4 先行事例におけるトラブル予防策・対応策と活性化策
2および3では、トラブルヘの予防策及び対応策と活性化策について、その一般的な現状を整理した。
ここでは、地方自治体が開設しているホームページにおいて、電子会議室に代表される投稿参加できるシステムのトラブル予防策・対応策、活性化策等を具体的に整理する。
図表2-11 藤沢市の位置
(1)藤沢市市民会議室
(1)藤沢市の概況
藤沢市は、神奈川県の南、東京都心から約50kmに位置し、面積69.51km2、人口は約38万人の都市として発展を続ける良好な住宅都市であり、JR東海道線、小田急江ノ島線、江ノ島電鉄、湘南モノレール、相鉄いずみ野線、そして横浜市営地下鉄が乗り入れるなど、交通に恵まれている。また、市内には日本大学、湘南工科大学、慶應義塾大学、湘南国際女子短期大学の4大学が設置されており、学園文化都市としても発展を続けている。
(2)上位計画
「藤沢市地域情報化基本計画」(平成8(1996)年3月策定)を改定し、平成13(2001)年3月に「藤沢市地域IT基本計画」が策定された。「藤沢市地域IT基本計画」は、地域情報化が多様な関係主体(市民・企業・学校・行政など)の協働により行われているという認識に基づき、藤沢市の地域情報化への基本的な方向性を明らかにし、これらの主体との間で情報を共有することや、関係主体が実施する地域情報化施策を整理し、推進方向を示すことを目的としている。
「藤沢市地域IT基本計画」において、「市民参加の推進〜参加のための情報化〜」及び「市民自治と市民の自己実現の推進〜明日のための情報化〜」の項目の中で、市民電子会議室は位置づけられている。
(3)「市民電子会議室」とは
「市民電子会議室」は、震災を契機としたボランティアネットワークなどの地域の情報化に対する必要性の高まりと、インターネットの急速な普及を背景としており、インターネットを利用した「新しい市民参加システムの構築」と「コミュニティ形成」を目指すものである。
「市民電子会議室」は、市政に関する事項をテーマとする藤沢市が主催する「市役所エリア会議室」及び新しいコミュニティづくりを目的とする「市民エリア会議室」により構成されており、身近な生活の話題から、地球環境に関することまで、さまざまな意見や情報の交換が行われている。参加資格は藤沢市民に限らず市外からでも参加でき、藤沢市在住・在勤・在学であれば、会議室を開設することもできる。
平成9(1997)年2月から実験的に進め、平成13(2001)年4月に本格稼働している。
(4)運営方法と特徴
ア 運営方法
「市民エリア会議室」では広く開かれた場として、参加者自身が会議室を開催するなど参加者同士の自由な情報交流により、新しいコミュニティ形成をはかっている。
また、「市役所エリア会議室」では、開かれた市政を目指し、市政への新しい市民参加の場として、市民からの提案事項や市がテーマ設定した事項について意見交換を行っている。
これらは、慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)や藤沢市産業振興財団と協働して、市民公募による運営委員会により運営されている。(注:慶應義塾大学SFC研究コンソーシアムのひとつとして、金子郁容研究室が中心となって実施している研究プロジェクト「VCOM」がある。)
表2-12 市民電子会議室イメージ図
出所:藤沢市
イ ルール(決まり)
「藤沢市電子会議室」は市民エリアと市役所エリアから構成されており、全体に関するルールと、市役所エリアに関するルールが定められている。なお、市民エリア会議室は、各開設者が個別のルールを定めることができる。
図表2-13 藤沢市市民電子会議室の全体ルール概要
登録 |
「市民電子会議室」に発言を投稿する場合には登録が必要である。発言の閲覧のみの場合は、登録の必要はない。 |
参加資格等 |
誰でも参加できる。ただし、各会議室ごとのルールにより制限される場合がある。 |
参加者の責任 |
参加者はルールにしたがい、発言をする場合は、公序良俗に反する発言等はしない。また、各自の発言については各々が責任を負う。 |
会議室の開設 |
会議室の開設は市内在住、在勤、在学の方のみができる。また、会議室の目的が法を犯すものや公序良俗に反するものは認めない。 |
掲示板の作成 |
会議室ごとに作成できる。 |
