日本財団 図書館


第7分科会「難聴・統合教育」
討論の柱 (1)インテグレーションの見直しと、これからの統合教育
(2)統合教育と難聴学級の役割
(3)特別支援教育と聾学校の役割
共同研究者 稲田利光(全国難聴児を持つ親の会)
足立貢(大阪市立泉尾北小学校)
座長
司会
堀谷留美(大阪市立聾学校
日向大吾(山形県立酒田聾学校)
共同研究者報告 (1)「これまでのインテグレーションを振り返って」
  稲田利光(全国難聴児を持つ親の会)
レポート (2)「『原則分離・選択制』の選択制を模索して−よそ者の宿命−」
  末森明夫(茨城県聴覚障害者協会)
(3)「何のための統合教育なのか?!」
  渡辺健(東京都・会社員)
共同研究者報告 (4)「統合教育と難聴学級の役割」
   足立貢(大阪府立泉尾北小学校)
【分科会のまとめ】
今までのインテグレーションを見なおし、問題点を整理することを、一日目のねらいとした。そこで、集団の意義・ネットワークの在り方・さまざまなモデルを提供することをめざして、
(1)保護者(2)現場(3)当事者の3つの立場から問題提起を行った。保護者の立場からは、これまでのインテグレーションを集団という切り口で検証した報告がなされた。現場からは、ある地域の取り組みが報告され、県下の難聴学級在籍児の交流会や教職員の研修会など、インテグレーション支援のモデルが示された。当事者からは、自身のインテグレーションの経験のみたらず、地域における学校の望ましいネットワーク作り等の取り組みについて報告、提案が出された。
 その後、いくつか県内のインテグレーション支援の取り組み状況や問題について情報交換を行い、過剰な支援による児童・生徒の心理的負担が指摘された。単に学習や情報保障の支援を行うだけでなく、生活面で自立するための支援も重要という意見でまとまった。その際、聴覚障害児同士や成人との交流の重要性も確認された。
 
【成果と今後の課題】
 これまでのインテグレーションを見なおし、問題を整理することができた。また現在のインテグレーションの状況、各地の支援体制について情報交換を行うことができた。文部科学省の報告にある今後の特別支援問題については、深く掘り下げることができなかったが、今後学習を深めていきたい。
 なお、座長として反省したい。
 
 
レポート(1)
「これまでのインテグレーションを振り返って」
稲田利光(全国難聴児を持つ親の会)
 
テーマは【集団】―大阪市の小学校を例に考える―
人口約260万 世帯数約120万(H15年)
 
―インテグレーションの波―
・30年前(昭和50年頃)
固定制難聴学級 市の北部に1校(6学級)
             南部に1校(6学級)
センター校方式 各学級在籍難聴児 3〜9名
授業形態 国語・算数(社会・理科)は難聴学級
 音楽・体育・ホームルームは一般学級
《広島県福山市(現在も)幼・小・中学校 固定制難聴学級(センター校方式)》
 
―インクルージョン・ノーマライゼーションのうねり
―地域への通学児が増える
 現在の大阪市 固定制難聴学級 8校8学級(内1校はセンター校・他は校内通級)
・大阪府下 固定制難聴学級 1市町 1学級(センター校方式が中心)
・大阪府下S市 在籍児童12名(難聴学級2学級) 最多学年 在籍児童4名
 
【集団を構成する要件】
(1)思の通じ合う5人以上の学習時の仲間
(2)―クラス全員が理想
・小学生に多い勝手な発言をどのように処理するか
・F・M補聴器の限界
・先生の力量、学校管理者の理解
・学校全体の協力体制
 
(3)意思の通じ合う3人以上の遊びの時の仲間―最低でもクラスメイト・全校生が理想
・遊びのルールの確認(共有)
・後追いでなく主体的な行動
・センター校に通学している子どもの場合、家の近所での遊びはどうするか。
(4)集団の最低単位としての家庭での現状
・家族団らん時に両親・兄弟姉妹とは通じ合っているか。
 
【問題点】
(1)人口密集地と過疎地(県内の難聴児の絶対数)
(2)交通の便の良いところ、悪いところ
(3)県に聾学校が1〜2校、難聴学級も少ない
(4)軽・中等度の難聴児の居場所をどうするか(教育の場はどこが良いか)
 
レポート(2)
「『原則分離・選択制』の選択制を模索して―よそ者の宿命―」
末森明夫(茨城県聴覚障害者協会)
 
