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4. 救命艇の事故対策を含む品質改善に伴う作業の流れ
4.1 概要
 訓練中に多発している救命艇事故について、離脱装置に対する操作マニュアルの標準化や、各製造者による離脱システムの改善等、個別な対応が取られつつある状況ではあるが、国際海事機関(IMO)による審議が進められ、事故防止に向けた救命艇システムに関する整備・保守ガイドライン(MSC/Circ.1093)が発行され、今後、総合的な取り組みが要求される状況となっている。
 本調査研究は、図1に示すフローチャートに従い、ハードウェアーとしてのシステムの見直しと共に、操作や整備システム等ソフト関係の両面から総合的な事故防止対策を検討することにより、救命艇システムの安全性を向上させることを目指すものである。
 
図1 救命艇の品質改善調査研究フローチャート
 
 今回の調査研究の基本ベースとなる“MSC/Circ.1093(救命艇、進水装置及びオンロード離脱装置の定期整備及び保守に関するガイドライン)”について以下、その概要と経過を述べる。
 
 現在、ダビット式救命艇進水装置には、オフロード離脱(着水して無負荷での離脱)とオンロード離脱(水面上で荷重が掛かっている状態での離脱)の両方式が要求されているため、離脱機構がやや複雑になり、それに起因した誤作動の事故が発生している。
 1986年7月1日以降の新造船には、オンロード及びオフロードフックの付いた救命艇搭載が義務付けられており、さらに1996年に採択されたLSAコード(国際救命設備コード)の導入により、着水前のオンロード離脱を防止するため、機械的なインターロック機構の備え付けが義務付けられた。
 
 MSC71(1999年6月)でオーストラリアは離脱フックの誤作動による事故が多発していることを指摘した(MSC71/20/7)。これを受け、MSCはDE小委員会に調査を要請。
 DE43(2000年4月)及びDE44(2001年3月)で審議の結果、DEの新規議題として取り上げるべく、MSCに要請することになり、MSC74(2001年6月)にSIGTTO、OCIMF、INTERTANKOの3団体から、新規議題要請の提案がなされた。
 その結果、MSC74はDE45(2002年3月)より、優先度の高い新議題“救命艇の事故防止(Measures to prevent accidents with lifeboats)”として検討するよう指示した(ターゲットデイトは2004年)。
 DE45(2002年3月)で審議の結果、今後の作業計画及び危険性喚起のためのMSC/Circular案が作成され(MSC/Circ.1049)、審議はDE46に引き継がれた。
 
(1)SOLAS条約第III章第20規則の改正案
 オーストラリアからの提案文書(DE46/9/1)によるダビットの振り出しを毎週実施するとの提案は、気象、海象によっては実施が困難であり、危険もあるとの議論があり、気象、海象等の条件が許せば、毎週、格納位置から動かすとの表現に修正された。また、年次検査におけるウィンチブレーキの開放検査はオーバーホールを意味しないことを報告書に明記した。本改正案はMSC77(2003年5月)に提出され、MSC78(2004年5月)で採択予定である。
 
(2)MSC/Circ.614の改正
  救命艇オンロード離脱装置の点検・整備のガイドライン(MSC/Circ.614)の範囲を広げ、救命艇や進水装置までを含んだ救命艇、進水装置及び離脱装置に関する点検・整備ガイドライン改正案が作成され、次回MSC77に提出された。その後、MSC77で承認され、MSC/Circ.1093として2003年6/17に発行された。
 
(3)救命艇の離脱装置の保守・整備に関するマニュアル
 我が国から、発生している多くの事故が、整備やマニュアル内容の不十分さによるものとし救命艇離脱装置に関する操作と整備のためのマニュアルを作成し、次回に提出する旨説明した。
 
(4)SOLAS条約III/19.3.3.3の改正案
 救命艇の事故が多発している状況から、訓練時に乗員を乗せた状態で進水するのは危険であるとの認識により、進水時は無人で行い、その後、水上で乗艇して航行させても良いとの表現に変更する改正案を作成した。この改正案は承認のためにMSC77に提出され、MSC78で採択される予定である。
 
