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(2)実務経験から示唆される活性化策
 インターネットが商用化され普及していく段階で、ホームページにおいては閲覧者数を増やしたり、その頻度を高めたりする方法や、電子会議室においてはメンバーを増やし議論を活発にする方法が注目され、試行錯誤や実務経験に基づく多くの方法論やノウハウが議論されてきた。
 ここでは、それらの中から、電子会議室に代表される投稿参加できるしくみの活性化について、本システムのしくみを構築していく上で参考になると思われる提案や指摘を整理する。なお、ここでは投稿者や投稿を増やすこと(登録編集者や登録データを増やすこと)に力点を置くものとする。
 
(1)活性化のポイント
ア 快適性の確保と適切な管理
 快適性の定義はさまざまであるが、不快な要素がないこと(少ないこと)、気軽に参加できること、意外な出会いや興味のある情報が得られることといった条件が指摘されている。実際に参加(閲覧・投稿)を継続するかどうかは、そこに感じているメリットなどとの見合いで決まるのであろうが、快適性が高いことが重要であることには変わりはない。
 これら快適性の条件のうち、不快な要素がないこと(少ないこと)でいうところの不快な要素にはさまざまあるが、一般には主なトラブルとして先に列挙したものが該当する。これらについては、場のルールや参加者のモラル、世話人のフォローによって維持する方法もあるが、これは世話人への負担が重く、世話人の能力や管理の限界を超えるリスクがある。そのこと自体が参加者の結束を強める場合もあるようだが、場の閉鎖に至った例も多い。最近では場の機能によって参加者の判断で快適性を確保しやすいように工夫しているシステムも見られる。
 どのような方法にしろ、快適性の確保には、適切な管理が実現するしくみが必要である。
 
【匿名参加】
 最も気軽に投稿に参加できる形態は、IDもパスワードも必要としない匿名での参加を許すことである。投稿したものの特定が困難であるため、投稿者の心理的負担が軽減されるのがその理由とされる。これにより、投稿が増加し、通常は表に出てきにくい本音の対話が成立するといった面もあるが、投稿に対する責任も他者への配慮も必要としないために、トラブルの原因にもなりやすく、不快な要素を増やしかねない。最悪の場合、場の閉鎖を余儀なくされる。
 特別な理由がない限り、匿名での参加を許可することは避けるべきであろう。
 
イ 帰属意識の醸成・向上
 帰属意識とは「自分がメンバーであることが嬉しい、それによってメリットを得ている、あるいは何かに貢献している感覚」「組織・集団の目標、規範、価値観を受け入れ、その組織・集団のために働きたいという意欲のこと」などと定義される。参加者の帰属意識が高いことは、自治意識につながり、快適性の確保の観点からも望ましい。
 帰属意識の源泉は、何らかの期待感や喜びであると推察されるが、実態は極めて多様で複雑なものである。同じ場でも、経済的メリット(損得)で参加するものもいれば、精神的メリット(満足感)で参加するものもいる。話題についていっているだけで良しとするものもいれば、持論が支持されなければ良しとしないものもいるであろう。
 そうした源泉のいくつかを紹介すると、まず「不完全性」が指摘できる。不完全であるがゆえに、参加者に参加しやすい機会・役割を具体的に提供することが容易で、彼らが「居場所」を持てるようにすることと、「いっしょにつくっている」協働感や貢献感、使命感を持つことにつながると考えられる。
 「参加者相互の関係性」もそうした源泉の一つと考えられる。例えば「オフ会」を通じてネットだけではつかみにくい互いの人となりを知ることで、参加者相互の関係性が高まり、それが帰属意識の醸成につながると考えられる。
 場や活動の「社会的認知」も源泉となりうる。周囲の人々が評価している活動に自分も参加しているのだということが誇らしく、やりがいにつながるだろう。
 ビジネス向けの場合では、貢献度に応じて電子商取引などに活用できるポイントを与えるなどの「経済的報酬」を活用している場合も少なくない。地域であれば報酬として地域への帰属意識の醸成にもつながるといわれる「地域通貨」を活用することも考えられる。
 現実には、場や集団との距離感や、喜びと感じる価値観などが異なるため、以上のような方法が誰にでもあてはまるものではない点を念のため指摘しておく。
 
