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3 システム利用の活性化策
(1)行動科学研究から示唆される活性化策
 ユーザの情報システム利用行動を予測・説明する行動モデルを中心に、参考となるところを紹介する。なお、中村雅章・中京大学教授の著した「組織の電子コミュニケーション」(中央経済社刊)を参考にした。
 ここでは、合意的行為理論(TRA)、計画行動理論(TPB)、技術受容モデル(TAM)、Triandisのモデルを紹介するが、それぞれは必ずしも万能な理論あるいはモデルではない。しかしながら、本システムの採用・普及・活性化を図る方策を考察する上で、それらの考え方は参考になろう。
 
(1)合理的行為理論
 合理的行為理論(TRA:theory of reasoned action)は、M.FishbeinとI.Ajzenによって提唱された、多くの状況における人間行動を予測する一般モデルである。人の行動はその行動をとろうとする「行動意図」のみで決定され、またその「行動意図」は「行動に対する態度」と「主観的規範」によって決定されると仮定されている。
 
図表2-7 合意的行為理論の概念構成
資料:
中村雅章著「組織の電子コミュニケーション」(中央経済社、平成15年4月刊)
 
 
(2)計画行動理論
 計画行動理論(TPB:theory of planned behavior)は、TRAに行動を制約する個人的・状況的要因である「知覚された行動統制可能性」を導入したモデルで、I.Ajzenによって提示された。TRA同様多くの状況における人間行動を予測する一般モデルである。
 
図表2-8 計画行動理論の概念構成
資料:
中村雅章著「組織の電子コミュニケーション」(中央経済社、平成15年4月刊)
 
(3)技術受容モデル
 技術受容モデル(TAM:technology acceptance model)は、TRAをベースとしてF.D.Davisらによって提唱された情報システム向けの利用行動モデルである。これは、どのような情報システムとユーザに対しても適用できる一般性と、なるべく少ない要因で情報システムの利用行動を説明するという簡便性を同時に追求した点に特徴がある。その一方で、TRAをベースとしながら「主観的規範」要因は除外されている。
 
図表2-9 技術受容モデルの概念構成
資料:
中村雅章著「組織の電子コミュニケーション」(中央経済社、平成15年4月刊)
 
 まず、TRAとTAMを比較する研究などから、未経験者に情報システムを利用させるには、「知覚された有用性」や「知覚された使いやすさ」よりも、「主観的規範」のような社会的圧力を通じて強制することが効果的であることが明らかになっている。また、強制されて利用するようになった利用者も、利用経験を重ねてゆくと、やがて「強制されて利用している」という意識が薄らいでいくという。
 
 一方、TAMに対する実証研究において、使い始めの頃には「知覚された有用性」同様「知覚された使いやすさ」も「利用への態度」の決定に寄与しているが、使い慣れてくると「知覚された使いやすさ」の寄与は見られなくなる例が散見される。つまり、使い始めであれば「使いやすさ」も重要であるが、使い慣れた段階で継続して利用されるには「使いやすさ」よりも「有用であると知覚されている」ことが重要になる場合があることが示唆される。
 また、このことは、情報システムの熟練度によって、利用を促すアプローチの方法が異なる可能性も示唆する。
 
 加えて、システムの有用性に関しては、一般的な機能の豊富さより、タスク(業務や作業)とシステムとの適合性が重要であることも明らかになってきており、システム設計において、設計者には利用者のタスクを十分に理解するために両者の緊密な協働が求められるという指摘もある。
 
(4)Triandisのモデル
 H.C.Triandisもユーザの情報システムに対する利用行動に関するモデルを提示している。
 「習慣」は、測定が難しいため実証研究では省かれることが多いが、情報システムの利用行動に関しても重要な意味を持つと考えられている。
 
図表2-10 Triandisのモデルの概略
資料:
中村雅章著「組織の電子コミュニケーション」(中央経済社、平成15年4月刊)
 
