自衛隊法改正案が18日、衆院で可決され、参院に送られた。改正案は(1)不審船や武装工作員が侵入した際の武器使用条件の緩和(2)自衛隊が米軍基地などを警護(3)防衛秘密を漏らした者の罰則強化――が柱だ。衆院ではテロ対策支援法案に審議が集中し、改正案の内容や運用に疑問や懸念を残したまま通してしまった。
不審船の対処は、99年3月、スパイ工作とみられる朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の船が日本領海に侵入しながら、取り逃がした事件が契機となった。工作員上陸も想定し、武器使用条件を緩和する。不審船の場合、政府が海上警備行動を発し、停船に応じなければ、船体や船員に危害を加えることもありうる。想定外のテロや不審船増加など状況は変化しており、日本の安全確保のうえでは、やむをえない改正と考えたい。
自衛隊による新たな警備は、今回のテロを踏まえた対応だ。平時に自衛隊が警備する対象が弾薬庫や航空機など点ごとだったのを、基地全体に広げ、武器を使えるようにする。さらに、テロの恐れがある時は、首相の命令で警護出動し、自衛隊と米軍基地を守る。
私たちが危惧(きぐ)するのは、役割がぶつかる警察との調整だ。今の法制は、自衛隊による治安出動前の警備は、警察が担う。そこに自衛隊が加われば、指揮権が二重となり、現場が混乱しないか。改正されれば「防衛庁長官と国家公安委員会の協議」を経て決めるが、やはり、警察を優先する方が自然ではないか。武器使用も個々の自衛隊員が判断した経験はない。教育訓練を通じ、実際の場での行動基準を身に着けさせる必要がある。
一つは、法律適用の大原則である罪刑法定主義の問題だ。改正案は、防衛秘密の定め方、秘密とする10項目を列挙した。現在の根拠法の「日米防衛協定等に伴う秘密保護法」が、防衛秘密という言葉でしか定めていない点と比べれば、具体性はある。だが、10項目は「自衛隊の運用又(また)はこれに関する見積り若(も)しくは計画若しくは研究」「防衛に関し収集した重要な情報」など、抽象的表現が多い。
秘密を漏らした自衛官や国家公務員の最高刑引き上げと一緒に、「(漏洩(ろうえい)を)共謀、教唆、扇動した者」も処罰対象に加えた点は、運用に不安を持つ。公になれば国益を損なう防衛秘密はあろう。しかし、情報公開が求められる現在、マスコミや市民団体の活動が違法行為とされたり、政府に不都合な情報が恣意的(しいてき)に秘密扱いで抑えられる恐れはないか。言論・報道の自由、知る権利などとの関係で、何が重要情報かなど、政府見解などで明確化する必要がある。
米国は96年、経済スパイ法を制定した。IT(情報技術)革命を見通して、同法が禁じる取得方法と対象を極めて具体的に明記した。IT時代のスパイも登場するかもしれない。自衛隊法改正案はその面でも、まだまだずさんで、権力をかさにきた情報抑圧的な運用の懸念が消えない。
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