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第4分科会「聴覚障害者の高等教育」
討論の柱 (1)聴覚障害学生サポートを取り巻く近年の動向
(2)今現在、現場で生じている問題・課題
(3)聴覚障害学生サポートセンターの設置に向けて
共同研究者 根本匡文(筑波技術短期大学)
座長
司会
白澤麻弓(筑波大学)
松崎丈(仙台市聴覚障害者情報保障支援センター)
共同研究者報告 (1)「高等教育機関への聴覚障害学生の受け入れと筑波技術短期大学の役割」
  根本匡文(筑波技術短期大学)
レポート (2)「ノートテイクの広がり〜情報保障の有力手段へ〜」
  松延秀一(京都大学)
(3)「学習院大学のろう学生サポート〜現状と課題〜」
  後藤秀和(学習院大学文学部史学科)
(4)「私たちの取り組み」
   尾田將史(四国学院大学)
(5)「郡山女子短大における情報保障の実現に向けて」
  羽生薫(郡山女子大学短期大学部)
(6)「宮城県における地域型サポートセンターの設置を試みて
  〜高校における情報保障を中心〜」
  高橋明美(仙台市聴覚障害学生情報保障支援センター)
座長報告 (7)「聴覚障害者学生サポートの現状と課題」
  白澤麻弓(関東聴覚障害者学生サポートセンター)
【分科会のまとめ】
 白澤は、聴覚障害学生サポートの現状を展望し、アメリカのPEP Net(レポート(7)参照)のように、大学間の連携によって聴覚障害学生のニーズに立脚したより質の高いサポート体制を整備していく段階に入ってきていることを指摘した。一方、共同研究者の根本先生は、筑波技術短期大学(以下、技短)の現状を紹介し、今後技短を聴覚障害学生のあらゆるニーズや期待に対応できるような専門的な総合大学へもっと発展させていく必要があると話した。
 以上の2点を踏まえ、レポーター5名がそれぞれ当事者、支援者、教職員の立場から、聴覚障害学生の高等教育の質を高めていくための実践紹介や提案が出された。
 第1日目では、京都大学の松延氏が、国立大学法人化によって障害学生や大学に降りかかる経済面や運営面等の諸問題を指摘した。また、大学サイドはもっと聴覚障害学生や聴覚障害教育関係者の声を汲み、支援体制の成果や必要性を行政サイドへアピールしていく必要があると指摘した。学習院大学の後藤先生も、TAを活用してレジュメと教師の補足説明を同時投影するPCノートテイクという新たな手法を紹介し、これらを大学としての特色として積極的に取り組む必要があると述べた。
 第2日目では、四国学院大学の尾田氏が、我が国で先進的な障害学生支援システムの概要を紹介し、一方で聴覚障害学生有志が学校生活の充実のために大学とともに主体的に活動していることを発表した。郡山女子大学の羽生さんは、大学側の理解や援助が得られない状況下で孤軍奮闘ながら創意工夫をこらし、情報保障や先生との連携など徐々に学ぶ環境を構築していったことを報告した。宮城県情保支援センターの高橋さんは、地域から支援する立場として、全国的にあまり取り組まれてこなかった高等学校の情報保障に焦点を当てて、学校との連携による支援の取り組みを紹介した。
 以上を踏まえて、白澤は、今後は、学ぶ環境を追究する姿勢を持って行動する聴覚障害学生、障害学生支援を自らの特色として主体的に取り組む大学、外部から知識、ノウハウ、人材を提供する地域センターの3つが、現状を打破する理想的な教育環境のポイントになるのではないかと展望した。そのなかで、根本先生は、こうした理想的な教育環境を推進させていくには、技短は、聴覚障害学生のあらゆるニーズや期待に対応できるように機能できる全国的なセンターとしての役割を果たす必要があると指摘した。
 
【成果と今後の課題】
 本分科会の討議の結果、大学における聴覚障害学生サポートの理想モデルとも言うべき形態がかなり鮮明に浮かび上がってきた。しかも、そのひとつひとつのパーツを構成する取り組みが全国各地で実施されていることが報告され、参加者全員大いに勇気付けられたものと考えられる。
 しかし、現在サポート体制を作り充実させようと取り組む大学に対して、こうしたノウハウを還元していくためのネットワーク体制が確立していないという問題が存在する。そのため、まずは基幹大学としての筑波技術短期大学において相談・支援体制を充実させるとともに、それを支える関係団体内での連絡体制を確立していく必要があると言える。さらに、そこで結集されたノウハウを既存の大学間ネットワークを有効活用して配信することで、より質の高いサポートを大学自身の手で実現させていくことが可能になると考える。
 
