第4分科会/討論
【共同研究者報告(1)】
「高等教育機関への聴覚障害学生の受け入れと筑波技術短期大学の役割」
根本匡文(筑波技術短期大学)
白澤(座長) パソコン通訳・速記・遠隔システム通訳等、技短には多くの資源があるが、一般の人がこうした資源を使いたい場合、どういう形でアクセスすればいいか。
根本(共同研究者) 技短としてもPRが必要なことは認識している。とりあえずは教員の誰かにコンタクトを取ってもらうしか方法がない。現在、音声認識を活用した通訳や、遠隔地通訳等の開発が各地で行われているが、技短としてはそうした研究を取りまとめ、ネットワーク化していく必要があると考えている。
菊池(群馬大) パソコン通訳、音声認識、色々なシステムあるが、お互いに(ろう者、通訳者)専門知識(英語、数学等)がなくて通訳できない等の問題もある。その点、遠隔地通訳を利用すれば、専門知識を持った通訳者と利用者を結べるので期待している。
根本(共同研究者) ニーズがあることを認識する。もっと技短を知ってもらい、聴覚障害者のための大学として役割を果たしたい。
【レポート(2)】
「ノートテイクの広がり〜情報保障の有力手段へ〜」
松延秀一(京都大学)
羽生(郡山女子短大) 法人化について詳しくお話しを聞きたい。
松延(レポーター(2)) プリントA4版に記してありますが、日本育英会の廃止、独立行政法人への移行が決まった。来年4月から国立大学法人となる。国から補助金はでるが公務員でなくなり、また自分たちで運営していく事になる。国立の名前は残るが。
白澤(座長) 法人化することで、障害学生サポートヘの影響はどう出るのか?
松延(レポーター(2)) 改革の時期に日々の雑務に追われて、障害学生サポートが二の次にされてしまう危険性が大きい。当事者が声を上げて重要性を訴えていく必要がある。
白澤(座長) 根本先生からは、大学運営が柔軟になるため障害学生サポートの取り組みもやりやすくなるとの発表があった。ただ、自由になる反面、やらなくてもよいという方向に進む危険も。法人化は諸刃の剣ともいえるのでは。
【レポート(3)】
「学習院大学のろう学生サポート〜現状と課題〜」
後藤秀和(学習院大学)
橋本(東京) 事例報告を聞いて参考になった。こうしたノウハウをどこから得たのか。
後藤(レポーター(3)) ノートテイカーは学生たちが言い出した。はじめは何から手をつければよいのかまったくわからなかったため、すべて聴覚障害学生に話を聞いて進めている状態。
橋本(東京) ティーチングアシスタントに払うバイト代は。
後藤(レポーター(3)) 時給1,200円。
白澤 何もノウハウのない大学が、ここまでできると言ういい見本になったと思う。大学が何もやってくれないと言うのは過去の話。時代は変化してきている。
【一日のまとめ】
根本(共同研究者) 今日一日で、新しい情報を知ることができた。聴覚障害を持つ学生が増えていて、それに応じて、情報保障ニーズが多様化し、いろいろな形で進んでいると感じた。学習院大学のように、先生方が一丸となって取り組んでいる例も参考になった。今大学院での情報保障が問題となっているが、そうした多様なニーズにどう対応すべきか整理する一方、ろう学生としての共通点も見出していきたい。少しでもセンター構想に近づけばいいなと思う。
白澤(座長) 大学の状況もこれだけ変わってきているんだということが良くわかったと思う。国立大の法人化が進んでいる今、この機会を上手く利用して、大学が変わる時に上手く便乗して障害学生サポートの流れも変われるように、何か働きかけていかなければならない。
【レポート(4)】
「私たちの取り組み」
尾田将史(四国学院大学)
白澤(座長) ろう学生、障害学生数は?