【場の管理者】
 参加者は、その場を誰が、どのような目的で設置し、誰が主体として運営しているかに強い関心を持つといわれる。特に、帰属意識は、誰が主体として運営していると認知されるかが重要といわれる。これは、どのような報酬があり得るか、何にどの程度具体的に貢献できるかなどに関する期待の違いから生まれると考えられる。
 例えば、自治体が直接運営している場合には、直接的あるいは間接的に行政運営や施策に反映してもらえるという期待が生まれる。少なくとも、自治体は投稿された内容を知ったはずだと受け取る。この場合、参加者は自治体に向けて投稿していると考えるため、参加者同士の対話は少なくなる可能性がある。
 また自治体がなにものかに運営を代行させている場合も同様だが、すべての投稿が自治体に知らされているかどうかに、疑問を持つものもあるだろう。その分、帰属意識が弱まると考えられる。
 一方、住民団体が運営主体である揚合では、住民の住民による住民のための情報の共有の場と認識され、参加者同士の対話は行われるが、行政運営や施策に反映してもらえるという期待感は薄まると考えられる。情報共有の意義を明確に示すなどにより帰属意識を高める必要がある。
 折衷策として、住民団体を運営主体としながら、自治体やその行政運営・施策との関係を明示する一方で、実際に行政運営・施策に直接的あるいは間接的に反映された場合には、可能な限り機会を捉えてフィードバックすることで、帰属意識を高める方法がある。これは、藤沢市市民会議室などで行われている方法である。
 
【場の管理運営への参加】
 参加者には何が期待され、どのような権限があるのかも、帰属意識に影響を与えると考えられる。例えば、帰属意識が高まるとともに、情報提供ばかりでなく、場の管理運営などにも携わりたいとの欲求を持つものが現れる。それが満たされなければ、ルールを押しつけられているという反撥が生まれる可能性もある。それを避けるためには、ユーザに任せられるところは任せ、任せられない場合にも提案の場をつくり奨励するのも一法であろう。それは多様な参加方法を提供すると同時に、自ら望む管理運営への参加によって、いっそう強い協働感や貢献感が得るものが増えるようになると期待される。
 また、運営管理の最上位組織では、全体ルールの制定・改廃やルール違反者の扱いを決める役割があるだろうが、ここに参加者代表(住民)が加わっていると、その場が誰かに管理されているものではなく、自分たちが治めている場という認識になり、これも帰属意識を向上させると期待される。
 なお、任せるからには任されたものに過度の負担がかからないように配慮することも重要である。例えば、負担を軽減し、作業を効率化するツールを提供することや、必要があれば適切な教育・研修の機会が用意されていることが必要と考えられる。
 
ウ 活発な状態の維持
 投稿の頻度が少なくなってくると、それにつられるように投稿が減少していくことが経験的に指摘されている。そのため、一定以上に活発な状態を維持しつづけることが望ましい。しかし、人間は飽きるものなので、その実現は容易でない。
 参加者が飽きるのを回避するためには、世話人が刺激策などを打つのが一般的である。例えば、話題の提供、オフ会の提案、新人の勧誘、同報メールによるニュースの配信などである。
また、世話人が行うものではないかもしれないが、何らかの競争的要素を取り入れることも考えられる。
 以上は、立ち上げの際にも当てはまるが、その時期には新人の勧誘・支援に注力することが多いようである。
 一方、本システムのように特定の地域に密着したコミュニティサイトの場合、対面でのITサポートなどの支援や交流が、立ち上げやその後の活発な状態の維持に有効に作用している例も見られる。
 
(2)本システムのデータ登録編集への示唆
 ここでは、本システムにおける、マップへのデータ登録編集に対して示唆されるものを整理する。
 
ア 快適性の確保と適切な管理
 本システムが前提としている住民団体の場合は、同じまちに生活しているもの同士の集まりであるため、トラブルのように不快な事態は参加者個人の配慮により抑制され、例え出現しても集団内での平和的解決が図られると期待される。
 気軽に参加できるかどうかについては、各住民団体のルールや文化によるところがむしろ大きいと考えられる。
 本システムのしくみを構築していく上で考慮に入れるべき要素は、意外な出会いや興味のある情報が得られるようにしておくことであろう。例えば、閲覧者から励ましやお礼のメッセージや、見落とされていた登録すべき情報を受け取ることである。
 
