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1999/08/25 毎日新聞朝刊
[社説]周辺事態法 懸念と不安を残す第9条
 
 日米防衛指針(ガイドライン)関連法の柱である周辺事態安全確保法が25日、施行される。
 同関連法は今年5月、国会で成立した。このうち邦人救出の際、自衛隊の艦船などを使えるように条文を変更した改正自衛隊法は、すでに施行済みだ。周辺有事の際、日米間で物品を融通し合う改正日米物品役務相互提供協定(ACSA)は9月下旬に発効する。
 これにより、1996年4月の「日米安保共同宣言」で、日米両国政府が打ち出した日米防衛指針見直しに伴う周辺有事法制がすべて整うことになる。
 なかでも周辺事態法の施行により「わが国の平和と安全に重要な影響を与える事態」が起きた場合、対米支援に関する「基本計画」の閣議決定を受け、後方地域支援や捜索救助活動に自衛隊が乗り出すことが可能になる。
 と同時に、地方自治体や民間企業も、港湾や空港の使用、医療機関への患者受け入れ、人員や物資の輸送などに関して協力を求められる。
 同法第9条で「運輸、自治、厚生、通産の各大臣らは、地方自治体の長や民間企業に必要な協力を求めたり、依頼することができる」と規定されているからだ。
 政府の内閣安全保障・危機管理室は今年7月、同法第9条についての「解説」を作り、都道府県や市町村、関係企業などへの説明を始めた。
 しかし、この「解説」に関して自治体の間では懸念や不安が渦巻いている。
 代表例は「政府の協力要請は一般的な義務というが、協力を拒否することができるのか」「もし協力を拒否した場合、補助金カットなどの制裁を受けることはないか」といったものだ。
 協力の内容をすべて公表していいものかどうかも自治体首長の悩みの種だ。政府の規定では「弾薬輸送などを公表すれば、米軍の作戦内容が対外的に明らかになってしまう。それではまずいので、場合によっては公表を差し控えてもらうことがある」となっているからだ。
 そうした政府・米軍側の要請と、住民・議会側の情報公表要求との間で板挟みになることを心配する首長は少なくない。
 民間企業も自治体と同じように懸念や不安を強めている。
 政府は、物資の輸送について「物資の中には武器・弾薬も含まれる」「公海上の輸送も排除されるものではない」と規定している。このため、輸送関係企業やその労組の中には、危険な地域に船舶や航空機を出すことになるのでは、との危機感を持っているところもある。
 これに対して政府は「正当な理由があれば要請を拒否できる」「法令に基づいて対応する限り、制裁措置がとられることはない」「戦闘が行われている地域や、その恐れのある地域への輸送を依頼することはない」などと説明している。
 にもかかわらず、内閣安全保障・危機管理室には自治体などから「解説」に対する膨大な質問書が今も届いているという。
 それは、周辺事態法に対する懸念や不安がなお完全に解消されていないことを意味する。自治体、民間企業、国民の理解と支持が得られるよう、政府は一層の説明努力を尽くさなければならない。
 
 
 
 
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