まえがき
救命艇は、海上への避難脱出時、使用される最も主要な救命設備であり、容易且つ安全確実に利用できるものでなければならない。そのため、船舶検査や操船訓練が定期的に実施されている。
しかし、検査・訓練時における救命艇離脱装置の誤作動・誤操作による艇の落下事故、耐火救命艇のエンジン用空気ボンベの破裂事故等、各種の死傷者をともなう事故が発生しており、旅客船等にも同様の事故が起こることが予想される。
これらの事故は、(1)設備・装置のシステム・構造に起因するもの、(2)操船者の設備・装置に対する不慣れによるもの、(3)メンテナンスが不適切なこと、等が原因となり、発生するものと考えられる。
海外においても、救命艇による訓練中の事故が多発している現況に鑑み、その対策のため、事故例の調査、離脱装置に対する操作マニュアルの標準化、各製造者による離脱システムの改善等が、いくつかの国で個別に検討されている。
国際海事機関(IMO)でも問題になり、事故防止に向けた救命艇システムに関する整備・保守ガイドライン(MSC/Circ.1093)が発行され、各国でも、整備や訓練及び検査の方法等に関する見直し等について検討を進めていくことが提案されている。
本調査研究は、救命艇システム・装置の現況調査と救命艇事故事例の調査解析を実施し、システム、装置のハード面と、操作や整備方法等ソフト面との両面から総合的に救命艇の事故防止対策を検討し、IMOの基礎資料とするとともに、救命艇システムの安全性向上、品質改善を目的として実施するものである。
そのため、(社)日本船舶品質管理協会に学識経験者、その他関係者からなる「救命艇の品質改善に関する調査研究」委員会を設け、2年計画で実施する。なお、試験の実施等のため、作業部会を設けた。
なお、本調査研究は日本財団の助成事業で行われたものである。
救命艇は、従来より広く使用されている救命設備であるが、操船訓練時や船舶検査時などに離脱フックの誤作動、誤操作等に起因する救命艇落下事故により死傷者が出たり、耐火救命艇のエンジン用の空気ボンベの破裂事故等、様々な事故が発生している。これらの事故は、その大部分が機器の構造に起因するもの、操船者の機器に対する不慣れ、確実なメンテナンスが行われていないこと等が原因になっているものと考えられる。いずれにしても、同じようなことが旅客船等においても起こることが予想され、これらの事故を未然に防止するため、また、船舶の緊急時の脱出設備として確実に安全に使用できるような対策が急がれている。IMO(国際海事機関)においてもこれらの事故を重視し、平成14年3月に開かれたIMOの第45回DE(設計設備)小委員会において、救命艇の事故防止手段に関する審議が開始され、整備や訓練及び検査の方法等に関する見直し等について検討を進めていくことが提案されている。
このような状況に鑑み、これらの救命艇関係の事故について調査し、事故原因の解析等を通じて、品質改善の観点から、早急に対処すべき方策等を検討し、海上における船舶及び人命の安全向上に資する。
(1)平成15年度は、次の事項について調査研究を行う。
(1)事故調査
過去に行われた事故調査報告書等を含め、救命艇関連の事故状況について調査する。
(2)事故原因の解析
事故の発生原因を解析し、機器の構造等に起因するもの、不十分な点検・整備状況によるもの、誤操作等の人的要因に関連するもの等に分類し、それらを解決するために必要な品質改善の方向性を探る。
(3)品質改善手段に関する調査
機器の構造等に起因するもの及び誤操作等による事故状況に注目し、機器の構造改善及び容易で確実な操作を可能にするような操作部の改善方法等について、モックアップ等を用いた実験を含めて具体的に検討を進める。
(4)救命艇及揚げ降ろし装置等の整備基準に関する調査
不十分な点検や整備状況により発生する事故を防止するために、必要な整備内容及び整備体制を検討し、それらを実現するための救命艇及び揚げ降ろし装置等に対する整備基準原案を作成する。
(5)その他品質改善手段の検討
事故原因の解析過程で抽出された上記以外の問題点について、救命艇の品質改善の観点より、それらの改善方向及び改善手段等を検討する。
(2)次年度計画
(1)品質改善手段についての実艇を用いた検証実験
初年度における成果を踏まえ、救命艇及び揚げ降ろし装置等について、品質改善手段を取り入れた試作品を作成し、実艇を用いた実験によりその効果を検証する。
(2)品質改善に関する総合的な検討
救命艇及び揚げ降ろし装置等の信頼性について総合的に検討する。また、次世代退船システム等についての動向調査を実施する。
(3)調査研究のまとめ
上記調査研究の結果をまとめ、評価し、救命艇事故原因の解析等を通じて、品質改善の観点から、早急に対処すべき方策等の資料を作成する。
(4)事業の実施方法
(社)日本船舶品質管理協会に学識経験者その他関係者からなる委員会を設けて事業遂行のための審議を行う。
(2カ年事業初年度)
本事業を遂行するために、下記の委員からなる「救命艇の品質改善に関わる調査研究」(略称:救命艇委員会)を構成した。