1. 私のインテグレーションの経験
・トラウマ/語り得ぬ物語
・遅すぎた第2の行誕
 
2. 2人の聴覚障害児の育児経験
・聴覚口話法か 手話法か?
・ろう学校か 地域校か?
・原則分離
・選択制という考え
・みそっかす/よそものの宿命
 
レポート(3)
テーマ:「何のための統合教育なのか?!」
渡辺健(東京都・会社員)
 
1. 聴覚障害者には社会で生活するために何が必要なのか?
 近年、教育行政では「生きる力」を盛んに提唱しています。その「生きる力」を育むために学校等では総合学習など様々な取り組みが行われています。
 しかし、そもそも「生きる力」とは何でしょうか?私はこのように考えています。
 社会の中で生きていく力のこと。
 学校でも家庭でも会社でも地域でも回りを見渡すと、ほとんど聴者がいます。当たり前かもしれませんが、聴覚障害者だけという地域社会はありません。
 ずっと普通学校に通い、聴者の世界や聴覚障害者の世界のどちらにもうまく入れない、孤独な社会環境の中で育った、いわば「第3の世界」にいる人が会社に入ってきた時に、周囲とコミュニケーションをうまくとれないという壁に突き当たるケースがありました。その会社には、聴者だけではなく、聴覚障害者もいましたが、手話でコミュニケーションがとれず、筆談も筆記日本語がきちんと身に付いていないために、意思疎通をうまく出来ないという問題がありました。そのことがプレッシャーになったのか、心の病になってしまい、ついには会社を辞めるという残念な結果となりました。
 このようにコミュニケーション面で問題を抱えたまま、会社に入ってきても、適切な支援を出来る体制が社会の中で整備されていない以上、学校できちんと「生きる力」を身に付けられるような教育をしていくことが肝要なのではないでしょうか?
 
 そのためには、どのような統合教育が望ましいのか、皆さんと一緒に考えて行きたいと思います。
 
2. 統合教育は何のため?
 まず、教育という言葉ですが、「教」という「教える」ということはどこの学校でも文部科学省が定めたカリキュラムに沿って行われていますね。一方で「育」はどうなのでしょうか?冒頭で「生きる力」について、触れましたが、こういった「生きる力」をきちんと学校の中で育んでいけているのでしょうか?
 教育は「共育」であるという人がいます。統合教育がまさにそうではないかと思います。聴者も聴覚障害者も共に育んでいく、そういう場であって欲しいと思います。
 
3. より良い統合教育のために
 私の場合、幼稚園から大学までずっと普通学校に通いました。聾学校の経験がないのは珍しくありませんが、難聴学級さえも経験がありません。その経験の中で、痛感したことは「平等」って何?ということです。
 例えば、学校に入学する時に、耳が不自由だからといって特別扱いはしません。他の子どもたちと差別しないように平等に扱います、と言われます。
 これは「機会の平等」ですね。他の子どもたち(聴児)と同じように入学する権利がある、授業を受ける権利がある、そういったことを保障することは大事だと思います。しかし、平等に扱えばいいというものではないと思います。
 先生の話が分からないから、板書して欲しいとか、プリントを作って欲しいとか、お願いしても「君のために特別なことをするのは、他の生徒たちが不公平になるから出来ない」と言われます。
 平等に扱うことが不公平を生まないという論理は、矛盾していると思いませんか?
 何故ならば、平等に扱っているにも関わらず、人によって理解度に差がありますね。板書を増やしたり、プリントを用意したりしてもらうことは、聴覚障害児だけではなく、聴児にとっても有益なことだと思います。聞き間違いがなくなりますし、内容を正しく理解することが出来るのですから。
 同じスタートラインに立てるのが、「機会の平等」ならば、同じゴールを踏むことが出来る「結果の平等」も保障するべきだと思いませんか?
 つまり、板書を増やしたり、プリントを用意したり、あるいは手話通訳やノートテークなど文字通訳といった情報保障を用意してもらうことで、聴児も聴覚障害児も同じ情報を得られるようにするということです。それが結果として平等ではないでしょうか?
 