 
レポート(1)
「高等教育機関への聴覚障害学生の受け入れと筑波技術短期大学の役割」
根本匡文(筑波技術短期大学)
 
1 聴覚障害生徒の進学状況
・聴覚障害生徒の大学進学意欲は急速に高まっている。4年制大学志向が強い。
・進学実績も顕著に増加している。聾学校高等部卒業生についても、筑波技術短期大学よりも一般の大学・短期大学への進学者の方が多い。
・一般の大学・短期大学も受け入れを断るようなことはなくなり、入学後は何らかの対応を考えようとする姿勢が見られるようになってきた。
・今後、この傾向はますます進んでいくことになろう。
 
2 筑波技術短期大学の目的
・聴覚障害者を対象として
職業技術に関する教育研究を行う。
幅広い教養と専門的な技術をあわせ持つ職業人を養成する。
新しい教育方法を開発し、障害者教育の向上に寄与する。
 
3 卒業生への期待
・デザイン、機械工学、建築工学、電子工学、情報工学の専門技術者として、主として企業の中でその能力を生かし、社会自立を果し、社会貢献ができるように、自らの力で成長していくことが求められている。
・社会貢献の一つの形として、聴覚障害者の文化、芸術、スポーツ、社会活動の中で活躍し、リーダーになっていってほしいという期待がある。
・これまでの活躍状況
文化活動:書籍の出版、雑誌への寄稿、テレビ番組への出演
芸術活動:演劇、展覧会への出品
スポーツ活動:ラグビー、バレーボール、バドミントン
社会活動:聴覚障害者団体役員、フリースクール指導者
 
4 卒業生の現状
・平成15年3月に11期生が卒業した。1期生が30歳代半ばにさしかかっている。
・結婚し、子育てが始まった時期。
・これから、企業の中でも中堅社員として実力の発揮が求められていく。
・社会貢献の実績を示すまでには、まだしばらく時間がかかるであろう。
 
5 筑波技術短期大学への希望と期待
・筑波技術短期大学にはさまざまな希望、期待が寄せられている。
現在の学科・専攻以外に文系のコースを置いてほしい。
教員養成を行ってほしい。
ろう文化や聴覚障害学の研究と情報発信をしてほしい。
一般大学に学ぶ聴覚障害学生の支援センターになってほしい。
 
6 筑波技術短期大学の役割
・現時点では次のような役割を果たしていると考えられる。
専門的な技術によって社会に貢献できる人材の養成
聴覚障害者に適した教育方法、情報保障方法の開発と普及
聴覚障害生徒や保護者への具体的な目標の提示
・筑波技術短期大学の役割は大学だけで決めてよいということにはならない。
・4年制大学に昇格した後の過程で、聴覚障害者やその教育に関わる人たちの意見を聞きながら発展をしていく必要がある。
 
レポート(2)
「ノートテイクの広がり〜情報保障の有力手段へ〜」
松延秀一(京都大学)
 
はじめに
 本稿は奈良集会以来続けている定点観測レポートである。個々の大学における情報保障のあり方を論じるにあたり、高等教育をめぐる全体的な動向を知っておくことは必要なことであろう。
 
国立大学法人化をめぐって
 毎年警告していたことであったが、ついに国立大学法人法案(他関連法案含む)が、先の通常国会(会期は6月18日までの予定)に提出され、与党側の強引な議事進行により、成立するかもしれない。この法案は余りにも問題点が多過ぎる(詳しくは『国立大学はどうなる−国立大学法人法を徹底批判する』花伝社、2003年5月刊を参照のこと)が、身近な問題としては、「国立」と称していても国の機関でなくなるので、授業料等の学費の更なる上昇を招きやすくなる、ということがある。それは公・私立大にも及び、低所得層の人は高等教育から排除されやすくなるであろう。また、低所得でなくても、高等教育を受けるための経済力の余裕がない場合も、高等教育機関への進学意欲は下がることとなろう。この集会に参加されている人たち(特に親)の場合はどうであろうか?
 ところで、筑波技術短期大学であるが、上述の法人法案では単独の法人として位置づけられた。結局、筑波大学との統合はないが、4年制化の見通しも困難、と解釈できそうであるが、共同研究者の根本・先生の御見解はいかがであろうか?
 
