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1998/11/15 読売新聞朝刊
[社説]緊急援助の幅を広げた自衛隊
 
 超大型ハリケーンで甚大な被害が出ている中米ホンジュラスへ、国際緊急援助隊派遣法に基づいて、自衛隊の部隊が派遣された。現地では、医官を含む八十人の陸上自衛隊員が二週間にわたって防疫・医療活動を行う。
 国際緊急援助隊派遣法が八七年に施行されて以降、援助チームの海外派遣は約四十回を数えるが、自衛隊部隊の参加は初めてだ。日本の国際貢献、とりわけ人的貢献の幅を広げるものとして評価したい。
 先月末から今月初めにかけて中米諸国を襲ったハリケーンは各国に多大の被害をもたらした。最も深刻なホンジュラスでは全人口の三割にあたる約二百万人が被災し、死者・行方不明者が合わせて一万八千人にも上る。各地で道路や橋などが損壊し、衛生環境の悪化も伝えられる。
 大規模災害の被災国に対し、できる限り救援の手を差し伸べるのは、国際社会の一員として当然の義務と言える。
 国連では今月二日、加盟各国に緊急援助を求める総会決議が採択された。これを受けて日本政府も、無償資金や簡易水槽、発電機などをこれまでに贈った。いくつかの日本の民間団体も、すでに様々な分野で支援活動を開始している。
 こうした中で自衛隊派遣に踏み切ったのは、ホンジュラス政府から「ぜひ自衛隊を」と名指しの要請があったからだ。
 大規模災害での救援活動には、自衛隊のように機材などを自らそろえ、宿泊、食事などもすべて自前で可能な「自己完結型」の組織が、あらゆる面で有効だ。
 阪神大震災での自衛隊の活躍が、それを証明している。今回の自衛隊派遣は、その意味では極めて適切な対応である。
 ただ派遣に至るまでの経緯を見ると、日本政府の対応の遅さに疑問を呈さざるをえない。自衛隊派遣の要請があったのは今月五日だから、要請から出発までに約十日間も要している計算だ。
 この間、政府は外務省を中心に部内検討を行って派遣の方針を固め、ようやく九日になって高村外相が額賀防衛庁長官に正式に協力要請している。これを受けて防衛庁が事前調査のための先遣隊を派遣するといった具合で、内部検討や準備、手続きに多くの時間を要している。
 政府は、自衛隊の派遣が初めてだったことや、派遣先としてはアジア・オセアニア地域を想定していたために準備が遅れたこと、などを理由に挙げている。
 しかし、これでは迅速性が不可欠な「緊急援助隊」の名前が泣く。米国、英国などが九日の時点ですでに軍隊や医療チームによる救援活動を行っていることと併せて考えれば、日本政府の危機管理体制の甘さを指摘せざるをえまい。
 今回の経験を反省材料にして、要請を受けてからの準備作業や手続き、さらに援助隊用の機材の輸送を可能な限りスピードアップする必要がある。特に現地の日本大使館などとの連絡を密にすれば、先遣隊を送り出す手間と時間が省けるのではないか。検討してほしい。
 
 
 
 
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