4. 教育行政への提言
 「聾学校、普通学校という枠組みを無くし、一つの校舎(敷地)に聴覚障害児クラス、聴覚障害児&聴児クラス、聴児クラスを設置する」
 聴覚障害児は聾学校か普通学校かという選択肢があるが、逆転の発想として同じように聴児も聴覚障害児と一緒に学べるクラスを選べる選択肢があってもいいのではないか?
 そのクラスでは、聴覚障害を持つ教員が手話で授業を行う。必要ならば、聴児への情報保障(読み取り通訳)を用意する。
 何も手話やろう文化と言われているものは、聴覚障害者だけしか使えないという訳ではないので、学校の中でもっと聴児と聴覚障害児&聴覚障害を持つ教員との関係性の中から色んなことを共に学んでいけるようにすることが、本来の教育のあるべき姿なのではないだろうか?
 
レポート(4)
「統合教育と難聴学級の役割」
足立貢(大阪府立泉尾北小学校)
 
1. はじめに
 大阪の難聴学級の現状をふまえて、難聴学級に望まれることは何か、また、難聴学級でどのような取り組みを進めていけばよいのか検討したいと思います。
 それに加え、難聴学級を担当する教師に必要なサポートは何かということや難聴学級のレベルアップをはかるために、必要な視点は何かということを考えていきたいと思います。
 
2. 大阪の難聴学級の現状から
(1)2003年度 難聴学級設置校数(難聴学級を設置する学校数/全ての校数)
・小学校:大阪市8校/299校 大阪市以外17校/734校
・中学校:大阪市5校/129校 大阪市以外14校/334校
(2)難聴学級の実態:1999年に実施したアンケート調査より、わかったこと
・難聴学級の在籍数は1〜2人という学校が8割近い
・難聴学級を担当して1〜3年という教師が約6割をしめる
・難聴学級での指導は、国語、算数(数学)、社会をする場合が多い
・通常の学級に入り込み指導をしている学校は、6割ある。
・対象児とのコミュニケーションで手話を使おうとしている教師は多い
・集会等では、効果的な情報保障が、できていない場合が多い
・他の難聴学級や聾学校などと連携があまりできていない
*大阪の難聴学級の多くは、校内に在籍している聴覚障害児が、決まった教科や活動のときだけ、難聴学級にきて学習をするという形態をとっています
 
3. 研究会が果たす役割
 大阪には、府難研(大阪府養護教育研究会 難聴教育研究分科会)という研究会があります。この研究会には、難聴学級を担当する教師が多いのですが、聾学校や障害児学級、通級指導教室、通常の学級を担任する教師も参加しています。
 上記のような、難聴学級の状況を少しでも改善するために、府難研として取り組んでいることを紹介します。
(1)教師向け:研究・研修会
○講演会:年1回おこなわれる総会(1学期6月ごろ)では、聴覚障害に関する専門的な知識や、できるだけ最新の情報が得られるように講演会を実施しています。ここ2年間の内容を示します。
・2002年、鳥越隆士先生(兵庫教育大学)「聴覚障害児教育における手話の効用」
・2003年、河崎佳子先生(佛教大学)「聴覚障害児教育への提言−聴覚障害者とのカウンセリングをとおして−」
○コース別研修会:これも総会時に、参加者が必要に応じて、受講できるように4つの講座(ことばの指導、検査法人門、初めて聴覚障害児を担当して、通常の学級での配慮)を設けて実施しています。
○手話学習会:1学期に3回実施し、講師は、聴覚障害がある先生が担当します。手話の技術だけでなく、聴覚障害がある先生の講演も交え、聴覚障害について理解を深める機会としています。
○秋の研究会:講演会または、実践交流会、施設見学会など、いろいろな方法で、研修できる機会を提供しています。3年ほど前より、奈良県や兵庫県にある研究会と合同で実施するようになってきています。
(2)子ども向け:聴覚障害児の交流会「WANPAKU交流会」の実施
○2000年よりスタートしました。
○難聴学級の実態より、校内に在籍する聴覚障害児が少ない学校が多いので、聴覚障害児の集団を保障したいという思いで企画しました。
○「WANPAKU交流会」へのこだわりは、以下の通りです。
・遊びだけの交流ではなく、発表会をおこなう。
→大勢の人(特に聴覚障害児)の前で発表するという体験を重視
・様々な方法で情報保障をおこなう(手話通訳、赤外線補聴援助システム、発表者を大きくスクリーンに映す、文字で知らせるなど)。
→いろいろな情報保障の仕方があることを実際に体験し、子どもも担当の教師も学べるようにする
・聴覚障害者に役立つ機器の展示。
→普段、目にすることの少ない機器を試し、触れることができる機会を用意する
○2002年度の実績
・参加者:子ども約170名、教師と保護者約130名 参加校は31校
・日時、会場 2003年1月17日 大阪府立生野聾学校体育館にて
・プログラム
午前:発表会(発表校は、聾学校3校、難聴学級7校、難聴学級以外の学校6校)(発表内容、ビデオで発表、劇やパフォーマンス、和太鼓演奏など)名刺交換会(作ってきた名刺を自由に交換し、親睦を深める)
午後:ゲーム大会
○参加者の感想から
・この会に対する期待が大きく(同じ聴覚障害がある仲間と出会え、刺激を受け合うことができる、コミュニケーションを楽しめるなど)、存続を望む声が多い
 