全国的な動き−ノートテイクを中心に
 ここでは、当方が知った諸種の動きについて言及する。当事者からのレポートが期待される。
 まず、NPO法人・日本障害者高等教育支援センターの存在を挙げておく。この法人は2年前に設立されたが、この集会ではこれまで報告されなかったようであり、当方もその存在を知ったのは昨年の夏であった。この法人には全日ろう連からも理事が出ているはずであるが・・・。この法人は毎年6月に交流・研究・研修会を開催(今年は6月29日)するほか、今年の1月には交流懇談会を開き、この時、文部科学省の高等教育局と初等中等教育局から関係者を招いた。文科省のこの2つの局はタテ割で連携が乏しいとのことである。法人からは文科省に、障害者の高等教育にかかわる専門官を置けと要求しているそうである。
 次に、関東聴覚障害学生サポートセンターの発足(4月1日付)である。以前は、関東学生情報保障者派遣委員会と称していて、毎年3月にフォーラムを開いていた。今年の3月には、根本先生を含め4人でのディスカッションを行った。名称変更で活動範囲が広がっていくものと思われるが、活動を支える資金と人材は確保できるかどうか?
 東北地域では宮城県で聴覚障害学生が集まり、情報保障者派遣の制度化をめざしている。
 西日本地域ではやはり京都であろう。昨年12月、京都聴覚障害学生の会が情報保障制度をめぐって集会を行った。これとは別に、京都の学生で作っている手話集団「あばうと」は、昨年ノートテイクによる情報保障の学習会を2回開いた。また、財団法人・大学コンソーシアム京都(大学関係団体の1つ)でも、昨年の秋、ノートテイクの講習会を数回行った、ということである。今年度も行う予定。
 さらに、大学によっては、インターネットのホームページで、障害学生への支援についてノートテイクを例にして紹介するところも出てきた(広島大学など)。
 ついでに付け加えると、この6月14-15日に福岡で開かれた第21回全国要約筆記問題研究集会でも、分科会のレポートに大学を含む教育現場での情報保障をテーマにしたものが用意された。情報保障の担い手は、「要約筆記−ノートテイク」の側からどんどん登場しそうな勢いである。
 こうして見ると、大学における情報保障の方法はノートテイク、さらにはパソコンも含めての文字による情報保障が中心となっていくのではあるまいか。日本語(及び文字を伴う他の音言葭語)が学問用言語となっている以上、文字の役割は大きいからである。
 
−京都大学の状況−
 ここで、筆者の勤務先である京大の状況について紹介しておく。本学には1980年に「身体障害学生相談室」という全学的な常設の調整組織ができ、各学部の教務掛が相談窓口となるシステムができた。とは言うものの、こと聴覚障害に関する限り、1980年代後半以降は重度の聴障学生が入学してこなかったようで、開店休業状態であった。2002年になって、文学部と経済学研究科(大学院)に聴障学生が1人ずつ入学、今年度から学部の責任でノートテイカーを学内で募集して授業に配置することになった。つまり、文学部の学生と学部当局とで相談をしてノートテイカー募集の学内掲示を出し、4月30日、京都精華大学から担当職員(ただし嘱託)を招いてノートテイクとは何か、について説明会を行った。ちなみに、京都精華大学でも学生側からの要望もあって数年前からノートテイクの制度を始めている。
 ただし、ノートテイカーの技術習得・向上のための講習会を開くには至らなかった。必要性は認めているものの、学部単独ではむずかしそうである。とりあえずは、前述の、大学コンソーシアム京都でのノートテイク講習会を紹介する程度のことになりそうである。
 なお、京大におけるノートテイクは、ボランティアとしてではなく、1時間当たり900円という計算で報酬が出る。学生アルバイトを雇うという形になる。大学の授業のノートテイクであるから、専攻を同じくするか近い専攻の学生・院生が引き受けることが望ましいであろう。