 
(5)本システムに示唆される活性化策
 本システムでいう「利用」には、「閲覧」と「登録編集」の2種類がある。また、利用の段階としては初めて利用する「採用」段階と、継続的に利用する「定着」段階があると考えられ、これらは分けて論じることが適切である。
 また、本システム全体の活性化を考える場合には、閲覧利用、登録編集利用のそれぞれについて、採用・定着の2つの段階それぞれを促すことが重要である。ここでは、段階別に着目すべき点を指摘し、閲覧利用・登録編集利用ではそれぞれどのような施策があり得るかについて考察する。
 
ア 採用の促進
 採用については「知覚された使いやすさ」「知覚された有用性」「主観的規範」などの要因が重要であることがわかっている。中でも、「主観的規範」のような社会的圧力を通じて強制することが効果的であるとされる。
 本システムの主な閲覧利用者としては高齢者や障害者などの方々、その方々をお世話をしている人、あるいはそうした人々を支援する団体などが想定され、そうした人々・団体と協議して、知ってもらう機会、触れてもらう機会をつくることが考えられる。ただし、「有用性」を訴えるためには、マップに一定以上のデータが登録されてからの方が効果的であろう。
 次に、登録編集利用者の場合は、まちづくり協議会などの組織・団体に参加している人々であるから、本システムを活用した地域の情報共有に関心のありそうな組織・団体を通じて採用を促してもらうことが有効であると考えられる。
 なお、こうした採用促進活動の担い手としては、豊中市や、閲覧・登録編集を行っている先達の個人・組織・団体の他、各主体間の橋渡しやノウハウ・活動機会などの提供を行う中間支援組織が考えられる。そうした組織は、当事者でない分、住民や団体から問い合わせが寄せられやすく、気軽な入り口となるであろう。また、中には積極的に採用促進活動を行う中間支援組織もあって良いだろう。その場合、高齢者や障害者などの方々をはじめとして、パソコンやインターネットに通じていない人はいまだ少なくないと考えられるため、ITリテラシー向上やITサポートに注力しているNPOやボランティア団体などとも連携することが望ましい。
 
イ 定着の促進
 定着については、「知覚された有用性」や「主観的規範」「習慣」が有効で、「知覚された使いやすさ」は最終的には必ずしも有効ではないと考えられる。しかし、それは使い込んだ上での慣れによるものであるから、そこに至るまでは適切なサポートが必要である。そこは、採用同様、ITリテラシー向上やITサポートに注力しているNPOやボランティア団体などが担い手として考えられる。
 「主観的規範」は採用促進の際に用いられていれば、やがてそのことは忘れられ、行動だけが定着する傾向がある。「知覚された有用性」は、利用の際に感じられる有用感や、適切なフィードバックを通じて強化することができるであろう。「習慣」にするには、頻繁な利用を通じて習慣にするか、あるいはすでに習慣になっている行動と結びつけることが考えられる。
 閲覧利用の定着を促進する場合には、必要なときにだけ利用する傾向が強いと想定しなければならない。彼らが使い慣れるまでのサポート体制やアクセス性の確保にはさまざまな工夫が必要であろうが、継続して利用されるためには、そのときどきに確実に役に立つことがまず重要であろう。彼らにとって、どのような情報をどのような形で提供するのが最も役に立つのか、そのニーズにいっそう応えていく継続的な努力が必要である。
 次に、登録編集の定着を促進する場合には、「主観的規範」「知覚された有用性」「習慣」の観点から、例えば以下のような方法が考えられる。
 
・住民団体の定期的な活動の中に位置づけてもらう
・閲覧利用者からの声や、行政施策・計画に活かされた例などをフィードバックする
・すでに習慣となっているであろう電子メールと登録編集活動を組み合わせる
・メーリングリストや電子会議室などを活用したネットコミュニティの形成により、現地調査・登録編集に対する意識を高め、定着を図る







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