尾田(四国) 聴覚障害学生20名、障害学生5名。
岩田(広島) 自衛隊生活体験には何の為に行ったのか。
尾田(四国) もともとはろう学生の中に自衛隊に興味がある学生がいたためはじまったが、欠格条項排除のために、ろうでもできると言うところを見せたいと思った。
羽生(郡山) 英語のヒヤリング等特別配慮あるか。
尾田(四国) 大学も理解してきている。
後藤(東京) オープンキャンパスで活動報告をしたり、教員に対して要望を出したりしている様子がよくわかったが、大学に訴える窓口はどこにあるのか。教員に対する聴覚障害学生の評価は届くのか。
尾田(四国) 大学の窓口としてはウィングスの顧問がいる。教員に対する評価は教務課の担当、オープンキャンパスは入試課、施設は施設改善課等それぞれ対応窓口が異なるが、顧問のアドバイスで担当課に意見を持っていく形を取っている。
授業評価については、ろう学生の目から教員の授業方法に対して評価を実施し、結果を各教員に届けてもらっている。内容は、手話通訳やノートテイクに対する配慮、レジュメの配布など。またノートテイクに対しても、書いた内容をみて、きちんと理解できるか、仕事ができているか等の評価を行っている。
【レポート(5)】
「郡山女子短大における情報保障の実現にむけて」
羽生薫(郡山女子短大)
菊池(群馬) 高校の時、特別講座にはノートテイクがついたか。
羽生(郡山) 先生が援助してくれた。
菊池(群馬) 短大のサポート、ゼミの時どうやって通訳を頼んでいるのか。
羽生(郡山) 質問があればノートテイクしていただいた。
菊池(群馬) 卒論、ゼミの発表、専門の実習の通訳は。
羽生(郡山) パソコン専門の先生の協力を得て事前に準備、写真も豊富に使い、カラーも所々、OHP、黒板とフルに活用するので好評である。
【レポート(6)】
「宮城県における地域型サポートセンターの設置を試みて〜高校における情報保障を中心に〜」
高橋明美(宮城県仙台市聴覚障害学生情報保障支援センター)
菊池(群馬) センターを設立してから、どの位たつか。
高橋(仙台市) センターは4月に設立したが、準備期間は3年間あった。まずは聴覚障害学生の会を立ち上げ、活動を続ける中で、センターの設立にいたった。
菊池(群馬) 手話サークルどの様にPRしたか。
高橋(仙台市) 募集はパンフレット。全通研の会報に連続して載せていただいてPR、通訳者登録をしてもらった。
菊池(群馬) 大学側とのノートテイカーの保障は。
佐藤(仙台市企画係) 高校・大学ではノートテイカーの仕方違う(現在検討中)。養成には本来連続した講座が必要だが、そこまでの期間が取れないため、現在は2回の講座に受講していただき(マナーも含む)、現場で活動をしながら、セミナー等にも参加してもらって技術およびマナーを磨いていくと言う方法をとっている。交通費は大学・高校から負担していただく。
中島(千葉) (1)高校生が大学生並みに情報保障の必要性について訴えていると言うことに感銘を受けた。その高校生が参加したと言うセミナーではどういう内容を実施したのか。(2)高校からの要請はどの位あるのか。
松崎(司会) (1)以前から学生に混じって調査等を行っていたため、自覚が芽生えたのだと思う。セミナーでは、ワークショップ(講演・討論)を行なっている。また、聴覚障害の模擬体験として、耳栓をしノイズを聞かせた状態で、授業に参加してもらい、ノートテイク等の体験をしていただいたところ、情報保障の必要性がみんなに伝わった様子。(2)去年の調査では20名位のろう学生がいる。しかし、前の席に座るので通訳が必要とは感じていないなど、問題意識は希薄な状態。
【全体討議】
羽生(郡女短) 全国を総括する聴覚障害者情報保障センターのようなものがあればよいと思うが。
菊地(群馬) 大学4年でゼミが始まった時、通訳派遣センターに2人お願いして来てもらった。謝礼として半年間で98万円大学が払った。また、情報保障の必要性等については、出身校である技短から先生に来ていただき、大学に説明をしてくれたおかげで、大学もスムーズに受け入れることができた。このようなサービスがもっと広まるとよいと思った。
Wingsの学生生活におけるあり方についてとてもよいと思った。講義だけではなく余暇活動にういてもこのような保障が広まればよい。
あきた(熊本) 子供が3人いて、高2の子供が技短を希望しているのでこの分科会に参加した。難聴者に対してノートテイク等の情報保障があるのを初めて知った。羽生さんの話を聞いて、郡山ももう少し通訳の支援制度があればいいと思った。