 以上のように、ノートテイクによる情報保障の活動は意外な広がりを見せているといってよさそうである。推測すると、「要約筆記奉仕員」の養成カリキュラム(52時間)が厚生省(当時)によって定められて以来、要約筆記の技術を持つ人が増えてきており、その影響が大学にも及んできている、ということであろう。実のところ、京都の各大学におけるノートテイクの始まりは古くからの要約筆記ボランティアサークル「かたつむり」の存在によるところが大きい。学外のサークルから技術が大学内に持ち込まれ、それをもとに学内で学生を募集して養成・講習会を開いている所が多くなっているように思われる。東京や京都以外の各地における経験の交流が求められよう。その上に、文部科学省からの補助の増額が望まれる。なお、本稿でノートテイクと言うとき、それは手書きのみならず、パソコンによる方法も含んでいる。
 
レポート(3)
「学習院大学のろう学生サポート〜現状と課題〜」
後藤秀和(学習院大学文学部史学科)
 
1. 関係諸団体と位置関係−学習院大学の場合−
該当ろう(先天性・重度)学生
・文学部史学科に一般受験で入学
・手話サークル所属
・一対一でかなり高いレベルの読唇能力
・高い学習意欲
☆事務レベル
学生部
・学生団体である手話サークル「のぞみ」との連絡
・学年末ノートテイカーの情報交換会の開催
教務部
・講義担当教員への事前連絡
・教室手配
・必要がある場合、試験時の配慮(例:板書の見える位置に座席指定等)
・ノートテイキング講習会主催
学生相談室
・講習会開催への協力(講師との連絡)
・来室学生への講習会開催の告知
☆学生団体レベル
手話サークル「のぞみ」
・サークル内の情報保障部→ノートテイカーの派遣(語学・一般教養科目)
・学年末の情報交換会やノートテイキング講習会での手話通訳
☆学科レベル
史学科専任教員・助手・副手
・ろう学生の履修動向調査
・専門科目担当ノートテイクのコーディネート
・授業方法の検討(TAを使ったPCノートテイク導入、教員によるキーボード入力投影授業)
・学科専任教員による定期的な情報交換(学科会議)
・年度末情報交換会の企画運営
・関係部署への連絡
・ノートテイク講習会の運営
史学科大学院生
・TAによるPCノートテイク
史学科学生
・ノートテイクボランティア
 
2.これまでのサポートの経緯
(1)一年次
・当該学生の履修予定を調査し、史学科専門科目全てについてサポートをつけることを決める。史学科1年生必修科目である基礎演習の時間に協力者を募集、約20名の協力を得る。
・本人の申し出により、サポート依頼の心理的負担を軽減するため、専門科目は同一科目を履修する学科の同級生に、語学・一般教養科目は手話サークルのメンバーにサポートを依頼。サポートの方式はサークルに委ねる。(学科とサークルの間に情報交換なし)
・史学科専門科目については各講義に担当者を決め、出来るだけ細かく記録したノートを当該学生に見せる形式。ノートについては現物貸借・コピーいずれをとるかは当人達の選択に委ねる。学科事務室に専用コピーカードを用意(利用率は低かった)
・語学に関しては必修の英語コミュニケーション科目をリーディング科目で読み替える措置をとった。
・史学科サポート学生については学年末に学生部主催で昼食会を開催。サポート体制について情報のフィードバックを行った。
 
(2)二年次
一年次との相違点
*2年生が全員出席する学科必修科目がないため、一斉に協力者を募ることができない。
*語学に学科指定クラスがないため、同学科学生の支援が期待できない。
→上記2点については、担当教員に事前連絡をした上で履修各科目第1回目の授業に学科助手が教室を回り、協力を呼びかけた。履修が確定した時点(4月末)で申し出のあった学生を集めて説明会を開催。
*学生の希望する第二外国語に複数のリーディング科目がないため単位振り替えの措置がとれない。
→コミュニケーション科目で履修を同じくする他学科学生2名の協力を得る。
*専門性の高い輪読・発表形式の演習が始まる。
→大学院生ティーチングアシスタントによるPC画面投影方式のノートテイクを行った。
共通点
*専門科目=史学科学生、一般教育科目=手話サークルという区分
*同一科目履修学生がサポートを行う方式(専門科目のみ)
*学年末の情報フィードバックのための昼食会(但し、当該学生の希望により、手話サークルから2名の手話通訳をお願いした)

(3)三年次(今年度)
二年次までとの相違点
*情報フィードバックにより、教員の対応も多様化(講義ノート投影など)
*インフォーム方法の改善:ノートテイキング講習会の開催(4月28日)
*システムの改善(電子メールを中心とした該当学生・ノートテイカー・コーディネーター間の情報交換方法の確立)
 
