1992/01/31 読売新聞朝刊
[社説]防衛計画の“見直し論”を考える
衆参両院での代表質問を通じて、冷戦終結後の日本の防衛力のあり方が、今後の焦点の一つとして浮上した。
宮沢首相は、わが国の防衛政策の指針である「防衛計画の大綱」に関して、日本が保有すべき防衛力の水準として自衛官の定数や主要装備の数量を定めた「別表」の見直しがあり得るとの見解を表明した。
わが国の防衛力の主要装備は、平成二年度までの前・中期防(五年計画)で、大綱の別表が示す水準を達成した。ちょうどこの時期と前後して、国際情勢は脱冷戦への動きを加速した。
こうした節目を迎え、まず防衛庁が自衛隊のあり方について検討作業を開始したのは当然だ。踏み込んだ検討を望みたい。
社会党はじめ野党側は、平成四年度予算案での防衛費削減―予算修正を求めているが、実情を踏まえた冷静で合理的な議論が必要だ。
主要装備の調達には通常、二―三年(戦車など)から四―五年(航空機、護衛艦)を要する。このため、当年度予算で支払われる前金以外は後年度負担となる。四年度予算では、後年度負担分が防衛費全体の三八%を占める。これは、全体の四〇%に達する人件・糧食費とともに、いわば義務的経費である。
これらを除くと、装備品の修理や油の購入、教育訓練などに使われる一般経費は全体の二割強に過ぎない。防衛力は急に増やしたり減らしたりできない特性をもっている。予算の「削減」は容易ではない。
他方、平成三年度からの新・中期防が、大綱の水準達成を受けて、抑制的に策定されていることも事実である。たとえば、前・中期防と比較すると、新・中期防での調達量は、戦車が二百四十六両から百三十二両に、F-15戦闘機が六十三機から四十二機に、それぞれ減少している。
野党各党は、どのような理由で、何をどれだけ削減するのか明確に示すべきだ。野党の主張に合理性があれば、それは中期防さらには別表の見直しにつながろう。
別表見直しに関しては、陸上自衛隊の定数削減が、すでに検討対象に指摘されている。陸上自衛隊の定数は十八万人だが、最近の募集難などで、実際の人員は十五万人強に落ち込んでおり、十八万人体制の維持は事実上困難だ。それに国連平和維持活動(PKO)への参加という新たな問題もある。合理的な再編は避けられまい。
その場合、主要装備についても、何がもっとも効率的かという見地からの洗い直しを積極的に進めるべきだ。
しかし、防衛計画を検討する場合には中、長期の視点を欠いてはならない。軍縮の機運が国際的に高まっているのは結構だが、ムードだけにとらわれた議論を慎まなければならないのは言うまでもない。
大綱の別表についての見直しには賛成だが、それが大綱自体の基本的考え方の見直しと混同されてはならない。わが国の防衛には、大綱が示すように、必要最小限の基盤的防衛力(自衛隊)とともに、日米安保体制が二本柱として不可欠である。
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