松延(京大) 日本障害者高等教育支援センターのニュースレターに、国の国立大学に対する障害者予算が3億円だと載っていた。しかし、国立学校特別会計は今年度で廃止されるため、今後どのような形で障害学生サポートが行われていくのか不明。国立特殊教育総合研究所等の国の機関があるが、残念ながら高等教育の研究はしていない。こういう研究に対して何とかしてほしいと要望を出す必要があるのでは。
白澤(座長) 松延さんの言うように、今ある組織を有効につないでいくことは大事。関東では関東聴覚障害学生サポートセンターがあり、宮城にも同様のサポートセンターができた。また、全国組織として日本障害者高等教育支援センター等もあるが、高等教育についての拠点をどこに持っていくか考え、体制作りをしていく必要があると思う。今大学でサポートを行っている立場では、どういう形が利用しやすいと考えるか?意見をお聞かせください。
後藤(学習院大) 拠点については私の方では分からない。ただ組織をまとめるのは難しいが、情報の発信源をまとめるのはいますぐにでも出来るのではないか。例えば技短等から全国の情報が発信されれば、利用する側はそこに聞けばわかると言うので利用しやすくなると思う。
菊地(群馬) 話は変わるが、大学の講義では通訳者は専門知識を持った人に来てもらいたいと思うが、専門知識を持った人を探して養成するのは非常に大変。けれども遠隔地通訳等を利用するとそれが軽減されると思うが。
白澤(座長) 全国各地で専門の通訳者を養成するのには限界がある。しかし、手話研修所や手話学会等通訳養成が可能な場所にスタジオを設置して、技短で開発しているような遠隔地通訳と組み合わせれば、各大学のサポートはすごくよくなると思う。
大学のサポートセンターに関する情報を蓄積しなければならないのとともに、このようなサポートの質の向上も大きな課題。
尾田(レポーター(4)) 聴覚障害者の高等教育のセンターとして設立されたはずの技短は、創立26年目になるが中身がずっと同じ。何のためにあるのか。
全国で高等教育のセンター的役割を持っているのは技短だけである。しかし、技短は理系なので、3〜4年前、西日本で技短のような文系の大学を作る話があったが、実現されなかった。今は、技短以外の大学に進む学生が増えているので、技短にすべてを要望しても無理である。後藤先生がおっしゃったように縦の繋がりより横の繋がりが必要。例えば私立大学の場合、大学ごとのネットワークがあるため、その大学のつながりでセンターを立ち上げていくのが今の状況に合っていると思う。ただ、講義保障を論じる前にやるべきことがある。大学に講義保障があっても、これは聞こえる人が考えたもので、私たちが求めているニーズと違うものが多い。そのため、単に講義保障を求めるだけでなく、ろう学生が求める大学生活とは何かをアピールし、それを勝ち取る努力をするのが先決では?講義保障のない大学と、講義保障はあるが大学が作ったものでろう学生のニーズには合わない大学、講義保障もありろう学生が生き生きと過ごせる大学ではみんなはどれを望むか?単に講義保障だけではろう学生の大学生活は充実しない。もっと他の部分にも目を向ける必要。
根本(共同研究者) 技短に対する要望や批判の声に対しては、十分に受け止めて今後改善して生きたい。われわれも、情報を蓄積する拠点になりたいと努力してはいるが、その努力が実る前に周りの大学や時代の変化が急速に進んでいる感がある。情報を蓄積していくためにはネットワークを作り、発信していく必要。技短も役に立つ教育機関になれるように、新しい姿に発展することを考えている。
今回の議論では、ろうの若者の力の大きさを強く感じた。講義、生活、あらゆることについて、一番フィットする教育機関になるように努力してきたが、今後も当事者の声を受け、原点から見つめなおして技短の職員から変わる努力をしていきたい。
白澤(座長) この2日間でいろいろな情報保障の方法を知り、これからの見通しが持てた。今、聴覚障害学生サポートに関わる機関がいくつかあるが、大学のネットワーク構想に先を越されないためにも、技短を含む関係団体が連絡協議会としてネットワークを形成し、大学との連携体制を整えていく必要がある。
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