3. 学習院大学の事例における特徴と問題点
特徴・長所
・ろう学生本人の学修意欲が非常に高い
・ある程度経験を持った手話サークルが元から存在した
・該当学生所属学科において教員の会議が毎週開催されており、情報交換が緊密である
・学科の規模がそれほど大きくない(1学年90名程度)ことにより学生間の関係も比較的濃密である
・学科別に助手・副手が配置されていることにより、きめ細かい対応が可能
 
問題点
★上記の長所に支えられた形でのサポート体制。同じ体制が別の機会にもう一度可能になる保証がない
★ボランティアに対する認識の低さから、ボランティア=「無償奉仕・学生まかせ」と考える傾向がないとは言えない。サポート体制維持・運営のための全学的な人員・設備・予算の確保が行われていない。特にサポート体制構築のための情報収集に予算が取られない傾向。
★大学全体として対応すべきであるとの認識はあるものの、実際は当該学生の所属する学科の裁量に任される部分が大きい。サポートをするための専門のセンターを設置すべき。
★上記のことからあらゆる障害学生のサポート経験がデータベースとして蓄積・再利用出来ないということがさらに大きな真の問題。
★ノートテイキング講習会を開催し多くの参加者を得たが、学生・教職員全員が問題を十分認識しているかは疑問。さらに講習会が単発であり、定例化していない。啓発効果はあっても波及効果は薄い。
 
4. 展望・提案
 情報保障・障害学生サポートのためのセンター設置について
 心身障害学のコースをもたない私立大学は単独ではデタベース構築が出来ない。ノートテイカーの登録・派遣についても十分なサポートを提供できない。そこで、いくっかの近隣大学と合同してサポートセンターを設置することを提案する。現在、f-Campusという学習院大学・学習院女子大学・日本女子大学・立教大学・早稲田大学の間の単位互換制度が存在する。これを基盤にすることでセンターの設置も比較的スムーズに行えるものと考える。
 センターは以下の事業を行う
(1)各大学の事例を匿名でデータベースとして蓄積し、再利用できるようにする。
(2)ボランティアのHUB(結節点)として機能する。たとえばろう学生のサポートについてであれば、ノートテイクボランティアを各大学で募集、不足している大学に派遣する等。
(3)必要に応じて該当学生の在籍する学部学科教職員にサポートノウハウの指導を行う。また必要な措置(例えば特別な教室の用意等)について各部署に指示を出す。
 
 しかし昨今の不況下で上記のようなセンターが設置できるのか?予算・人員の問題は?
→センターと言ってもあらたな「箱」を用意する必要はない。
(1)担当者(学科・サークルおよび担当部署への連絡・指導を行う部署横断的役割)
(2)担当者に対する障害者教育の研修
(3)同形式での共通ファイル作成
(4)WEBぺージやメール、FAXを軸とした連絡告知手段
 以上は比較的低予算で構築できる。
 さらにある程度認識が高まり予算が取れるようになった場合、さらなる事業として
(1)各大学で障害別にサポート講座を開講し、単位互換制度等を適用してそれぞれの大学の該当講義を自由に受講できるようにする(実践的かつ定期的なノートテイク講座の開講については学生からの希望が多い)
(2)障害者サポートのための基本図書を各大学で分担して購入しセンターに配架、相互貸借システムを構築して希望者に閲覧させる
等も視野に入る。
 
 無論、既存の団体として「関東聴覚障害学生サポートセンター」など各種のサポート機関は存在する。その道の専門家がメンバーであるため、より上質なサポートが可能であろう。しかしこうした機関は大学にとって外部機関としての性格が強いことから、高等教育における情報保障概念の「周縁性」が解消されない。本提案におけるサポートセンターは大学教職員を構成員とすることで大学の内部機関としての性格を強調する。そうすることで「高等教育機関にとって情報保障は当然なすべき中心業務の一つである」という意識が醸成されると考えられる。

 いずれにせよ心身障害学などの専門コースを設置していない(特に私立の)大学にとって、情報保障に関わって必要になってくるサポート業務を「新たに加わった負担」として消極的にとらえるのではなく、「大学の特色」として積極的に活用していく視点・共通理解が不可欠ではないだろうか。
 以上が我々の拙い経験による報告である。







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