1995/12/03 東京読売新聞朝刊
[新防衛計画の視点](4)受注激減 国防産業、先細り懸念(連載)
◆技術力の維持も困難に
「防衛庁からの受注は、今後減ることはあっても増えることは期待できない。わが社がどうやって生き延びて行けばよいか、しっかり考えて欲しい」
銃弾・砲弾メーカーの日本工機(本社・東京都港区)の松田敬社長は一日、福島県白河市の工場に集まった約二十人の幹部社員を前に、必死の形相で訴えた。
同社は、売上高の七〇―八〇%を防衛庁発注の装備品に依存する典型的な「国防企業」だ。しかし、防衛庁からの受注額は九〇年度の百五十億円をピークに年々減り続け、九五年度は三分の二の百億円にまで落ち込む見通しとなっている。
銃弾の生産ラインが動くのも、今では一か月のうち十日程度。松田社長は「もう採算ラインぎりぎりの線まで来ている。防衛庁には、今年度の仕事量が最低ラインとなるようお願いしているのだが・・・」と窮状を訴える。
新防衛計画大綱は、装備品の整備について「国内防衛生産・技術基盤の維持に配慮する」という表現にとどめ、具体的な購入計画は十二月中ごろに決まる「次期中期防衛力整備計画(次期防)」に譲った。
しかし、大綱のポイントである自衛隊の規模・装備のコンパクト化によって、防衛産業の先細りだけは確実な情勢だ。実際、九〇年度には一兆七百億円余だった防衛庁の正面装備契約額は、九五年度見通しで八千二百五十億円にまで落ち込んでいる。
このような流れは、大手メーカーにも自衛策を強いている。
最新の九〇式戦車を生産する三菱重工業の相模原製作所は、年間四十両の生産能力を持ちながら、九三年度以降の受注は半分の二十両にとどまっている。このため、ラインの一部で原動機などを生産するほか、下請けメーカーへの出向だけでは吸収できない余剰人員を、関連のない異業種メーカーへ、給料の差額分を補てんする条件で出向させている。
また、各社ともほぼ二年に一隻の受注しかない艦艇部門では、今年に入ってから石川島播磨重工業と住友重機械工業、日立造船と三井造船が相次いで設計分野などでの提携を発表した。
防衛庁からの受注減は、売上高の減少だけでなく、技術力の低下や生産基盤の弱体化を招きかねない。
例えば航空機の場合、今後の装備計画の目玉と言えるのは、日米共同開発の次期支援戦闘機(FSX)と、九七年度から量産開始予定の次期小型観測ヘリコプター(OHX)程度しかない。この結果、防衛庁向け航空機を生産する機会を失えば、大綱がうたう「技術基盤の維持」は非常に難しくなってくる。事実上海外メーカーの下請けとなっている民間航空機の二の舞いとなる可能性も小さくない。
もちろん国や業界も手をこまぬいているわけではない。防衛関連メーカー百三十一社で作る日本防衛装備工業会と経団連は今年五月、武器輸出三原則の見直しを求める提言を発表した。
通産省も、大綱の決定を受けて、開発生産部門の集約化、CALS(コンピューターによる設計・生産管理システム)の導入などを柱とした産業政策の具体案作りに着手し、防衛産業の維持を図る方針だ。
しかし、今回の大綱でも三原則の将来の方向は示されず、経団連からも「どうなるのかさっぱりわからない」(池誠・防衛生産委員会事務局長)との戸惑いの声が漏れる。
新大綱は、連立政権ゆえに政治的な妥協の産物の側面を色濃く持っている。明確とは言えない国の新しい防衛方針の下で、どう具体的な経営計画を立て利益を上げていくのか、戦力水準にも深く関係する防衛産業の将来図は依然見えないままだ。
(経済部・黒井崇雄)
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