イ 帰属意識の醸成・向上
 何に対する帰属意識がデータ登録編集の活性化に最も効果的であるのかは、いまのところ定かでない。参加しているマップに対する帰属意識はなくても、住民団体への帰属意識が高ければ、マップへのデータ登録編集も十分活発になるのかもしれない。あるいは、住民団体の中での位置づけの軽重に影響されるものなのかもしれない。
 最も効果的かどうかを抜きにすれば、本システムのしくみを構築していく際、参加しているマップに対する帰属意識が高くなるようにすることが望ましい。方法については先述の通りさまざまあるが、住民団体を運営主体としながら、自治体やその行政運営・施策との関係を明示する一方で、実際に行政運営・施策に直接的あるいは間接的に反映された場合には、可能な限り機会を捉えてフィードバックすることで、帰属意識を高める方法が最も参考になろう。
 また、「不完全性」とは少し違うが、最善を求める模索として、自分たちの意志で変更(カスタマイズ)できる部分を組み込むことも帰属意識の醸成・向上には効果があると思われる。特に本システムの場合、全体あるいはテーマ別の協議会での決定に従うことでデータの網羅性や均質性などを確保しようとしている。このことは、各住民団体の主体性を過度に奪ってしまう可能性もあるため、主体性を発揮できる場を用意しておくことが必要であると考えられる。
 
ウ 活発な状態の維持
 まず、新規にマップを立ち上げる際、その組織・団体は、マニュアルやガイドラインの理解、参加者へのITリテラシーの向上と自宅等パソコンへのITサポートなどが必要であり、さらに現地調査やマップへの登録編集などを実行してゆかねばならず、これは容易な道のりではないと思われる。そのため、豊中市や、閲覧・登録編集を行っている先達の個人・組織・団体の他、各主体間の橋渡しやノウハウ・活動機会などの提供を行う中間支援組織が協力・支援し、マップの立ち上げを助けあえる環境が整えられることが必要であろう。
 また、電子会議室などで場を活発な状態に保つ努力は世話人が行うことが多いことと同様に、このマップの運営においてもまず世話人があたるべきであると考えられる。しかし、マップの運営にあたっては、一般の電子会議室とは異なる知識やノウハウが必要である可能性もある。そのため、新たに世話人に就いた人に対して、マニュアルのようなものが用意されることが望ましいが、それにも増して適宜助言・指導や支援が受けられる環境が整えられていることが必要である。こうした指導や支援においても、豊中市、先達の組織・団体の世話人経験者や中間支援団体の活躍と分担が期待される。
 さらに長期的な視野で見た場合、マップに登録するデータにもよるが、上記のような世話人よる刺激策を続けたとしても、活動範囲が市域内に限定されていることもあり、新たに登録すべきデータは減少していき、新規登録は活発でなくなっていくことが予想される。一定の更新が行われ、それだけで一定以上活発な状態を維持していることになるかどうか、機械的に更新時期が来たために更新作業がされているだけになっていないかどうかなどの状況によって判断すべきところもあるが、新規登録・更新が数の面で多くても、活動の意義や刺激が減少すれば、質の面では活発でなくなっていくことも起こりうる。これを回避するためには、新たに登録すべき対象を増やし、更新の際には新たな視点を導入するなど「不完全性」の創出が必要であると考えられる。それには、どのような理由でどのような対象を増やしていくべきであるのか、またそれはどのように行うのか、新たにどのような視点を入れるべきかといったことを説くオピニオンリーダーたちが欠かせないと思われる。
 問題は、このオピニオンリーダーは誰が担うかという点であるが、住民の中から自ずと現れない場合には、豊中市内外の有識者の参加を得るなどの方法が考えられる。適切な有識者を探す際には豊中市や中間支援組織の支援が求められるであろう。







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