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1998/04/29 毎日新聞朝刊
[社説]周辺事態法案 おかしな使用武器の拡大
 
 政府は28日の閣議で、新たな日米防衛指針(ガイドライン)に伴う周辺事態(有事)向けの措置法案や協定改定案を決定した。
 社民党は、憲法問題などで与党間の調整は終わっていないと、閣議決定に反対したが、政府・自民党はそれを押し切った。対米配慮を優先した結果である。
 来日中のキャンベル国防次官補代理が早期に決定しないと日米安保体制に傷がつくと憂慮している、との話を自民党幹部が紹介した。さらには、この日に合わせてオルブライト国務長官が来日した。小渕恵三外相とともに、日米物品役務相互提供協定の改定案に署名するためで、事実、閣議後に署名をすませた。
 閣議決定のための状況作りや、対米手続きに関する手際の良さには目を見張るばかりである。
 しかし、法案の内容をみた場合、そんなことに感心してはおれない。
 どんなに「日米安保の強化のためだ」「日本周辺での有事発生に対する抑止力にもなる」と説明されても、憲法が禁止している海外での武力行使や集団的自衛権の行使につながるのではとの懸念を持つからだ。
 政府・自民党が、今月初旬に公表した法案の概要や要綱と比較した場合、その懸念は増したと言わざるを得ない。
 その第一は、米兵などの捜索救助、船舶検査(臨検)、在外邦人の救出のために行動する自衛隊の使用武器の範囲をより拡大したことだ。
 概要や要綱の段階では「生命や身体の防護のため必要最小限の武器が使用できる」と抑制的な内容だった。ところが法案では、自衛隊法95条(武器等の防護のための武器の使用)を適用し、「職務を行うに際して、人だけでなく武器を防護するためにも、合理的で必要な範囲の武器を使用できる」と規定した。
 これまでの邦人救出の際はけん銃を、国連平和維持活動(PKO)では小銃や機関銃を、それぞれ携行できることになっている。しかし今回の決定は、それを大きく踏み越え、上官命令で重火器なども使用可能になることを意味する。
 この日、閣議決定された自衛隊法の一部改正案では、邦人救出の際、航空機に加えてヘリコプター搭載型の護衛艦までも使えるようになった。
 この二つの事実を重ね合わせると、邦人救出のために外国に出向いた護衛艦が敵から重火器で攻撃された場合、これと同じ重火器で応戦する事態も考えられる。
 政府は「刑法の正当防衛と同じで自己保存のための自然的権利だ」と説明しているが、そうした事態に陥ったとしても、海外での武力行使には当たらないと言い切れるのか。
 派遣する艦艇をヘリコプター搭載可能な輸送艦に限定したり、携行武器の基準や使用ルールを厳格に規定しておかなければ、不測の事態を誘発しかねない。
 第二に、国会の関与の仕方も問題点として残っている。対米支援のための「基本計画」は、PKOと同様、国会に報告するにとどめるとしているが、事情はまったく違うのだから、それでは不十分だ。防衛出動と同じ事前承認が必要ではないか。
 法案が今国会で成立する可能性は低いという。とすれば国会論議の時間は十分にある。修正、手直しに向け次は国会が役割を果たす番だ。
 
 
 
 
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