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資料:藤沢市
図表2-14 市役所エリアのルール概要
参加者 |
本名で発言する。また、テーマに沿った発言をする。 |
会議室 |
会議室のテーマ設定は運営委員会で行う。 |
提案等 |
会議室で意見交換され、提案としてまとまったものについては、運営委員会が「提案」として市に提出する。また、市は責任のある対応をする。 |
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出所:藤沢市
ウ ロール(役割分担)
運営委員会、世話人、進行役は、それぞれの役割が定められており、分担することで、「市民電子会議室」が運営される。
●運営委員
運営委員は、公募により選出され、2年を任期として市民電子会議室の運営にあたる。
運営委員会の仕事としては、(1)地域の課題、市政全体の課題、市民電子会議室への投稿の中から市民電子会議室の市役所エリア会議室のテーマを設定し、会議室を開設する、(2)会議室でまとまったことがあれば、運営委員会で取りまとめて、市に政策提言や提案として提出することができる、(3)会議室の目的を達成するために必要な活動をおこなう(議論の基礎となる情報の収集、会議室のPR・発言のまとめ及び意見の集約を行う)、(4)市民電子会議室の「全体ルール」(すべての会議室に適用)、および「市役所エリア会議室ルール」(市役所エリア会議室にのみ適用)の制定、改廃をおこなう、(5)ルール違反に対応する(違反者への注意、警告や発言の削除・登録削除等)、等がある。
●世話人
世話人とは、運営委員会をサポートして、市民電子会議室が円滑に運営されるように、市民電子会議室全体の世話をする者のことである。そのため、世話人は、登録者管理機能や会議室管理機能等の管理者専用機能を使用することができる。現在の世話人は、慶應義塾大学訪問研究員としてネットワークコミュニティを研究している粉川一郎氏と、VCOM事務局の編集工学研究所主任研究員の太田剛氏の2人が務めている。
世話人の仕事としては、(1)会議室開設依頼を受けて市民エリア会議室の開設設定をする、(2)市民エリア会議室開設者に対して、会議室の運営方法、開設者専用機能の使い方等をアドバイスし、会議室の運営をサポートする、(3)「パスワードを忘れてしまったがどうしたらいいのか」「発言のし方がわからない」等の質問に回答する、(4)市民電子会議室に投稿された全ての発言をチェックし、ルールに反する発言があった場合には、発言者への注意や発言の削除を行う、等がある。
●進行役
進行役は、テーマに沿って議論が円滑に進むように司会したり、途中参加者のために議論の流れを整理して掲示板に掲載するなど、会議の進行に関する役割を分担する。会議室が活性化するかどうかは、進行役の手腕によるところが大きい。現在、市役所エリア会議室では進行役は、運営委員、および運営委員会が指名した者が務めている。
進行役の仕事としては、(1)議論の流れを示し、議論に沿った発言を促す、(2)参加者に対して会議室のテーマを明確に示す、(3)個々の発言に対して、こまめに返事を投稿する、(4)参加者と行政との仲介役として、行政が直接発言しにくいことをかわりに発言する、(5)行政に対する批判、苦情等の発言に対して、会議室の主旨等を説明し建設的な発言を促す、(6)発言のまとめ、関連情報等を掲示板に掲載する、等がある。
図表2-15 ロール(役割分担)図〜市民エリア
図表2-16 ロール(役割分担)図〜市役所エリア
エ ツール(道具)
ツールとは、市民電子会議室運用ソフトを指している。このツールを利用することで市民電子会議室の、会議室の機能と各コメントに対する掲示板の機能が連動する。
現在、会議室の機能としては、(1)簡単にいつでも会議室を開設できる、(2)発言しなくても参加できる(拍手、納得、疑問などの「掛け声ボタン」)、(3)発言が関連する発言順に表示される、(4)会議の進行にあわせて、進行役がメッセージを掲載できる、(5)一人一票による投票が可能、(6)メールを利用した会議室への投稿、発言の閲覧が可能(メーリングリスト機能を持つ)、(7)画像ファイルを添付する、等がある。
掲示板の機能としては、(1)HTMLに関する知識がなくても、簡単に掲示板を作成できる、(2)会議室の内容により、最適な掲示板フォーマットが選択できる、等がある。