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氏名 |
所属・職名 |
委員長 |
長田 修 |
元船舶技術研究所 装備部長 |
*
部会長 |
板垣 恒男 |
製品安全評価センター 次長 |
* |
清水 良 |
(財)日本海事協会 材料艤装部 主管 |
* |
太田 進 |
独立法人海上技術安全研究所
海上安全研究領危険物輸送・防災研究グループ長 |
* |
上村 宰 |
(財)日本舶用品検定協会 技術課長 |
* |
宮坂 真人 |
(社)日本船主協会 海務部 |
* |
岡田 卓三 |
(社)日本船長協会 常務理事 |
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東 伊一郎 |
(社)日本中小型造船工業会 常務理事 |
* |
岡 俊彦
(伊藤 仁) |
(株)アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド クラフト部 課長代理 |
* |
角 喜弘
前任者 (田上 淳) |
(株)信貴造船所 技術グループ |
* |
山根 和之 |
(株)ニシエフ 技術部 課長 |
* |
野々下 慎一 |
豊永船舶(有)専務取締役 |
* |
伊東 和太 |
常石林業建設(株)クラフト救命艇部 部長 |
* |
林田 光磨 |
辻産業(株)技術本部 クレーン・機械グループ設計 担当 課長 |
* |
後藤 国敏 |
(株)関ヶ原製作所 技術部 課長 |
* |
土井 雅宏 |
萬成工業(株) 工場長 |
*関係官庁 |
清水 武史 |
国土交通省 安全基準課 バリヤフリー推進係長 |
関係官庁 |
西 敏英 |
国土交通省 検査測度課 業務1係長 |
*関係官庁 |
高松 正徳 |
国土交通省 船舶検査官 |
事務局 |
武山 誠一 |
(社)日本船舶品質管理協会 常務理事 |
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安部 信之 |
(社)日本船舶品質管理協会 上席技師 |
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小川 政泰 |
(社)日本船舶品質管理協会 業務部長 |
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注:*印は、作業部会委員を示す。
平成15年度は、委員会を3回、作業部会を5回開催し、審議した。
3.2.1 委員会経過
(1)第1回「救命艇の品質改善に関する調査研究」委員会
日時:平成15年4月25日(金)、13:30〜16:30
場所:第7東ビル1F会議室
議題
1)事業計画について
2)作業方法について
3)その他
(2)第2回「救命艇の品質改善に関する調査研究」委員会
日時:平成15年9月30日(火)、14:00〜16:30
場所:第7東ビル1F会議室
議題
1)操作マニュアルについて
2)救命艇の点検・整備要領について
3)離脱装置及び進水装置について
4)ボートウインチ・ボートダビットについて
5)モックアップについて
6)MSC/Circ.1093ガイドライン適用について
(3)第3回「救命艇の品質改善に関する調査研究」委員会
日時:平成16年2月19日(木)、14:00〜16:30
場所:(社)第7東ビル1F会議室
議題
1)操作マニュアルについて
2)救命艇の点検・整備要領について
3)進水装置点検・整備要領について
4)モックアップについて
5)報告書案
6)その他
3.2.2 作業部会経過
作業部会 |
期日 |
場所 |
議題 |
第1回
作業部会 |
15.5.23 |
第7東ビル
1F会議室 |
・救命艇の事故事例について
・離脱装置・進水装置について
・救命艇の点検/整備要領について
・操作マニュアルについて
・離脱フックの改善について |
第2回
作業部会 |
15.7.15 |
第7東ビル
1F会議室 |
1. 操作マニュアル及び整備マニュアルについて
2. 救命艇の点検・整備要領について
3. 離脱装置及び進水装置の点検整備要領について
4. ボートダビットの点検整備要領について
5. IMO/DE46による救命艇の点検整備要領について
6. 整備資格者について |
第3回
作業部会 |
15.9.12 |
第7東ビル
1F会議室 |
1. 操作マニュアルについて
2. 救命艇の点検整備要領について
3. 離脱装置及び進水装置について
4. ボートダビット・ボートウインチについて
5. モックアップについて |
第4回
作業部会 |
16.1.13 |
第7東ビル
1F会議室 |
1. モックアップ試験結果
2. 救命艇の点検整備要領書
3. 救命艇整備済記録簿
4. 報告書案について
5. その他 |
第5回
作業部会 |
16.1.22 |
第7東ビル
1F会議室 |
1. 救命艇の点検整備要領書
2. 救命艇整備済記録簿
3. その他 |
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