日本財団 図書館


レポート(4)
「私たちの取り組み」
尾田將史(四国学院大学)
 
1. はじめに
 本学における私たちの取り組みを紹介します。
 四国学院大学は、入試選考にAA(アファーマティヴ・アクション積極的差別解消策)を導入した日本で初めての大学であり、特別推薦入試選考制度の「身体障害者枠」により、私たちの仲間が入学するようになりました。
 2001年4月、有志が集まって、「Wings」を結成、学生生活の充実、情報交換や学内における諸問題の解決などに向けて話し合いを行っています。
 現在、私たちはA4、ノートテイクサービス制度、日本手話I II III、そして、先輩教員に恵まれています。
 AAによって、日本語で生活しなければならない私たちに、機会の平等を与えられています。
 ノートテイク・サービス制度によって、講義の内容が日本語(書き言葉)を通じて、伝わってくるようになりました。
 日本手話I II IIIによって、私たちが学友に手話を教えるということから始めることなく、学友と関わりを作っていけるようになりました。
 先輩教員の存在によって、社会の情勢が伝えられ、学問の面白さがわかり、進路など様々な相談、生き方をも教えてもらっています。
 学生生活の充実を目指し、定期的に自治会と話し合う場を設けたり、学生大会に積極的に参加しています。
 また、学びやすい環境作りを目指し、教員に対する評価を行ったり、ノートテイクサービス運営委員会へ代表を派遣、ノートテイカーについての評価も行っています。
 クラブ活動も行っており、バスケットボール部と英語部 歴史部 写真部があります。
 
2. 2002年度活動報告
 モットーは「結束」
 定期的に教員志望者向けの教育セミナー・模擬授業を設けるなどして、「私たちの教育とは何なのか」と討論したりしました。その他に、ダンスWS・オープンキヤンパス・早瀬氏の講演会・ASL講座などを設けました。
 また、長野のスキー・スノボー交流会を開催。
 最後に海外研修を通じて、ヨーロッパの各ろう学校を視察、ろう団体などと交流を通して様々なことを学びました
 
3. 2003年度活動報告
 去年のモットーである「結束」から、「一歩」へ。
5月 大学セミナー、自衛隊生活体験
6月 日米文化交流
   (バスケットボール親善試合・ASL講座・キリスト講座・ホムステイ)
 私たちは学生生活だけでなく、住みやすい社会を目指して活動しています。
 
「わたしたちと大学教育」〜検証と可能性〜
四国学院大学 水澤学
 
1. 大学改革
 どんなことが行なわれているのか?
2. 歴史の認識
 近代大学制度の確立
3. 学生運動の変遷
 門戸開放〜講義保障〜学生生活の充実
4. 本学の取り組み
 AA、ノートテイク・サービス制度、「日本手話」、教員、Wings
 学生大会、オープンキャンパス、マイノリティウイーク、大学祭
 英語部、バスケットボール部、陸上部
5. 教育・研究環境の充実
 外国語教育、福祉・教育実習、ゼミの運営、卒業論文の指導
6. 学問の最前線
 私たちのための講義「日本手話III」
 ASL(アメリカ手話)講座、英語講座、大学セミナー
 学問研究することそのものを学生に教えていく(学問的批判的な方法)
7. これまで問われることのなかった大学教育
 前提が問われることはないことの当たり前に気付く
 日本語を前提とした教育と学生運動の限界
8. 卒業後の進路
 だれのための教育だったのか?
9. 可能性の認識
 「ろう教育」の結果をひきうけざるをえない現実わたしたちは政策実現や社会運動等との結びつきという形で社会的に還元していくことのできる位置(社会的空間)にいる「自由」という観念
10. 私たちの未来
 グローバリーゼーション
 
レポート(5)
「郡山女子短大における情報保障の実現に向けて」
羽生薫(郡山女子大学短期大学部)
 
