武力紛争が発生した地域に日本人が大勢取り残された場合、救出できるのか。答えを示すかのように、政府は新たな日米防衛指針(ガイドライン)に関連して、在外邦人救出のために艦船を派遣できるよう自衛隊法の改正案を提出した。この改正については「危険論争」が起きるのは必至だ。
艦船派遣に関して、海上自衛隊が今年3月に就役させた輸送艦「おおすみ」(基準排水量8900トン)に注目が集まる。上甲板には大型ヘリコプター2機が駐機でき、大型バス2台を運べるエアクッション型揚陸艇2隻も搭載し、接岸しなくても積み下ろしできる。
内部の車両甲板(幅13メートル、長さ90メートル、高さ6メートル)には大型バス20台が優に入り、居住区は1000人を収容可能。詰め込めば3000人は乗せられる。しかも、艦橋には二つの手術室と集中治療室まで備える。海上自衛官が口をそろえて言うように、まさに「使いでのある船」だ。
さらに今回、武器使用の規定も見直される。隊員と現場にいる在外邦人らの生命を守るため「事態に応じ合理的と判断される限度で使用することができる」。輸送機に火器は装備されていないが、「おおすみ」に20ミリ機関砲2基が装備されているように、たいていの自衛艦には少なくとも機関砲はついている。
軍事評論家の藤井治夫さんは「危険な地域に軍用艦船がいけば、さらに危険をあおるだけ。過剰な武器使用につながる危険が大きい」と指摘する。これに対して防衛庁は「安全でなければ行かせられない」と公式には言う。
しかし、ある海自2佐は「どの国でも他国の軍用機、軍用艦船はギリギリまで受け入れない。それが独立国のプライドだ」と説明する。本当に安全なら民間機や商船で足りる。自衛隊の艦船が他国に受け入れられるのは、実際は混乱の最中という可能性が高い。
一方、海自3佐は「邦人が助けを求めているのに、『安全でなければ行かせない』で通りますか。行くしかない。でなければ何のための自衛隊かと非難される」と語り、「高度に政治的な判断があってこそできる話ですけどね」と付け加えた。そんな「現場の本音」も漏れてくる。=つづく
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