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4.3. 事故事例の調査
4.3.1 船級協会による調査
 船級協会により調査された1992年から2003年までに発生した救命艇に関する事故例(合計42件)について、それらの推定される事故原因別に分類すると以下のようである。
 
表1
事故原因 件数
a. 離脱システムに関係した事故 (小計27件)
 a-1: 離脱機構のリセットミス 19件
 a-2: ケーブル、ロッドの不良 4件
 a-3: 離脱フックの不良 1件
 a-4: 操作ハンドルの操作ミス 3件
b. 操作ミス(離脱装置以外) 3件
c. ウィンチブレーキ不良 2件
d. ラッシングからみ 2件
e. 空気ボンベの錆等による爆発 3件
f. 自由降下式救命艇の落下 (ラッシング不良) 2件
g. 原因不明 3件
合計 42件
 
 
 救命艇及びそれらの進水装置に起因する事故は合計125件で負傷87名、死者12名であった(表2参照)。また、この間における救命艇以外の事故における死者は73名である。
 
表2
事故の分類 事故発生数 負傷者数 死者数
1. フック 11 9 7
2. トライシング、ボーシング 10 5 2
3. つり索、シーブ、ブロック 12 19 2
4. エンジン、始動 18 15 0
5. グライプ 12 10 0
6. ウィンチ 32 8 0
7. ダビット 7 7 0
8. 自由降下式 2 1 0
9. 天候 2 0 0
10. その他 19 13 1
11. 脱出に成功 0 0 0
合計 125 87 12
 
 
 救命艇関連の事故例について文献調査を行った。結果を表3に示す。
 
4.3.4 事故原因の解析
(1)事故例調査より事故原因の約6割が離脱装置に関係したものであり、中でもリセットミスによるものが多い。また、次に多いのはケーブル、ロッドの不良及び操作ハンドルの操作ミスとなっている。これらの事故に対しては、リセット操作や離脱操作を分かりやすく、また確実な作業にすることで、事故の減少に繋がると考えられる。
 ウィンチブレーキや、ラッシングからみ等その他の事故については、具体的な作業内容について今後検討を要するが、作業内容の見直しと共に、整備方法及び整備体制を明確にして、確実な整備を実施することで事故防止を計ることができると考える。
(2)離脱フック
 不完全なリセットが主な原因であり、機構を習熟していないこと、不十分な訓練や、整備が十分なされていないこと等による。
 設計の面からは、機構が複雑で、理解が困難、コントロールケーブルの錆び、汚れによる動きの劣化等が指摘される。
 
(3)トライシング及びボーシング
 格納位置で乗艇できないタイプは、トライシング及びボーシングラインを使用してデッキ上の乗艇位置まで移動する必要があるが、煩雑なために、ボーシングラインの使用を省略する例が多い。トライシングラインが切れたり、外れることにより事故が発生している。
 
(4)ウィンチ
 ワンウェイクラッチ、ブレーキ、スイッチ等の故障が発生している。整備、修理、調整が不十分な状態であることが考えられる。
 
表3 救命艇の事故例
船舶 KAYAX、パナマ船籍バルクキャリアー
場所、年月 オーストラリア、ビクトリア、1994年
出典 Safety at Sea 1996/4
概要  PSC検査時に、検査官指示により左舷救命艇をデッキ上まで降下させた後格納位置にもどす。その後、その位置で機関を始動し、前後進させるとの指示に従い機関を始動したが、その後救命艇は水面まで約20m落下し、乗艇していた4名は負傷(内1名は重傷)。
 原因は、前後進レバーがわからず、誤って、離脱レバーを引いてしまったため(安全ピンが正常に取り付けられていなかった)。
 船員は、韓国、インドネシア及び中国人であり、日本語及び英語で書かれていた操作説明が読めなかった。
 
船舶 Pride of Hampshire、RORO旅客船
場所、年月 Cherbourg、1994年9月
出典 Safety at sea, 1997/3
概要  救命艇訓練時に落下、乗艇者32名中8人が水面に振り落とされる。16名が負傷。
 原因は、離脱フックに結合されたサスペンションリンクの錆びによる破壊。ダビットを調査後、溶接部の劣化が見られた。
 
船舶 HOUGH DUKE,
場所、年月 スラバヤ、インドネシア、
出典 Safety at sea, 1997/7
概要  右舷救命艇の訓練で降下中に後部フックが外れ、前部フックによりつり下がった後、逆さまで海面に落下した。乗艇者12名中、6名が死亡、他の6名は負傷した。
 原因は、連絡ケーブルの錆びにより操作機構が固くなり、完全にリセットされていなかったため。
 (フックメーカーは、英国、マンチェスター)
 
船舶 Cape Kestrel, パナマ船籍、バルクキャリアー
場所、年月 Dampier、西オーストラリア、2001年10月
出典 Safety at sea, 2002/10
概要  左舷救命艇訓練時、航海士と船員計4名乗艇して水面まで降下。フックを連結して引き上げ時にホイストスイッチが作動せず、別の場所にある電源盤のスイッチを押して巻き上げる。そこからは救命艇が見えず、騒音のため連絡できず、リミットスイッチを越えて巻き上げたため、吊り索が切断され救命艇は水面に落下。航海士は重体、その他も負傷。
 
船舶 mv Galateia, バハマ船籍、バルクキャリアー
場所、年月 リバプール、2002年1月
出典 UK DOT News release 032, 2002/7/25
概要  3名乗艇の左舷救命艇が進水、離脱した後、吊り索に連結し巻き上げられる。ダビットに格納中、離脱レバーを格納状態にもどした時、フックが開き、高さ19mより水面に落下。一人重傷を負う。
 原因は、船員がマニュアルを読まず、構造を理解しないままで、ロッキングピンがセットされていなかったため。
 
