1994/08/21 毎日新聞朝刊
[社説]ルワンダ支援 自衛隊派遣に残る疑問点
ルワンダ難民を救援するため、国連平和維持活動(PKO)協力法に基づいて自衛隊が派遣されることになった。自社さ連立与党の「防衛調整会議」で合意されたためだ。
これを受け、政府は二十二日に第二次調査団を派遣し、ルワンダ周辺国のザイールを中心に医療活動や支援拠点、医薬品、食料、水などの輸送・運搬ルートを調べ、九月下旬の本隊の現地入りに備える。
派遣先は、コレラや赤痢が流行し多数の死者が出ているザイール東部のゴマになる見通しだ。周辺国になったのは、ルワンダ国内は停戦合意が不成立でPKO参加五原則に触れるからだ。
PKO協力法は、武力紛争の再発防止などを目的にしたカンボジア・モザンビーク型のPKOと、難民の救済などを目的とした人道的な国際救援活動の二つの業務を柱にしている。今回の自衛隊派遣は、二つ目の業務に基づくもので、この規定が適用されるのは初めてだ。
ルワンダ難民の救援に関しては、政府の第一次調査団「ルワンダ難民支援ミッション」が帰国し、外国の支援を受けずに活動できる「自己完結型」の人員派遣が必要と、事実上の自衛隊派遣を求めたことから、与党内調整が本格化した。
その際、かつてPKO協力法に対して牛歩戦術や議員総辞職などの強硬な反対行動をとった社会党の動向がカギとなったが、結局、同党が自衛隊派遣を受け入れた。
これまで政府はルワンダ難民救援のために資金・物資面で協力してきている。しかし国連難民高等弁務官事務所などから人的な面での協力を再三にわたって要請されていた。
政府の対応は遅すぎた感は否めないが、ルワンダ難民や、その環境が過酷な状況にあることを考え合わせれば、自衛隊派遣は現実的な選択と言っていいだろう。
ただ、今回の決定について、いくつかの疑問が残る。
まず本当に自衛隊派遣しか手はなかったのかということだ。社会党は当初、国際緊急援助隊や民間の医療団の派遣を検討した。このうち国際緊急援助隊は、これまで途上国での自然災害発生時だけでなく、クルド人難民支援なども手掛けた実績を持っている。
最終的には、国際緊急援助隊は自然災害用であり、人災のルワンダには出せないということになったが、今回のようなケースにも対応できるよう国際緊急援助隊派遣法を手直しするなど、人道面での緊急支援システム全体をもう一度、整理する必要があるのではないか。
とくに米、英、仏など各国が部隊を派遣済みだからとの理由で「自衛隊派遣」のみが目的化されるようなことがあってはならない。
社会党は今回、「人道的な役割に限定した例外的な措置」として自衛隊派遣を容認したが、この理由付けも疑問のあるところだ。
もし今後、再びカンボジア・モザンビーク型のPKOへの参加要請が来た場合、社会党はどう対応するつもりか、その点が不明確だからだ。
また、党内論議も不十分のまま見切り発車した点は、自衛隊合憲、日米安保堅持の時と同様だ。九月三日の臨時党大会に提案される議案では「憲法の枠内でPKOには積極的に参加する」としているが、具体的にどういう方法、組織で参加するつもりかは明確ではない。今こそ社会党は国民に分かりやすいPKO構想を示さなければならない。
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