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1998/09/02 産経新聞朝刊
【主張】北朝鮮ミサイル とるべき抑止手段考えよ
 
 日本列島を飛び越した北朝鮮のミサイル実験は、わが国にまったく新しい脅威をもたらした。射程の長いミサイルの登場は、繰り出されるヤリの柄がいつでも日本に届く可能性を生じたことになる。無礼なミサイル発射には最大限の抗議をしたい。しかし、過剰な反応は北朝鮮の思うツボにはまる。ここは、どうすればこの脅威を封じられるかをまず考えておきたい。
 ひとつは外交的努力である。北朝鮮がミサイル開発に走るのは、自国の軍事力増強もさることながら、ミサイル輸出による外貨獲得が大きなねらいである。加盟国が日本など十六カ国になったミサイル関連技術輸出規制(MTCR)を強化し、中東などの輸入諸国にはプレッシャーをかけて買い入れや資金援助を思いとどまらせる。
 またミサイル自体は兵器の運搬手段にすぎない。そのミサイルに弾頭、とくに核弾頭が装備されてはじめて脅威が顕在化する。朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が、軽水炉や石油の提供と引き換えに、北朝鮮の核開発を中断させたのもそのためである。核開発には常に目配りし、核への道を歩ませない努力を続けていく。
 第二は抑止力を強めることである。北朝鮮のミサイル発射基地などを攻撃できる在日米軍の戦闘爆撃機は大きな抑止力になってきた。また、日本がミサイル攻撃にさらされたときは、独自に発射基地を攻撃するのも自衛権の範囲だと国会で認めている(昭和三十一年二月、衆院内閣委の政府答弁)。こうした点を折に触れて内外に強調していきたい。バランスのとれた精強な自衛隊を育成し、日米関係を大切にする。国民が不正には断固として屈しない意思表示をする−ことなども、強い抑止力になることを忘れてはなるまい。
 そして第三は、侵入してくる弾道ミサイルを防御するシステム(BMD)の研究にも着手しておきたい。防衛庁は、すでに米国が本土防衛用に研究してきた軽量大気圏外迎撃弾(LEAP)というミサイルを中心とした防空システムの研究にとりかかることを決め、来年度予算に共同研究費を計上することにしている。
 確かに、BMDは万能ではない。システムとしての効果がいまだ未知数である。実戦配備するとなれば、防衛体制をいびつにしかねないほどの経費を必要とする。早期警戒衛星による米国の情報管理など米国との微妙な関係もある。北朝鮮のミサイル実験をただちにBMD配備に結び付けるのは短絡というものだが、共同研究着手によって、BMDへの道を開いておくことが、即強力な抑止手段なのである。
 
 
 
 
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