日本財団 図書館


1993/02/10 産経新聞朝刊
【主張2】武器技術は相互信頼で交流
 
 “平和国家”日本だから、軍事技術のレベルなどたいしたことなかろう、と思っていると、なかなかどうして。直接殺傷兵器はともかく、防御兵器には、世界の水準をはるかに抜け出したシステムもある。日米共同開発のFSX(航空自衛隊の次期支援戦闘機)に搭載するアクティブ・フェーズド・アレイ・レーダー(APAR)はその一つである。
 親指ぐらいの素子を数百本束ねたAPARは、いわばトンボの目玉。素子の一つ一つが独立した目玉の働きをし、これまでのように、アンテナ自体を動かさなくても、電子的な操作であっちを見たり、こっちを見たりできる。相手から発見されにくいし、電子妨害に強い。同時に多数目標の追尾、照準もできるという世界に先駆けて開発されたスグレモノである。米国がこれに着目、日米の協定にしたがって、技術が供与されることになった。その機会に武器技術の輸出を考えておきたい。
 わが国の安全保障を考えるとき、米国との武器技術交流には格別の意味がある。高騰する技術開発費に歯止めをかけ、運用の効率を引き上げる。高まっている日米技術摩擦の解消にも役立つに違いない。また、何よりもわが国安全保障の基盤である日米安保条約の裏付けとなり、相互の結び付きを強める太い絆(きずな)になるだろう。しかし、それには前提がある。武器技術の交流について、お互いの信頼関係が築かれ、それぞれが確固たる哲学を持っていることである。
 たとえば、形を変えた武器技術交流であるFSXの共同開発。このプロジェクトはいまだ開発途中にもかかわらず、五年度予算を含めるとすでに二千六百五十億円以上がつぎ込まれ、当初予定の一千六百五十億円をはるかにオーバーしている。こうなったのは、日本が戦闘機開発の独自技術を身につけ、将来米国の兵器産業を脅かすのではないか、という米国の猜(さい)疑心が共同開発を引きずり、いっぽうわが国には武器技術や共同開発への強い信念や哲学が欠けていたことが、遠因になっている。
 こんごAPARのように、わが国の民生技術や軍事技術が、米国の兵器システムの一翼を担うケースや、米国の安全保障政策の一環になりつつある兵器の国際共同開発で、日本がパートナーになる機会は増えていくだろう。そのときは、FSXの高い授業料を教訓として生かし、日米両国が二つの前提条件をいつも守っていくようにしなければならないのである。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION