3月中旬、アルバニアの首都・ティラナで起きた騒乱での日本人救出は、緊急事態対応策を検討中の内閣安保室など政府関係者の注目を引いた。日本人11人を含む外国人約120人がドイツ軍ヘリに救出され、ケルン・ボン空港に運ばれたからだ。ヘリで飛び立つ際に武装集団が発砲する中での救出劇だった。
新指針の中間報告は、邦人ら非戦闘員退避のための活動を盛り込んだ。海外の邦人を救出するための態勢は現在、恐ろしいほど無防備だ。空港までの邦人救出は「相手国の同意があれば警察権の行使ができる」とされているが、戦闘状態の中では憲法解釈上、集団的自衛権行使の疑いがあり、極めてグレー。「基本的には在外公館が責任をもってできるだけの方法を講じる」(1994年10月、衆院安保委員会、畠中篤外務省領事移住部長)のが限界だ。
飛行場からの邦人輸送も発砲が続く中では、現行自衛隊法上は、政府専用機や輸送機を飛ばすことすらできない。安全と判断し政府専用機が現地上空に来ても、事態が急変すれば着陸できない。政府は「必ずしも輸送を何が何でもしなければならないわけではない。むしろ、動かない方が安全というケースもある」(村田直昭防衛局長)と、輸送放棄とも取られかねない答弁に終始している。
外国人の輸送に関しては、法律の規定がない。自衛隊法100条の8(在外邦人等の輸送)を根拠に「政府専用機に余席がある場合」に限っている。外国人を運ぶため邦人救出を名目に政府専用機が飛ぶ事態も想定され、つじつま合わせの解釈にほころびが出る可能性もある。
橋本龍太郎首相は昨年5月、在外邦人保護など4項目の緊急事態対応策の検討を指示した。だが、「軍隊の海外派遣が可能な国でも100%救出できる保証はないのに、自衛隊は救出訓練さえ行っておらず、それ以前の問題」(内閣安保室)と現行規定の限界が指摘され始めた。「安全が確認されなければ出動できない」(防衛庁)自衛隊でよいのか。集団的自衛権の行使にあたるとする解釈にも疑問の声が漏れ始めているのだが。=つづく
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