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1993/08/01 産経新聞朝刊
【主張1】北の脅威強調した防衛白書
 
 ことしの防衛白書が公表された。この一年間、防衛行政ではどんなできごとがあったか、国際情勢について防衛庁はどのように見ているか、自衛隊はいまなにをしているか、などがこの白書に盛り込まれている。カンボジアとモザンビークの国連平和維持活動(PKO)に自衛隊がはじめて参加したことと、わが国周辺に新たな差し迫った脅威が出現したことが、平成五年版防衛白書の注目点だった。
 PKOは順調に作業が進み、整然とした活動ぶりや、作業の正確さ、現地住民との交歓で、自衛隊は国際社会での評価を高めた。いま考えると、PKO法案の審議でなぜあれほど指揮権や武器携行問題に神経質だったのか、不思議に思えるほど、自衛隊の国際貢献は国民と身近な存在になっている。また、カンボジアやモザンビークでの活動を通じて、なぜPKOは自衛隊でなければできなかったか、など国際貢献や自衛隊の活動への基本的な理解も行き渡ったことだろう。自衛隊は胸を張って帰ってもらいたい。
 わが国周辺の新たな脅威というのは、北朝鮮の核、ミサイル開発である。北朝鮮は、国際原子力機関(IAEA)から核開発の疑惑を指摘され、三月十二日に突如、核拡散防止条約(NPT)からの脱退を表明した。そして米朝会談の結果、脱退棚上げを決め、その後IAEA(国際原子力機関)との協議開始、南北朝鮮の非核化実現の重要性確認、黒鉛型原子炉を軽水炉に転換するために米国が技術援助することなどで合意している。その一方では、五月末に地対地ミサイル「労働一号」の発射テストをして、ミサイル開発が順調に進展している事実を明らかにした。
 脅威というのは、対象国が持つ軍事的能力、侵略意図、国内・国際情勢などの環境条件、の三要素で成り立つといわれる。このうち、意図には相手の胸中を判断しにくいという特質があり、主として能力と環境条件で脅威を判定しなければならない。そして、この能力、環境条件については、アジア各国は脅威と感じ、さきの東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議でも懸念が表されていた。
 防衛白書で北朝鮮からの脅威が取り上げられたのは当然だが、脅威が顕在化しなくても、可能性に備えるのが安全保障というものである。まして、ミサイルはいますぐにでもわが国を攻撃できる能力が先日のテストで証明されている。わたしたちは、北朝鮮の脅威により敏感になり、どのように対処すべきかを考えねばならない。
 
 
 
 
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