この船の外板は、クリンカー張り(よろい張り)で、決められている板巾マークは各型板に位置が記入されており、肋骨に打ちつける外板の様に、枚数を減じて、張り易くする方法は出来ません。尚且つ、平張り外板の様に上か下の外板に押し当てて板を無理に曲げる・・・という事も出来ませんので大へん歩止りの悪い板取りになります。
船大工の経験のない人や精巧な模型を作ったことの無い人に説明を加えますと、外板の面丈を平面に伸ばしますと、中央は広く や・は狭いのです。之を極端ですが5枚の板で表すと、図の様になります。模型を造った人は訳かると思いますが、直材丈ではAの板は張れません。捩じれの無い無理の無い形で表すと下図の様になります。(Bもやゝ、似た様になる)
例えばAとCDEが己に張付けてあり、平張りの場合Bのみ后から入れるとすれば曲りが多少違っても上や下の縁を利用し、上下に曲げながら、でも何とか合せ嵌め込まれるでしょう。(少しは捩じれのため膨らむ所も出る)ところが、クリンカー張りは重ね式ですから、その様な無理が全く利きません。肋骨に打ち付けようにも、まだ肋骨は入っていないのです。曲りの有るすだれを良く揃う様に下から順に、差し込み編上げる様なものです。大量に生産する工場では、片舷30枚近い外板のそれぞれの型板を用意している筈と思います。当時8寸も1尺も巾の有る桧板から、1条の外板より取れないのです。
中心部の断面の概要
概略の構造を示しましたが、正直の話、戦中の素人のメンバーで良い船を造るのは、とても無理な話です。更に や・の外板は図の様に末端では一枚の厚さに重なります。転業者の方々は、とても苦労されていました。
際鉋で段付に削れば良いと云うものでなく、500〜600m/mの末端長さで微妙な削り方があります。外板相互の接面は吸取紙様の洋紙を、ペイントで貼ります。
この接面は、型板上で次の板巾を基点として定規を当て、正確に削り仕上げる必要が有りますが、我々見習工や転業者は1丁か2丁の鉋より持っておりません。本来なら、小鉋の切れるもので、正確に仕上げるべきものでしょうが、人も道具も、時間も不足でした。このカッターは召集で大勢集った水兵さん用であったかも知れません。
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