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1996/04/16 読売新聞朝刊
「日米防衛協力指針」見直しへ 有事への法整備が焦点 極東、PKOなど広範に
◆「私権制限」調整も課題
 日米両政府が十五日、「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の見直しに正式合意したことに伴い、極東有事などに向けた日米共同対処のための法整備が大きな焦点となる。有事に「自衛隊がどのような活動をするのか」「米軍をどのように支援するのか」を定めるものだ。これまでの有事法制や日米防衛協力論議は、集団的自衛権や私権制限に対する賛否などに終始していたが「実のある成果」を上げるために、クリアしなければならない課題が多いのも事実だ。
 今回のガイドライン見直しの中心は、朝鮮半島有事といった極東有事だけではなく、災害対策や邦人救出、国連平和維持活動(PKO)での日米協力など幅広い分野を網羅することにある。そのため、陣地構築に必要な土地収用など自衛隊の行動を定める従来の有事法制に加え、〈1〉米軍への施設提供〈2〉米軍に対する後方支援〈3〉邦人救出や難民対策〈4〉テロ対策――など多岐にわたる法整備が必要となる。
 しかし、政府が、先の自民党安全保障調査会(会長・瓦力元防衛庁長官)で示した「現行法制下で可能な措置」は、米軍による民間空港の利用や自衛隊による不時着米軍機への給油などに限られている。
 本格的な給油など後方支援分野の大半は、内閣法制局が集団的自衛権に抵触するかどうかの基準としている「米軍の武力行使との一体化」が問題となっているためだ。この点については「前線と後方の区分があいまいになっている現代戦の実態にそぐわない」(佐久間一・元統幕議長)との批判も強い。
 こうした支援を包括的に実施する枠組みとして有事での「物品役務相互提供協定(ACSA)」の検討も必要となりそうだ。
 もう一つの課題は、各省庁や地方自治体、周辺住民との調整。テロ対策は警察、民間空港は運輸省や地方自治体と所管が分かれている。自衛隊や米軍の活動を法制化することには、私権制限が伴うことや、官庁間の縄張り意識で抵抗がでるのは必至。官邸を中心に政府一体の体制をどう作るかがカギだ。
 さらに、有事法制に関連して問題となるのが、米軍が日本の基地から戦闘行動に出撃する場合の「事前協議制度」の在り方だ。「安保条約の根幹にかかわる問題」(政府筋)として政治的論議となることは少なかった。
 しかし、自民党の山崎政調会長が先日の講演で「イエスばかりではない、ノーもありうる」と強調したように、有事法制を整えるのに合わせ、対米軍支援への「歯止め措置」として取り上げる声が強まりそうだ。
《日米防衛協力などに関する政府の見解》
◇施設・区域の提供
自衛隊施設 地位協定に基づく共同使用で可能
民間空港・港湾 地位協定に基づく共同使用で可能
周辺住民対策や民間航空会社への補償が必要
地方自治体の協力が必要
◇自衛隊などの対米軍後方支援
米軍物資の調達 防衛施設庁が実施
給油 自衛隊法では不時着などの場合のみ可能
米軍兵員・装備の輸送、米兵の捜索・救難・診療 米軍の武力行使と一体化しない限り自衛隊法で可能
米軍への情報提供 防衛庁設置法で可能
◇そのほかの自衛隊の活動
邦人などの救出 政府専用機などで実施可能(自衛隊法)
外国人については法的措置が必要
警備・テロ対策 治安出動、海上警備行動として可能
防護マスクなどの警察への提供も
難民対策 輸送や救援、医療は可能
機雷掃海 自衛隊法で可能
 
 
 
 
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