昨年11月、海上自衛隊の大型補給艦「とわだ」から米ミサイル巡洋艦「バンカーヒル」に燃料補給する訓練の模様が、初めて報道陣に公開された。青森県・下北半島沖のその現場で、海自幹部は「命令があれば、いつでも本番の洋上給油が可能だ」と話した。
政府が新たな日米防衛指針に基づいて国会に提出した周辺事態法案によると、作戦任務につく米艦船への補給・輸送を自衛隊が担当する。発動されれば「とわだ」も現場へ向かうことになるが、憲法が禁ずる集団的自衛権行使との関係で疑問が出る。
「補給」は米軍に対して日本の物資を提供することで、武器・弾薬は含まず、地域は日本領海内に限る。一方、「輸送」は米軍の物資を自衛隊が米艦船に運ぶことだ。武器・弾薬も含まれ、対象地域も公海上にまで広がるため、問題がある。その武器・弾薬は、当然、攻撃に使用される。
政府は「戦闘地域と、支援を行う後方地域が離れていれば問題はなく、米軍の軍事行動と一体にならない」と説明する。しかし、自衛隊の支援は「兵站(へいたん)活動」そのもので、軍事活動に欠かせない重要な役割を担う。太平洋軍備撤廃運動の梅林宏道・国際コーディネーターは「海外における米軍の武力行使との一体化にほかならない」と指摘する。
「後方地域」の定義も揺れる。新指針では「戦闘地域とは一線を画した地域」と表現された。しかし、航空自衛隊のトップ、平岡裕治・航空幕僚長が「線引きは難しい」と言うように、制服組の中には懐疑的な意見が多い。
こうした声を反映したのか、法案では後方地域の定義を「我が国領域並びに現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる我が国周辺の公海及びその上空の範囲」とした。「安全だと強調したいのだろうが、今戦闘が行われていなくても、いつミサイルや戦闘機が飛んで来るか分からない」と、ある海自幹部は語った。
洋上での物資の受け渡しは、補給艦が展開する艦船を回る方法と、艦船が持ち場を離脱して補給艦の待つポイントに行く方法がある。政府の言うように安全性を優先させれば、補給ポイントで待つ方法が採用されるはずだが、「実際の現場で米側がどんな形態を望むかは分からない」とも制服幹部は語っている。=つづく
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