2 トラブルの予防策・対応策
ここでは、自治体と住民が協働する場として用いられることの多い、電子会議室に代表される投稿参加できるシステムが地図情報インターネット協働システム(仮称。以下、本システムとする)に何らかの形で導入されると想定し、そうしたシステムで起こりやすいトラブルと、それに対する予防策・対応策について整理する。
(1)基本的な考え方
(1)予防策・対応策
トラブルが発生しないように予防策を講じることは重要である。しかし、多くの場合、使い勝手の悪化や、コストの増大などを招いてしまうため、それらとのバランスに配慮することが必要である。
また、どのような予防策にも限界があるので、トラブルは基本的に発生するものとして、発生した場合の処理手順・手続等を定めた計画などの対応策を用意しておくことも重要である。
(2)基本は利用者のモラルである
誹謗・中傷、著作権違反など、投稿参加できるシステムで発生するトラブルは、機械的に判断できるものよりは、むしろ人が判断しなければならない場合が多い。利用者が閲覧時に相互チェックをすることはもちろんであるが、投稿されないことが望ましい。
もちろん不正アクセス防止・監視やウィルス対策などのセキュリティ対策においては、システムによる予防措置の効力は高く、重要である。しかし、セキュリティ技術やセキュリティ製品には完全なものがないため、利用者にパスワード管理を厳重にしてもらい、書き込みの改ざんなどを発見した場合には速やかに通報するといった協力を求める必要がある。
こうした意味で、基本は参加者のモラルであるといえる。
こうした利用者モラルは、利用規約を通じて、責任の所在の明確化とともに、啓蒙が図られることが一般である。
なお、多くの電子会議室で行われているように利用規約を読んで同意の意志を伝える操作(「同意する」ボタンのクリックなど)を行わせる方法を採用する場合、操作する画面上に利用規約を載せることが基本である。利用規約を別のページにすると、手続として同意をしていても、利用規約を読んでいない可能性が高いと考えられるためである。
(3)責任や負担を分担する
過度の責任や負担が特定の人に集中する形は避けるべきである。活動の持続性や展開の容易性という視点からも問題であるが、トラブルの発生を未然に防ぎ、規模の小さい段階で対処することを難しくする可能性がある。
(4)責任の範囲を明確にする
責任の分担を前提とすれば、その範囲をできるだけ明確にしておくことが必要である。その際、一般的に用いられる手段は、契約や利用規約である。
(2)主なトラブルとその予防策・対応策
電子会議室に代表される投稿参加できるシステムにおいて起こりやすいトラブルには以下のようなものがある。
○不正アクセス
○有害プログラム(HTML、マクロウィルスを含む)
○他人の権利利益の侵害
・他人の通信の秘密又はプライバシーの侵害
・誹謗中傷
・差別
・著作権等知的財産権の侵害
・その他、他人の権利利益の侵害
○偽造、虚構又は詐欺的情報
○公職選挙法に違反する情報
○その他法令に違反し又は違反するおそれのある情報
○わいせつ・売春・暴力等公序良俗に反する情報あるいはそうした情報へのリンク
これらのトラブルに対し一般に行われているとされる予防策及び対応策について整理する。
(1)不正アクセス
不正アクセス行為とは、先述の通り、アクセスを制限する機能を持つコンピュータに対し、電気通信回線を通じて、不正な手段でアクセスし、制限されている特定利用ができる状態にする行為のことである。
一般に、投稿参加ができるシステムでは、識別符号としてID、パスワードが用いられている。しかるに、ID、パスワードは利用者の不注意や、パスワードクラッキングツール、ネットワークの盗聴などにより、不正に入手されることがある。正しいID、パスワードが用いられれば、システムは正当な利用者と判断してしまうため、不正アクセスとして検出することは困難である。そのため、ログイン、ログアウトの記録などを利用者のメールに送ることによって、早期発見を図るという方法がとられることもある。
また、こうした不正アクセスへの予防策としては、パスワードを長くする、パスワードに使用する文字の種類を多くする、パスワードには辞書にない言葉を使う、パスワードはIDと同じにしない、パスワードを定期的に変更するなどがある。プログラムによって、定期的にパスワードの変更を要求させる、あるいは変更を強制させる、セキュリティ上不適切なパスワードはチェックするなどの方法もあるが、利用者への負担を増やしてしまう。
この他に、ポートスキャンと呼ばれるセキュリティの弱いマシンを探し出す方法や、バッファオーバーフローと呼ばれる管理者権限を奪う方法など、コンピュータシステムの不備や脆弱性を悪用した不正アクセス方法もある。これに対しては、システムを適切に設計・設定する、ファイアウォールを設置する、ダミーシステムを配置する、セキュリティ監視・監査ツールや侵入検知システムを活用するなどの予防策がとられる。