 私が高校のときに同志の方たちと共に宮城県聴覚障害学生の会を設立し、それから聴覚障害学生に関する問題や生活などの様々な経験をし、ある程度の知識を得ることができたが、短大の入学したその頃は自分に「情報保障が必要だ」という自覚はあまりなかった。普通高校の生活で慣れているせいか、本やノートを読むだけで充分だと思い込んでいた。大学や短大では珍しい事だが、郡山女子大学・短大の場合は授業の9割に本かプリントを中心に学んでいるため、先生のお話が分からなくても必ず資料がある。ノートは友達のノートを借りたりして、前期はこのような方法で過ごし、試験はそこそこ良い成績をおさめることができた。しかし高いお金を払ってまで毎日短大に通う意味がないような気がして、違和感があった。
 そして夏休みを迎え、学生の会(宮城県聴覚障害学生の会の略語)恒例イベントである夏合宿に参加して、“高校・大学における情報保障について”のテーマで討論が行なわれた。具体的な内容は忘れたが、そのキッカケで「やっぱり自分にも情報保障が必要だ!」と勇気が出てきて、後期に入ってから情報保障のシステムを短大に取り入れる活動を始めた。その流れを説明します。
10月〜 学科のアドバイサーや他の先生に「授業に通訳をつけたいのでその団体を設けたい」と数回相談したが、毎回「難しい」と遠まわしで断られた。
11月 学生の会から「まず、どんな団体を設けたいか短大側に具体的な説明ができるように自分の考えをまとめておくと良い」とアドバイスを受け、宮城県内の講義保障の団体がある大学で通訳活動をしている学生(学生会メンバー)に個人的でお願いし、その資料やパンフを提供して頂いた。(宮城教育大・東北福祉大・仙台大)
それを参考し、計画を立てる。(通訳者を集める方法、予算など)
12月 やっと味方の先生を2名確保でき、その先生から主任を通して学長に交渉。
結果、通訳活動の許可が降りたが予算は出ず・・・
予算が出ない理由「ボランティアなのに通訳者に謝礼金を出すのはおかしい」「学生は毎日大学に通っているので交通費を出す必要はない」
やむをえず、ペンは通訳活動に必要なペンは研究室から借用し、紙は失敗したコピーの裏を使用することに。
1月〜 通訳者の募集ビラを作成し、ボランティア学生を中心に呼びかけスタート
3月まで通訳者現れず・・・
時期的に卒論や就職活動、試験で忙しい時だったのでタイミングが悪かったかも
5月 少しずつ通訳者を確保できるようになり、手話同好会のなかで本格的に通訳活動をスタート(ノートテイカー 6月現在6名)
 
 郡山女子短大における通訳活動の中に他の大学と違うところがあります。
1. 1つの授業で被通訳者1名に対し、通訳者は1名のみ。
理由・・先生方のほとんどは本やプリントの内容をそのまま話すので、その時の通訳者は今読んでいるところを指差し、本やプリントに載っていない補助説明や世間話、周囲の情報をノートテイクするだけなので、通訳する情報量は他の大学と比べて少ない方。
2. 演習(調理実習、実験など)授業には通訳者ではなく、“ヘルプ”をつける。
ヘルプとは・・・授業に関する情報のみ通訳すること。主に被通訳者と同じ班の人がやる。通訳方法は臨機応変で筆談や口話を使い分ける。(6月現在4名)
理由・・・演習中はずっと同じ位置にいるとは限らず、常に移動しているので通訳者が落ち着いて通訳できる環境ではない。
問題点・・・班の協同性が大切。班の全員の協力を得ないとうまくいかない。
 
これからの課題
(1)現在、被通訳者は私一名のみ。来年の3月に短大を卒業する予定だが、その後の通訳活動はどうするか?そのまま残したいと思っているが、引き継いでくれる後輩がいない。大学に聴覚障害?難聴?らしい後輩が一名いるが、条件が難しくてこれから本人と交流する機会があまりないかも知れない・・・。
(2)福島県内の教育高等機関においては情報保障に関する認知度がまだまだ薄く、今まで通訳活動の例はあまり聞かない。(およそ郡山女子短大が初めてだと思う)認知度を高めるためにアピールをしたいので、これから聴覚障害者協会や新聞社に機関紙や新聞に載せて貰えるよう交渉したいと思う。
 