4. 難聴学級の役割
難聴学級で取り組む必要があると考えることは、以下の通りです。
(1)対象児の実態の把握をする
(2)対象児の学力(文章表現力、読解力などを含め)の向上をはかる
(3)対象児の障害の認識を深める
(4)対象児に必要な情報保障をおこなう
(5)聴覚管理(聴力、補聴器)→自校で無理な場合、適切な機関へ連絡や紹介をする
(6)きこえる子どもたちが聴覚障害について理解を深めるための手だてを考える
(7)聴覚障害児を通常の学級で担任する教師へのサポートをする
(8)学校全体の聴覚障害についての理解推進に関与する
(9)保護者との連携、サポートをする
(10)関係機関(他の難聴学級、聾学校、いろいろな研究会、病院など)とのネットワークの拡充をはかる
 この中から、きこえる子どもたちが、聴覚障害について理解を深めるためにおこなった取り組みを紹介します。この取り組みでは、対象とする聴覚障害児自身も、自分のことを見つめ直す機会にしたいと考えました。
 
(1)障害の理解・認識を深めるための取り組み紹介
○対象:2年生(聴覚障害児と聴覚障害児が在籍する通常の学級で学ぶ児童)
○方法
・聴覚障害児のきこえに関するアンケート用紙(回答は1/4選択)を作成
例:「補聴器をしていてもきこえにく音は、なんでしょう?(チャイム・先生が吹く笛の音・校内放送・テレビの声)
・アンケートにまず、聴覚障害児が回答(個人で)
→自分のことを見つめ、考えるきっかけにする
・アンケートを他の児童がする(集団で):質問の項目は、聴覚障害児が読む
→聴覚障害児のきこえの状態を考えるということを意識づけるため
・アンケートを集計し、聴覚障害児の答えと照合し、パソコンで結果を示す
・アンケートの結果を示す際、保護者にも来てもらい、コメントをしてもらう
○きこえる子どもたちへの指導<考え方>
・一方的に考え方を押しつけない
・効果的なコミュニケーション方法を伝える:視覚的にわかることの重要性
→例:通常の学級で朝の会に実施する、「手話学習会」
・聴覚障害児ときこえる子どもたちが、〜してもらう、〜してあげるという関係にならないようにする
→自分たちで状況を見て、判断できるようにしたい
例:図書委員会の児童による、手話による「紙芝居」の取り組み
(2)めざす難聴学級は?
 大阪の現状を見る限り、難聴学級は、多くの課題をかかえています。難聴学級自体のレベルアップをはかるために、次のような視点が必要であると思っています。
(1)固定制の難聴学級の設置
・国語や算数など、その子どもにとって、より効果的に学習できると考えられる教科や活動について、難聴学級にきて学習をするという形態
・学校生活全体を通して、実態を把握し、情報保障を考える
・通常の学級で学習をする際は、配慮やサポートが必要だが、難聴学級担任のみがするには、限界があるので、外部から通訳など派遣してもらえるようにしたい
・きこえる子どもたちや学校全体の聴覚障害に対する理解を深めていきやすい
(2)聴覚障害児の集団の確保
・聴覚障害児がお互いに学び合える場を校内につくりたい
→同学年に複数の聴覚障害児が在籍するような状況が望ましい
・校内で無理なら、いろんな機会を利用し、聴覚障害児が出会える場を工夫したい
→例:「WANPAKU交流会」、親の会など
(3)難聴学級を担当する教師のレベルアップをはかる
・指導技術だけでなく、意識(障害の認識、情報保障など)を高めたい
・研究会、研修会の充実をはかる→特に、手話技術のレベルアップをはかりたい
・難聴学級を担当して間がない教師をサポートできる、スーパーバイザー的な役割をする教師を養成する
(4)他機関と様々なネットワークが構築できるようにする
・特に聾学校との連携を強める
 
 







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION