1993/07/31 読売新聞朝刊
[社説]「北」のミサイルへの対応を問う
冷戦終結後の日本の安全保障にとって、新たな脅威の対象が浮上している。
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が、さる五月末、射程千キロの新型弾道ミサイル「労働(ノドン)1号」の試射に成功したのがそれだ。現在のわが国の防衛態勢では対応し切れない厄介な課題だ。
政府は新たな対策の検討を迫られているが、これまでの自民党政権下では、本格的な論議は行われないまま、次期連立政権の課題として持ち越される形だ。
このミサイルは、北朝鮮の核開発疑惑とともに、日本の平和を直接脅かす可能性を秘めている。次期政権は、直ちにこの問題に取り組み、わが国の安全確保に万全を期さなければならない。
三十日の閣議で了承された「防衛白書」は、この問題について次のように警鐘を鳴らしている。
「北朝鮮がノドン1号の開発に成功した場合には、西日本などわが国の一部が、また、配備位置によってはわが国の過半がその射程内に入る可能性がある」
「さらに、核兵器開発とミサイル開発が結びつけば、極めて危険な状況となり得る。こうした動きは、国際社会全体に不安定をもたらす要因となっており、わが国としてもその開発動向を強く懸念している」
「極めて危険」「強く懸念」と言いながら、この白書は、では日本としてどうすべきか、という点には全く触れていない。
それは、「現在の自衛隊の装備では対処できない」(防衛庁幹部)うえに、「今後の対応については、政治的な制約のある事柄なので、防衛庁の一存では何も言えない」(同)という事情があるからだ。
防衛庁は、ミサイルを迎撃するためのミサイルについては、湾岸戦争で米軍が使用したのと同様の能力を持つ改造型パトリオット・ミサイルの九六年度からの配備を目指している。しかし、これだけでは、ミサイルを完全に撃ち落とすのは困難だ。
パトリオットを有効に機能させるには、相手のミサイル基地を常時監視して、発射時の状況をすべてキャッチできる早期警戒衛星が必要となる。衛星とパトリオットを一体とするシステムの構築があって、はじめてパトリオットは威力を発揮する。湾岸戦争はその重要性を具体的に示した。
日本の場合、自衛隊の衛星利用は、通信などに限定されている。これは、「宇宙の開発、利用は平和目的に限る」という国会決議と「平和目的とは非軍事という意味だ」とする政府見解があるからだ。
この政府見解は修正する必要がある。平和と軍事が相反するものだという認識は国際的には通用しない。湾岸戦争では軍事によって平和が回復された。
専守防衛を基本とする日本にとって、平和を確保するための情報収集は、極めて重要だ。過去、自民党などから情報収集のための偵察衛星打ち上げの提言もあったが、社会党などの反対で実現していない。
衛星自体が攻撃用のものでない限り、自衛隊の衛星利用はもっと推進してよい。次期政権の決断を求めたい。
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