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1994/11/13 毎日新聞朝刊
[社説]次期支援機 透明性を確保し検討し直せ
 
 防衛庁・航空自衛隊が導入を予定している次期多用途支援機(UX)の機種選定が難航している。閣内から、選定過程に不明朗な点があるとの批判が出たためだ。
 自衛隊の装備購入をめぐっては、一九七九年のダグラス・グラマン疑惑、八一年の短距離地対空ミサイル(短SAM)導入など、過去にも国会で問題になったケースがある。
 その都度、疑惑が持たれないような選定作業の必要性が叫ばれてきたが、また繰り返されたわけだ。
 今回は、現在の連立政権と旧連立勢力との政争、防衛産業や関連商社間の競争などが背景にあるが、一部の国会議員が、候補に挙がった飛行機を格安でチャーターしてアフリカ視察に利用したなど、政治家と業者との“癒着”も取りざたされている。とんでもないことだ。
 こうした「もめごと」が繰り返されること自体、実に残念であり、国民の多くもうんざりしているのではないか。
 UXは、国内の基地間の連絡、小型貨物や自衛隊幹部ら小規模な人員の輸送、訓練への支援などに使われる。防衛庁は、現在の双発プロペラ機B65が古くなったため、九五年度から五年間で新機種を計九機、購入する計画を立てた。
 候補に挙がったのは、民間の大型ビジネスジェット機のうち、ガルフストリーム(米)、ファルコン(仏)、チャレンジャー(加)の三機種。最大乗員は二十一人(うち操縦士は二人)と共通しているが、最大航続距離は六千―八千キロ、値段も一機三十億円前後と幅がある。
 防衛庁は、旧連立政権時代の今年五月から、各社に能力などの性能リストを出させ、選定作業を開始。今年八月、いったんはガルフストリーム導入を内定した。
 ところが、現連立政権の閣僚から「最初からガルフストリームに決めるつもりだったのではないか」などのクレームがついた。このため防衛庁は機種決定を見送り、来年度予算概算要求には、二機分七十億円を機種未定のまま盛り込むという異例の展開になっている。
 慌てた防衛庁は、航空工学の学者ら民間人三人による検討委員会を新たに設け、選定過程に問題がなかったか洗い直し作業をしている。
 しかし、それで「不透明さ」を払拭(ふっしょく)できるのか、なお疑問が残ると言わざるを得ない。防衛庁は、検討委を内密に設置したうえ、委員三人の名前を明らかにしないなど、透明性・公開性に依然として不十分な面があるからだ。
 世界中の空を現に飛び回っている民間機を購入する話だし、防衛秘密にかかわるものでもないのだから、検討委については、もっとオープンにしていいのではないか。
 米国製ジェット機を内定したことについて防衛庁は、米軍との相互運用性や日米貿易不均衡の是正などを挙げている。もしそうだとすれば、最初から米国製しか対象になり得なかったことにもなる。
 もともと今回の選定作業自体を、防衛庁が最初からオープンにしていたら、こんな騒ぎにはならなかったはずだ。来年度の予算化を見送ってでも、透明性・公開性を確保しながら、時間をかけて再検討し直すべきだとの意見が出ていることを防衛庁は厳しく認識すべきだ。
 これほど高価な支援機が、いま本当にいるのかという指摘もある。「防衛計画の大綱」の見直し問題とも絡めた本格的な再検討が必要だ。
 
 
 
 
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