SOLAS第III章第20規則の改正案(DE46/32 ANNEX 8) (仮訳)
第20規則 操作の準備、保守及び点検
1. パラグラフ1、第2文の“パラグラフ3及び6(2)”を“パラグラフ3.2及び6.2”に変更
2. パラグラフ3に新たなパラグラフ3.1を追加し、現在の3.1及び3.2を3.2及び3.3に変更
3.1 救命設備の整備、試験及び検査はIMOにより作成されたガイドラインをもとに、それら設備の信頼性を確保するような方法で実施されること。
3. パラグラフ3の番号ずれに伴い、新たな3.3中のパラグラフ3.1を3.2に変更。
4. パラグラフ6の最初の文章を下記のように変更。
“以下に示す試験及び点検を毎週実施し、点検の報告をログブックに記録すること。”
5. パラグラフ6の6.1に以下の文章を追加する。
6.1 点検には、以下に留まらず、フックの状態、救命艇への取り付け具及びオンロード離脱装置が正しく、完全にリセットされていることを含むこと。
6. パラグラフ6に以下の6.3を追加し、現在の6.3を6.4に変更する。
6.3 貨物船に搭載された自由降下式以外の救命艇は、気象、海象が許す限り、無人の状態で、進水装置が満足に作動することが確認できる程度まで、搭載場所から動かすこと。
7. パラグラフ7に以下の7.1を追加し、現在の文章を7.2に変更する。
7.1 自由降下式以外の全て救命艇は、無人の状態で、搭載場所から振り出すこと。
8. パラグラフ11の内容を下記に変更する。
11 進水装置及びオンロード離脱装置の定期整備
11.1 進水装置
.1 第36規則により要求される船上保守のための指示書に従い整備されること。
.2 規則I/7又はI/8で要求された年次検査時に完全な検査を行う。
.3 .2の検査の後、最大降下速度におけるウィンチブレーキのダイナミック試験を行う。この時の荷重は人員を除く救命艇の質量とする。但し、5年を越えない間隔で、ウィンチの最大使用荷重の1.1倍の荷重を使用し試験を実施すること。
11.2 オンロード離脱装置
.1 第36規則により要求される船上保守のための指示書に従い整備されること。
.2 規則I/7又はI/8で要求された年次検査時に、適切に訓練され、システムを熟知している人員により完全な検査及び作動試験を行う
.3 離脱装置をオーバーホールした時はいつでも、乗員と装備を満載した救命艇の合計質量の1.1倍の荷重で作動試験を実施すること。そのようなオーバーホール及び試験は、少なくとも5年に1回実施すること。
 
注:ウィンチについては、救命艇、進水装置及びオンロード離脱装置の定期整備及び保守に関するガイドラインの付属書に規定されたとおりであり、点検内容としてオーバーホールまでを要求しないことが確認され、議事録DE46/32、パラグラフ9.22に明記されている。
 
SOLAS第III章第19規則の改正案(DE46/32 ANNEX 10)(仮訳)
第19規則−非常時のための訓練及び操練
1. パラグラフ3.3.3で、現在、割り当てられた担当船員が乗艇して進水すると規定されている内容を以下の内容に変更する。
 
3.3.3 パラグラフ3.3.4及び3.3.5に規定されているものを除き、各救命艇は、船体放棄操練時に、少なくとも3ヶ月に1回、進水され、割り当てられた担当船員が乗艇して水上で操船すること。
 
注:自由降下式救命艇の場合に、3ヶ月毎に模擬進水を実施し、乗員が18ヶ月以前に自由降下進水の訓練を受けていれば、自由降下進水の代わりに、水面への降下を実施できるとのパラグラフ3.3.4の改正については、いくつかの国が反対し合意されていない。また、自由降下式救命艇にフロートフリー進水を要求することについては、LSAコードや、試験勧告における性能要件、試験方法が整備されていないため、継続審議している。(DE46/32、パラグラフ28)
 
MSC/Circ.1093(仮訳)
救命艇、進水装置及びオンロード離脱装置の定期整備及び保守に関するガイドライン
 
1 海上安全委員会(62回会合1993/5/24〜5/28)は、救命艇オンロード離脱装置の点検整備に関するガイドラインをMSC/Circ.614として承認した。
 
2 MSC62でそのガイドラインを承認した後に得られた経験や、より拡張した又、より改善されたガイドラインを適用することで救命艇の事故防止に繋がることを認識し、海上安全委員会(77回)は、ANNEXに示す救命艇、進水装置及びオンロード離脱装置の定期整備及び保守に関するガイドラインを承認した。このガイドラインは、救助艇、高速救助艇や救命いかだ及びそれらの進水装置、オンロード離脱装置の定期整備及び保守に対しても使用することができる。
 
3 関係各国は、付属のガイドラインをできるだけ早く適用し、船主、オペレーター、船員、検査官、製造者及び救命艇、救命いかだ、救助艇及び高速救助艇及びそれらの進水装置、オンロード離脱装置の検査や整備に関係する人たちにこのガイドラインを注目させることを要請される。
 
4 本サーキュラーは、MSC/Circ.614に取って代わるものである。







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