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1995/12/22 毎日新聞朝刊
[社説]防衛費 自衛隊は欲張りすぎだ
 
 「来年度の防衛費は、今後五年間の防衛力整備計画の初年度に当たる。つまり発射台になるわけだから、金額は大きい方がいい」
 一九九六年度防衛費について、防衛庁の幹部から、こんな話を聞いたことがある。二十日に内示された防衛費に関する大蔵原案は、防衛庁・自衛隊が期待する通りの「高い発射台」となった。防衛庁・自衛隊はニンマリとしているに違いない。
 来年度防衛費の総額は四兆八千四百五十五億円で、前年度比二・五八%の増である。概算要求基準(シーリング)段階の同二・九%よりは下回ったものの、一般会計歳出に防衛費が占める割合は六・五%と、例年通りの高い数値となった。相変わらず防衛費が聖域視されているといって過言ではない。
 このところ、防衛政策に関する重大な閣議決定が相次いだ。
 その一つが、十一月二十八日の新しい「防衛計画の大綱」であり、さらに今月十五日の「中期防衛力整備計画」(中期防)である。
 新大綱は冷戦終結を受け、ほぼ二十年前に作られた旧大綱を見直したものだ。また中期防は新大綱に基づいて、九六年度から二〇〇〇年度までの五年間に、どんな装備を買い込み、どれくらいの人員を配置していくかの計画表である。
 この過程で、私たちはロシアからの脅威の大幅な低下、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の発足に代表される朝鮮半島での対立緩和などを挙げ、防衛力をスリム化し、軍縮を進めるよう求めてきた。
 新大綱、中期防とも「防衛力の合理化、効率化、コンパクト化を進める」一方、「機能の充実と質的な向上を図る」ことを打ち出した。
 コンパクト化は結構なことで、ぜひとも進めてほしいと期待していたが、来年度防衛費は、機能の充実と質的な向上だけが重視され、結果的に戦力の向上を狙った防衛庁・自衛隊路線の集大成となってしまった。
 防衛費が前年より大きくなった理由について防衛庁は、兵器を買う場合のつけ払いである後年度負担や人件・糧食費は削れない、円安による為替差益約百三十億円が全体の額を押し上げた、さらに日米安保体制維持に必要な新特別協定による持ち出しが約三十三億円増えた、などと釈明している。
 そうした拡大要因があることを全面否定するつもりはないが、それにしても、さらに多額のつけ払いが残る兵器を、欲張って買い続ける必要があるのだろうか。
 その代表例が、一機当たりの当初価格が百二十億円近くもする世界一高価な支援戦闘機(FSX、F2と改称)である。
 私たちは、費用対効果の観点から、F2の発注・配備は見送るべきだと主張してきたが、防衛庁は今後十二年間で計百三十機調達する方針を変えておらず、来年度は手始めに十一機購入するという。
 支援戦闘機については、防衛産業の保護ばかりを優先させずに、九七年度以降は調達を取りやめ、現有機を延長利用していくべきだ。
 後年度負担が防衛費を硬直化させていることは、毎年、指摘されていることだ。しかし今回、政府・与党内では議論らしい議論もなかった。正面装備の新規契約の削減や後年度負担の繰り延べなどを真剣に検討すべき時期に来ている。
 
 
 
 
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