また、不正アクセスは行われうるものと仮定して、原状回復に近づけることが可能なシステム設計と運用、原状回復マニュアルなどの準備を施しておくことが望ましい。
(2)有害プログラム
有害プログラムに関しては、電子メールを介したコンピュータウィルスが有名であるが、電子会議室等においても、添付ファイルや、本文へのJavaスクリプト、有害プログラムを取り込ませるページへのリンクなどによって有害プログラムを送り込ませることが考えられる。
そのためには、添付ファイルには画像などウィルスを忍び込ませることのできないファイルに限定する、本文中のJavaスクリプトは削除するか働かないようにするなどの予防策を講じることが必要であろう。
(3)他人の権利利益の侵害
他人の通信の秘密又はプライバシーの侵害、誹謗中傷、差別、著作権等知的財産権の侵害、その他の他人の権利利益の侵害に関しては、機械的に判断することは極めて困難である。
こうした他人の権利利益の侵害に対するプロバイダの対応策は、先述の通り「プロバイダ責任制限法」や社団法人テレコムサービス協会の「インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライン」に従ったものとなる。
また、予防策も利用者への教育やモラル向上ぐらいしかない。
しかし、著作権等知的財産権の侵害のように行えば必ず違法である場合もあれば、以下の例に示す肖像権侵害や名誉毀損に関しては違法になる場合とならない場合がある。投稿参加可能なシステムを運営するにあたって、これらを全面的に参加者の判断にゆだねて良いものかどうかは難しいところであるので、弁護士等専門家を交えて、一定のガイドラインを設け、関係者に周知することが望ましい。
ア 肖像権
本システムのように画像(写真)が掲載できる場合に特に注意しなければならない。
日本では肖像権を「肖像権」として規定した法律はない。しかし、数々の判例によって法的に認められているため、肖像権の侵害行為を法的に訴えることができる。
肖像権には、「人格権」の一部としての肖像権と、財産権である「パブリシティ権」としての肖像権の2つがある。「人格権」の一部としての肖像権は、アーティストやタレントに限らず誰にでも認められる権利で、一般人の写真が無断で雑誌などに掲載された場合でも、人格権侵害や名誉毀損等で訴えることもできる。また、財産権である「パブリシティ権」としての肖像権は、有名人の肖像が経済的利益や価値をもたらすことに着目した権利である。
「パブリシティ権」としての肖像権の侵害は比較的発見が容易で避けやすいとしても、「人格権」の一部としての肖像権の侵害については、判断が容易でない。しかるに、本システムのようにまちなかで写真を撮影する場合、通行人が写ることは避けがたい。
弁護士等専門家を交えて、一定のガイドラインを設け、関係者に周知することが望ましい。なお、参考までに小中学校でインターネットを利用する際のガイドラインでは、児童・生徒については、「画質を落とす、集合写真とするなどにより個人が特定できないように配慮する」といった内容の規定が一般的である(Webへの掲載の場合)。また、「教育上の必要により、個人が特定できる写真を公開する場合には、その写真のコピーを該当の保護者あてに配布し、保護者の了解をとってから、一般公開する。なお、この際、インターネットへ発信することの意義と共に発信に関わる危険についても周知徹底を図るものとする」といった内容の規定を持つところもある。
イ 名誉毀損
名誉毀損とは、端的に言い表せば、たとえ真実であってもそれをいいふらすべきことではない内容を不特定・多数の人に公開することで、刑法第230条に抵触する犯罪である。しかしそうした内容であっても、公開することが「事実の公共性」「目的の公益性」「真実性」の全てを満たしていれば、名誉毀損には該当しないものとされている。
どのようなものであればそれら3つの要件が満たされるのか、あるいはどのようなものは避けなければならないのか、弁護士等専門家を交えて、一定のガイドラインを設け、関係者に周知することが望ましい。
なお、類似した犯罪に信用毀損及び業務妨害があり(刑法第233条)、一般に営業妨害とは事業者に対する名誉毀損または信用毀損及び業務妨害を指す。信用毀損及び業務妨害とは、端的に言い表せば、不特定・多数の人に嘘を言いふらすことで信用を傷つけ営業を妨害することである。
(4)その他
偽造、虚構又は詐欺的情報、公職選挙法に導反する情報、その他法令に違反し又は違反するおそれのある情報、わいせつ、売春、暴力等公序良俗に反する情報あるいはそうした情報へのリンクに関しても、他人の権利利益の侵害同様に、機械的に判断することは極めて困難で、予防策も利用者への教育やモラル向上ぐらいしかない。
対応策は、事業者がどのような措置をとり得るのか、それはどのような手順によるものかを利用契約で示しておき、これに従うことである。
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