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2004/02/10 読売新聞朝刊
[社説]自衛隊派遣 国際平和協力の新たなページ
 
 自衛隊のイラク派遣が国会で承認された。陸上自衛隊が海外に派遣されるのは、国連平和維持活動(PKO)以外では初めてだ。国際平和協力活動に新たなページを開いた意義は、極めて大きい。
 外交・安全保障政策では、与野党の枠を超えた幅広い一致が望ましい。だが、国会承認を採決する参院本会議で、民主党など野党は反対した。
 野党は、従来、世論の大多数が自衛隊派遣に反対だ、と主張してきたが、最近の読売新聞の世論調査では、過半数が自衛隊派遣を支持している。自衛隊による人道復興支援へ、国民の理解が深まってきている表れだ。
 陸上自衛隊の本隊第一陣が、イラク・サマワ入りし、先遣隊と合流した。オランダ軍の協力の下で宿営地を建設し、浄水・給水、医療、学校などの公共施設の修理などに当たる。
 イラクでは、依然として、テロが発生している。サマワの住民は温かく迎えてくれているが、テロの危険がないとはいえない。
 外務省によると、イラクでは、日本人や関連施設がテロの標的となる可能性がある。テロに関する的確な情報の収集と分析が不可欠だ。米軍やオランダ軍との緊密な情報交換に加え、宗教指導者や部族長らとの連携が重要となる。
 サマワで、イスラム教の祝祭にあたって、陸上自衛隊が地域の総族長にヒツジを贈ったところ、同じ部族の族長が「私にはないのか。侮辱された」と反発する問題が起きたという。善意があだにならないよう、部族社会の慣習や文化、社会事情に精通することも必要だ。
 承認案件をめぐる国会審議では、サマワ市評議会の存否や陸上自衛隊先遣隊の報告書作成の問題で、政府答弁が混乱した。こんなことでは、政府に対する信頼は得られない。
 政府は、現地情勢を正確に把握し、国民に的確な情報を伝える必要がある。
 政府開発援助(ODA)の活用によって、サマワで深刻な雇用問題などを改善し、地域の生活向上に努めることも、民生の安定、ひいては自衛隊員の安全につながる。政府が、さまざまな角度から、自衛隊員の安全確保に万全の配慮をするのは、当然だ。
 自衛隊派遣は、将来、文民が活動できる環境をつくるための第一歩だ。野党も自衛隊派遣に反対だからといって、自衛隊が無事に任務を遂行することまで否定するわけでもあるまい。
 自衛隊によるイラク復興支援の成功には、野党にも大きな責任がある。
 
 
 
 
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