レポート(6)
「宮城県における地域型サポートセンターの設置を試みて
〜高校における情報保障を中心〜」
高橋明美(仙台市聴覚障害学生情報保障支援センター)
 
I. はじめに
 2003年3月16日に「第6回聴覚障害者と高等教育フォーラム」で、白澤(当フォーラム実行委員長)が、聴覚障害学生のサポートの現状と動向を展望した上で、地域型サポートセンターと学内サポートセンターの両者が協同的な支援を図るといった、新たなサポートセンター構想に移行しつつあることを指摘した。
 本センターは、地域による通訳者の継続的な派遣・養成と、学内サポートセンターの設置支援を支援活動の柱とし、東北地方で初めて発足された民間運営による地域型サポートセンターである。本センターは、言うまでもなく県内の聴覚障害学生が社会的自立・職業的白立を図るために授業・講義の内容を知り、学べるように、情報保障の面から様々なサポートを実施していこうという理念に立っている。
 以下、本センターの設立経過と現在の取り組みについて報告するとともに、当面の課題を述べたい。
 
II. 設立経過
 宮城県では、大学13校のうち国立1校、私立2校で学生運営による学内サポートセンターが設置され、それぞれ最長で10年程、最短で2年程の活動実績がある。しかし、通訳運営に携わる学生ボランティアヘの心身的負担が依然大きいことが懸念されており、その問題に対して大学側から何らかの改善策はなされていない。一方で、宮城県内の中・高等教育機関では、毎年20名以上の聴覚障害学生が在籍しており、上記3校を除く学校は、全て教師や学校の善意に頼った、しかも通訳派遣まで至らないようなサポートを行っている。
 これらの問題を解決するために地域型サポートセンターを設立する必要性を感じ、次のような段階で設立された。
第一段階:聴覚障害を持つ学生の団体が発足され(平成12年2月「宮城県聴覚障害学生の会」発足)、聴覚障害学生自身が自分のおかれている学習環境に対して自覚し、情報保障の必要性を議論していくことで、センター設置の契機となる素地が作られた。その結果、情報保障が必要だと自ら要求し、実際に行動に移していこうと試みる聴覚障害学生が増加した。
第二段階:宮城県聴覚障害学生の会の会員(聴覚障害学生、聴者学生、社会人)が国内・県内の情報保障に関する実態調査や既存の地域型・学内サポートセンターへのインタビューを行い、宮城県の実態にあったサポートセンター構想を検討した(平成12年、平成14年に調査研究が実施された)。
第三段階:宮城県聴覚障害学生の会から独立して発足され、平成15年4月に本センターの運営がスタートした。
 ちなみに、第二段階の調査研究では、(社)宮城県ろうあ協会、宮城県・仙台市難聴者・中途失聴者協会、宮城県立ろう学校PTA、宮城県難聴児を持つ親の会、全国手話通訳問題研究会宮城県支部、宮城県手話サークル連絡協議会など計11団体で構成される宮城県聴覚障害者関係団体連絡協議会から研究助成金・調査上の助言を受けた。
 
III. 活動の現状
1. 本センターの概要
 現在会員数 運営スタッフ11名 通訳協力者16名 賛助会員15名 計42名
 運営スタッフは、相談役(3名)、代表(1名)、事務局(2名)、コーディネート(2名)、企画(3名)、聴覚障害学生総合相談室(2名)、会計監査(1名)で構成している。事業は主に、(1)情報保障活動(地域による通訳者の派遣・養成と、学内サポートセンターの設置支援)、(2)一般社会や教育機関への啓蒙・理解普及を目的とした情報保障セミナーの実施、(3)通訳協力者対象のノートテイク養成セミナーや検討会の毎月1回以上の実施、(4)自治体・民間団体との連携・交渉、を行っている。収入は主に会費、寄付、派遣先学校による交通費助成金、学生の会による助成金である。
 通訳手段はノートテイク、手話通訳、PC要約筆記の3つだが、現在はノートテイクを中心に派遣している。通訳協力者の派遣にかかる交通費は、基本的に学校側に全額負担して頂くように交渉する。設立したばかりなので、まだ手話通訳やPC要約筆記の斡旋・養成がなされていなく、現在では、単発行事や年数回の聴覚障害学生による研究発表会に限って、県・市手話通訳派遣委託事業やみやぎ手話通訳派遣センターに派遣を依頼している。
2. 自治体・民間団体との連携
 本年度は、宮城県から、みやぎ青年育成推進事業『青年団体すくすくプログラム』の助成金を受けている。また、県・市手話通訳・要約筆記派遣事業を委託されている諸機関には、授業・講義への情報保障支援を要望する聴覚障害学生に対して本センターを紹介するという窓口体制をとってもらっている。
3. 派遣先学校との関わり(私立高校の事例から)
 現在、本センターから私立高校1校、国立大学1校に通訳協力者を派遣している。この分科会では高等教育における問題を取り上げているが、中等教育機関(高校)における情報保障の取り組みが全国的にみてまだ微々たる現状であること、他県の地域型サポートセンターによる大学への支援が関連大会で多く報告されていることから、ここでは本センターと私立高校との関わりについて報告したいと思う。
【仙台白百合学園中学・高等学校との取り組み(VTRの紹介)】
 被通訳者1名(高校3年)。今年4月初旬に被通訳者自身の希望によって当校から本センターからの派遣依頼があり、数回の事前打ち合わせを行った.現在では、被通訳者の希望授業の半分位を本センターが、もう一方の半分を当校卒業生が分担してノートテイクをしている。本センターからは、ノートテイクによる通訳協力者を週に3回、1回あたり1、2時限派遣している。交通費については、当校PTA総会において当校PTA会計に通訳協力者対象交通費の予算枠が設けられ、現在、交通費を全額支給して頂いている。また、ノートテイク用紙、ペン、腕章も用意して頂いている。
 一方、当校卒業生とは、平成14年度から当時高校3年の聴覚障害生徒と現在被通訳者の2名が中心となって、聴者生徒や教師とともに学内で情報保障の必要性をアピールしたメンバー(学内組織「プロジェクトチーム」)である。今は大学に入学した卒業生数名が、本センターのノートテイク養成セミナーをうけて無償ボランティアを実施しており、そのコーディネータを当校教諭が担当している。卒業生をボランティアとして活用するような学内サポートセンターとしては珍しいケースかもしれない。さて、当校はこうした活動に意欲的に取り組んでおり、平成14年11月の官城県聴覚障害学生の会主催の情報保障セミナーで、当校の聴覚障害生徒、聴者生徒や教頭・担当教員が参加し、情報保障やノートテイクに関する情報交換やワークショップを経験した。プロジェクトチームは、そのセミナーを通しての教員の意識変化、聴覚障害生徒の要望などをビデオ収録・編集し、学内への啓蒙材料として情報保障に関するVTRを作成した。当校の許可を得てこのVTRを持参したので、その一部をご覧頂きたい。現在、被通訳者は、授業にノートテイクがつくようになってから授業の内容がわかるようになり、楽しくなってきた、勉強への意欲がアップした、とコメントしている。教頭や担当教員も、被通訳者の変化を喜んでおられ、被通訳者の希望授業だけでなく授業全てにつけられるようにしたい、と非常に協力的に取り組んでくださっている。
 まとめとして、本センターと当校と情報保障に関する関わりを図で説明すると次のようになる。
 
 
IV. 当面の課題
・通訳協力者をどのように確保していくか(現在派遣の代理通訳者の確保と、他校への派遣に備えて)
・教師や他生徒(学生)の、聴覚障害生徒(学生)や通訳協力者に対して少しでも配慮してもらうように話し合うこと
・本年度の宮城県からの事業助成実績を、今後の宮城県・仙台市からの継続的な支援の実現に向けてどのようにいかしていくか、来年度以降の自治体に対する要望と交渉のプランを検討する。







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