次の中期防衛力整備計画(次期防)について、防衛庁は(1)武装ゲリラ、核・生物・化学兵器の対処能力の向上(2)災害派遣能力の充実強化――などを盛り込み、「多様化する自衛隊の役割」を先取りした計画となることを期待していた。しかし、政府・与党の次期防論議では空中給油機の導入の是非だけが焦点化し、自衛隊の将来像を確定するまでにはいたらなかった。
次期防説明のため、国会もうでを続けた防衛庁職員が「先生方からほとんど質問もなく、安全保障への無関心さを感じた」と振り返る一方で、空中給油機の導入をめぐる与党内の綱引きが過熱したのはここ数日間のことだった。決着は来年度予算への計上は見送るものの、計画期間中に4機を導入する分かりにくいものになった。
政府・与党幹部の発言に振り回された給油機導入のドタバタ劇は、下から積み上げる議論を欠いた今回の策定作業を象徴するものだ。護衛艦建造など高額な正面装備を一部見直し、国会で改めて本格的な論議を求める――ある防衛庁幹部が描いた「ウルトラC」とは、次期防策定の1年延長論だった。
自衛隊は「働く時代を迎えた」と言われる。国民生活に密接に絡みながら、国民から遠い安全保障政策は、開かれた議論により、自衛隊の役割を具体的に示すことが不可欠だ。防衛庁は空中給油機の導入を実現した。その代わり、次期防に政策論議はなく、同庁は自衛隊の理解を深める5年ぶりの機会を逃したことになる。
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