡大画面:231KB)
出所:
浦安市
 
 
イ 「e-まっぷ・掲示板」
 様々な行政情報をタイムリーでわかりやすく地域へ提供するサービスである。
 都市計画法指定状況や施設案内など位置を伴った情報提供に適している。インターネット上に情報を公開することで、情報提供のスピードアップが図られる。目的を達成した情報については、一斉に削除する。
 
ウ 「e-まっぷ・ひろぱ」
 市民が主催者となってトピックを立ち上げ、位置を伴う意見交換を行うサービスである。
 場所の詳細な情報を記入せずに情報が共有できるので、市民相互のコミュニケーションの活性化に寄与できる。「e-まっぷ・ひろば」上で交わされる意見や情報を参考にして、まちづくりなどの各種施策立案に役立てることも可能となる。
 平成13年度には、総務省の実証実験としてこのサービスを提供した。実証実験では、書き込む人を事前に登録した幅広い年齢層で構成される約100名に限定し、閲覧に関しては一般に公開した。行政が発言をすると意見の広がりが期待できないと考え、行政による発言は控えた。
 トラブル防止のため、明海大学教授を道先案内人として迎え、発言内容を事後的にチェックしていたが、「速度が遅い」、「分かりにくい」などの苦情を除き、市民間においてトラブルは特に発生しなかった。
 現在、前述のシステム上の課題解決や運用面でのルールを策定中とのことであり、平成16年度中の稼動に向け、準備が進められている。
 
エ 「my-まっぷ」
 GIS機能を市民(利用者)に提供するサービスである。
 あらかじめ登録した利用者・団体は専用の主題図・レイヤを各自のマップ内に持つことができ、作成した地図情報はインターネット上のキャビネット(マップを収納する棚のようなもの)に各自で保存できる。ブラウザ上から作図やデータ登録などのGIS機能を利用でき、利用者・団体間で、作成した地図を閲覧しあうことも可能となる。
 さらに、必要な場所の地図を市民が自由にダウンロードできる機能も提供するという。
 「my-まっぷ」の開発に先立ち、浦安市では、平成13年度に、前述の「共用空間データベース」をCDに焼き付け、市内の一部の小中学校に実験的に配布した。
 これを活用し、小学校児童は新浦安駅前再開発計画を作成、また、中学校の生徒は、バリアフリーマップの作成や放置自転車調査を行った。このとき得られた情報は、その後、行政資料の一部として利用されており、地図を介した地域と行政の情報共有のひとつの事例となった。
 「my-まっぷ」の開発は、これらの取り組みをさらに広げるための取り組みと言える。
 なお、個人の利害に関わるものなど行政が提供することが適当でないと考えられる情報もあるため「e-まっぷ・ひろば」や「my-まっぷ」は将来的には、NPO等に管理をまかせることも検討課題に挙げられている。
 
図表2-25 児童による駅前再開発計画
出所:
浦安市
 
 
(4)セキュリティの確保
 市民から発信される情報のなかには、誹謗・中傷、あるいは、個人のプライバシーを侵害する恐れのある情報も含まれている可能性がある。そこで、インターネットを活用した双方向Webサイトでは、セキュリティを確保するために、「定められたサイト運用ルールの遵守」と「ルールに整合するシステムの仕組み」が両立する必要がある。統合型地理情報サービス事業計画では、セキュリティ確保の機軸として利用者の管理と書き込み内容の制限について下表のように定めている。
 
図表2-26 セキュリティ確保の機軸
利用者の管理
について
利用制限 提供情報の選択権限、個人情報保護の観点から、コミュニティサイトの一部の情報については、利用制限を行う。 
利用者事前登録制 利用者登録には、事前登録制を用い、利用者が事前に書面などによりユーザー登録申請書をサイト管理者(当面は市)宛に提出し、サイト管理者は一定の基準(別途定める)により評価を行い、基準に合致する者に対して許可書(ユーザー、パスワード)を発行する。
書き込み内容の制限
について
行政及び第三者による監視 「e-まっぷ・ひろば」では、基本的には自由な書き込みとその公開を行う。だだし、行政及び第三者機関(検討課題)により一定のルールが守られていることを監視し続ける。ルールに違反した書き込みなどが発見された場合には、速やかに情報の削除・是正指導を行う。
行政が確認したもののみ公開 myまっぷでは、書き込まれた内容が一定のルールにそっている場合のみ公開する。公開前までは自由な書き込みと利用を認める。
 
 
 「e-まっぷ・ひろば」は、現在開発中であり、実験では書き込まれた内容をそのまま公開し、事後的にチェックを行っていた。本格稼動にあたっては、事前にチェックした内容のみを公開する予定であるが、詳細については今後の課題となっている。現在におけるインターネットGISの分野は、まだ黎明期にあるといえ、参加者は限られている。浦安市は躊躇するのではなく果敢に挑戦し、課題が見つかるごとに対処を図っている。
 
(5)『e-まっぷ・システム』で収集された意見・情報はどのように活用されるのか
 現在までに、都市マスタープランの素案に対する意見収集や散歩調査、バリアフリー基本構想策定に伴う意見収集で、『e-まっぷ・システム』の各種サービスを利用して来たが、その意見によって、そのまま政策が決定されるわけではない。地図上に掲載された様々な意見を基にして行政が地域の課題を発見し、政策に反映している。したがって、『e-まっぷ・システム』で何かが決定されるわけではなく、政策判断のひとつのツールとして用いられていると言える。
 また行政への意見募集を『e-まっぷ・システム』を重視するように移行していくわけでもない。『e-まっぷ・システム』は目的ではなく、あくまで手段(ツール)である。ITという便利なツールを利用して、窓口のひとつの手段を増やしたり、地域が情報発信する際の負担を減らすためのサービスである。『e-まっぷ・システム』を用いて寄せられる意見と従来のツールによって寄せられる意見の扱いには、現在においても今後においても差はない。
 
(6)将来展望について
 浦安市が一貫して言い続けていることは、単純明快である。「情報を地図の上で共有し合いましょう」ということ。道路と同じように、社会基盤として「共用空間データベース」という、言い換えれば、情報を貯めるための倉庫を整備した。その倉庫には規則正しく棚が敷き詰められている。場所と言う棚である。行政はその棚に今まで貯めてきた情報を載せ、市民に提供し始めた。
 そして、市民の持っているみんなで使えそうな情報もこの棚の上に載せ、市民間、あるいは行政で活用する。お互いに情報を出し合い、お互いに利用し合うこと。少し昔、ITなど使わなくても実現していた人と人とのコミュニケーションである。このコミュニケーションを明るく楽しく進めるために今度はITの力も利用する。多くの情報を扱うことも出来るし、より多くの人と繋がりあう可能性を秘めているからである。
 これまで、浦安市の進める『e-まっぷ・システム』を中心に紹介をしてきたが、その目的、そして、将来の姿を言い表すならば、もしかしたらこの絵1枚で十分だったのかもしれない。
 
図表2-27 共用空間データベースを地域と行政のプラットフォームとして相互利用
 出所:浦安市







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