オ 各エリアの特徴
「市民エリア会議室」は、日頃から感じていることやアイデアをテーマとして市民自らが会議室を開設して意見や情報を交換し、その成果をまとめることにより生活や地域に根ざした情報の蓄積を行い、ネットワーク上のコミュニティづくりを目指している。市内在住、在勤、在学者であれば、誰でも会議室を開設可能であり、匿名(ニックネーム)による発言も可能である。会議室に投稿された発言を読むだけの場合は登録の必要はない。
「市役所エリア会議室」は、共生的自治システムを形成する三本柱のうちの「市民提案システム」制度の一つである。市政に関することをテーマに参加者が意見、情報を交換し一定の合意が得られたものについては、運営委員会を通じて「市政への提案」として提出される。また、市民の意見交換に必要な情報を行政が積極的に提供していくことにより、市民の市政への理解が深まり、市民と行政のよりよい関係を築くことが期待される。匿名またはニックネームによる発言はできない。また、市職員が参加することができるが、テーマ設定は運営委員会により行われる。
(5)「市民会議室」で収集された意見・情報はどのように活用されるか
「市役所エリア」各会議室での意見交換の後、提案としてまとまったものについては、「運営委員会」が市へ提出し、市民自治推進課が窓口となって「くらし・まちづくり会議」等、他の広聴制度と同様に市政への反映に努めている。
平成9(1997)年11月29日に3テーマ19項目にわたる提案、平成10(1998)年4月8日に1項目の提案、平成11(1999)年11月10日に4テーマ16項目にわたる提案、平成12(2000)年11月20日に1項目の提言がなされ、実際に実施されたり、実施困難等の回答を得たりしている。
図表2-17 市政への反映の手順
出所:藤沢市
(6)課題
第3期運営委員会(平成13・14年度)報告書では、次のような点について課題として指摘している。
ア 電子会議室全般について
平成13・14年度の「市民エリア会議室」は、参加者同士の高度な意見交換の行なわれている会議室や、情報を着実に蓄積している会議室などがあり、前期以上の盛り上がりを見せた。特に「市民エリア会議室」での自主的な活動に行政が注目し事業として協働を持ちかけるなど、提言をしなくても市政に影響を与えることができたことは特筆すべきである。
それに対し「市役所エリア会議室」では様々な話題が提供され盛り上がりを見せるものの、提言にいたるような意見の集約まで至ったものはなかったことから、第3期運営委員会では市制に対する提言を行なわなかった。
参加者の市民自治意識は確実に上昇している。しかし、参加者の伸び率が落ちてきている。こうした要因として、電子会議室以外のネットコミュニティ・システムの充実が考えられる。公設の電子会議室以外にも、民間の掲示板が多数存在し、市民活動を行なう場も充実してきている中で、公設の市民電子会議室ならではの「存在理由」を何に設定するか、今後の重要な課題と考えられる。
市職員の積極的な参加については、着実に進んでいるとはいえ、その数はまだ少ない。職員個人の立場で参加できるルールや環境について整備するべきである。市民、市職員双方が、「市役所エリア会議室」活性化のためには行政からの情報発信が欠かせないと指摘しているが、平成13・14年度の市役所エリアでは、行政側は「促されての発言」という場面が多く、残念ながら積極的に情報発信するというところまでは至らなかった。
イ 最後に
本格稼動になった市民電子会議室は、「新しいコミュニティ形成」の場としては、しっかりと根を下ろしてきたといえる。
しかし、「市民と行政とのパートナーシップ」という点では、やや足踏み状態であり、大きな変化は見られない。市民の考える市民自治と行政の描く市民自治の溝を埋めることが必要であるが、市民は行政からの積極的な情報提供によって行政の抱える問題を知ることができ、行政は電子会議室を通じて市民の「つぶやき」を拾うことにより真の市民ニーズを知ることができる。このような補完的な役割を果たすのが、市民電子会議室の目的のひとつである。
今後はさらに、市民電子会議室の目的と役割を明確にしていく必要がある。
(参考資料:藤沢市ホームページ)
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