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1999/03/14 読売新聞朝刊
[社説]指針法の早期成立は国際責任だ
 
 日米防衛協力の指針(ガイドライン)関連法案の国会審議がようやく始まった。
 この法案には、日本の平和や国民の安全を守るために不可欠な内容が盛り込まれている。しかも、国会に提出されたのは一年も前である。
 にもかかわらず各党の政治的思惑が先行して、これまで法案審議が行われない“たなざらし”状態が続いていた。これ以上、先送りすることはできない。精力的に審議を進めてほしい。
 関連法案は、周辺事態法案、自衛隊法改正案、日米物品役務相互提供協定(ACSA)改正案の三本からなっている。軸となる周辺事態法案は、日本周辺での有事に際して行う対米軍後方支援活動や、その実施手続きなどを規定している。
 自衛隊法改正案では、在外邦人などの救出・輸送に自衛隊の航空機だけでなく護衛艦など艦船も利用できるようになる。ACSA改正案は、共同訓練や人道的な国際救援活動など平時にしか適用できない現協定を周辺有事の際も可能にするものだ。
 三年前、日米両国は「安保共同宣言」によって、日米安保体制の再確認と実効性向上の作業を開始した。その具体的成果の一つが新ガイドラインの策定であり、この関連法案は、それを法的に裏打ちするという重要な意味を持つ。
 アジア・太平洋地域を見ても、法案そのものに反対している北朝鮮や注文をつけている中国などを除けば、ほとんどの国が法案成立を期待している。新ガイドラインによる日米安保体制の充実が、有事への対応はもちろん、紛争の未然防止など、抑止力やこの地域の安定に欠かせないことを認識しているからだ。
 こうした国際的な要請にこたえるためにも、法案を早期に成立させることが必要だ。依然として、この地域の大きな不安定要因である北朝鮮に、節度ある行動を促す強力なメッセージにもなる。
 法案に対し共産、社民両党は反対し、民主党と公明党は修正を要求している。
 問題は、間近に迫った統一地方選での得失を気にした国会対応が、野党側に目立っていることだ。委員会審議の開始を遅らせようとする動きや、選挙が終わるまでは法案への賛否を明確にしようとしない姿勢には、責任政党の自覚が感じられない。
 参院の与野党逆転状況からすれば、政府案のままの成立はむずかしい。審議と並行して法案修正に向けた与野党の詰めの協議も進行するはずだ。その際、各党とも、安保体制の円滑で効果的な運用の確保という視点を忘れてはならない。
 政府・与党には、法案に対する国民の理解を広げる努力も求められる。
 特に米軍への後方支援で、政府が地方自治体や民間企業に「必要な協力を求めることができる」となっている点について、義務を伴わないとはいえ、自治体・企業側には不安を示す向きも少なくない。
 政府は例示的に十項目の協力内容を記した説明文書を配布したが、理解と支持を得るためには、さらに工夫が必要だ。
 
 
 
 
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