船舶 Alianthos、マルタ船籍、バルクキャリアー
場所、年月 Geelong、2001年1月
出典 ASTB report 164
概要  救命艇訓練時、左舷救命艇の進水、回収が行われた後、他の船員に説明するため、無人の状態でデッキまで降下作業を実施。ブレーキ操作が急激であったため停止するよう指示され停止したが、ダビット振り出しの衝撃と重なり艇が暴れて、後部フックが外れる。その後、ダビットアームの折れ曲がりと共に前部フックも外れて艇は落下した。
 原因は、連絡ケーブルの調整不良、フットプレートのゆるみによる遊びの増加等で、フックが完全にリセットされないままであったこと。ケーブルは使用に伴い、動きが重くなるため定期的な交換が望ましいが、12年間交換された記録はない。
 
船舶 Washington Trader、フィリピン船籍バルクキャリアー
場所、年月 クイーンズランド、2000年8月
出典 ASTB report 160
概要  7週間前の前回訓練時に救命艇の降下進水、回収を実施していたため、今回は無人でデッキまでの降下訓練を行うこととした。右舷の艇が降下された後、左舷の艇を降下中何かに引っ掛かり、艇が傾くと共に後部フックが外れる。その結果、前部フックから吊り下げられた状態で暴れ、前部フックが開放して水面に落下した。
 艇が傾いた原因は不明(多分グライプに引っ掛かった)であるが、そのため、後部フックのリンクストッパーを破り、リンクが外れた。前部フックが開放した原因は、連絡ケーブルの動きが堅く、完全にリセットされなかったためと推定される。
 フックのリセット状況及び着水を示す赤、緑のランプ表示の意味がわかりにくいとの指摘がなされている。
 
船舶 PAC MONARCH
場所、年月 カナダ、バンクーバー、2000年10/26
出典 DE47/5
概要  クルー4名が乗艇して進水降下中、ダビットアームがサポートブロックまで振り出した時、後部フックが外れて中吊りになり、その後、前部フックも外れ、船尾を下にして15mの高さから水面に落下した。4名中3名が亡くなる。1名は軽傷。
 
船舶 MODU
場所、年月 2003年
出典 USCG SAFETY ALERT
概要  進水した救命艇を回収し格納位置まで巻き上げ中に、後部フックが外れ、その後前部フックも外れて高さ21mより水面に落下した。1名死亡、2名が負傷した。
 フックが完全にリセットされていない状態でも、離脱ハンドルをロック位置に戻せてしまうため、フックのリセット状態の確認が難しい。フックにあるのぞき穴からカムの位置を確認する必要がある。
 (NORSAFE Camsafe)
 
 本委員会では、救命艇とダビットのマニュアルについても検討しており、本年度はNKタイプのon-load release gearの操作・整備マニュアルについて検討した。この検討結果は、IMO DE小委員会で検討中の「救命艇による事故の防止」に資するものであるとの判断に基づき、太田委員、板垣委員、清水委員で原案を作成し、本委員会で検討したうえで他の関係委員会(日本造船研究協会RR-S3)に諮り、提案文書案が海事局安全基準課に送付された。その結果、IMO DE 47の提案文書(DE 47/5/3)が作成され、提出された。
 提案の主旨を5.2節、提案文書日本語版(仮訳)を5.3節に示し、提案文書を添える。
 
4.4.2.1 背景
 救命艇の事故の多発に鑑み、DE小委員会ではこれまでに、訓練時に救命艇に乗艇する機会を減らすためのSOLAS条約の改正(第III章19&20規則)について審議するとともに、救命艇の保守・整備に関する指針(MSC/Circ.1093, "guidelines for periodic servicing and maintenance of lifeboats, launching appliances and on-load release gear": SOLAS条約第III章第20規則で脚注引用)を策定した。そして、さらなる安全対策について審議する予定である。
 前回会合(DE 46, 2003年3月)において、我が国は、標準操作・保守マニュアルについて検討中である旨を報告した(DE 46/9/7, Proposal to standardize the "Operation and maintenance manual for lifeboat launching")。この提案文書はこれを受けて、マニュアルの作成指針の策定について、小委員会に検討を要請するものである。提案文書の内容については、日本船舶品質管理協会において実施している「救命艇の品質改善に関する調査研究」の委員会において検討した。
 
4.4.2.2 提案文書の概要
 救命艇及び進水装置のマニュアルを作成する際の指針の策定について小委員会に検討を求める。
 指針案に含まれる主な留意事項は、以下の3点である。
(1)救命艇メーカーとダビットメーカーが協力して、マニュアルを作成すること
(2)標準化された語句を使用すること。
(3)説明には図を用いること。
 指針案には、NK型の離脱装置に関するマニュアルの例が添えられている。
 なお、指針案に沿えるマニュアル例のうち、離脱装置については完成したが、救命艇やダビット全体に関するものは、当協会が実施する平成16年度末完成を目標に作業が進められているところである。使用者(乗組員・船会社)の立場からは、全体マニュアルに関する指針が望ましいとのことであったが、一方、事故の多くは離脱装置に起因しており、離脱装置に関するマニュアルの策定指針を早期に作成することも価値があると考えられるため、この点については、DE小委員会に判断を委ねる内容になっている。
 
 次ページに、提案文書(日本語仮訳)のマニュアル以外の部分を示す。







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