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1991/08/03 毎日新聞朝刊
[社説]日本型PKOの合意めざせ
 
 自衛隊の国際協力に関する政府・自民党の「基本的考え方」が決まった。海外の災害救助と、国連平和維持活動(PKO)への自衛隊派遣の二本立てで、五日からの臨時国会で必要な立法措置を講じることになっている。
 湾岸戦争を契機に国内世論は大きく変わってきた。総理府の世論調査でも自衛隊の災害派遣を認める人は五割を超え、PKO参加への支持も五割近い。国会での合意を探る際に、こうした世論の動向を軽視することはできないだろう。
 自衛隊が海外の災害救助に活躍することは、国際的にも歓迎されると思う。自然災害だけでなく難民救助に対する活用も検討されていい。ただし、現在の国際緊急援助隊の拡充強化、非政府組織(NGO)によるボランティア活動の充実も並行して進めてもらいたい。
 PKOへの協力はそれとは事情が異なるので、二本立ての対応はやむを得まい。災害派遣を優先させ、世論が二分されているPKO協力については、国民合意を得るための慎重な検討が望ましい。
 国連重視は日本外交の基本であり、PKO協力もその一環として位置づけられる。しかし、停戦監視団だけでなく平和維持軍(PKF)本体への自衛隊参加まで認める政府案には問題が多い。
 PKOに対する各国の協力は多様である。しばしば平和維持軍の中核を担い、PKO協力のモデルとみなされるスウェーデンやデンマークなど北欧四カ国の場合は、その中立政策がPKO参加の適格性を高めているともいわれる。
 その一方で、停戦監視にとどめているイタリア、兵たん・補給などの後方支援に意欲を示す英国など、対応はさまざまだ。通常は国連常任理事国を除外しているなかで、経済大国の日本が大隊規模の自衛隊を平和維持軍に派遣すること自体、アジア近隣諸国との間に新たな摩擦を生じさせかねない。
 内閣法制局は国会答弁で「武力行使を伴う可能性がある」として、平和維持軍参加に疑問を投げかけていた。官邸、外務省の強硬論に押し切られはしたが、従来の政府見解からみて違憲の疑いは解消されていない。国内外の反発を懸念して防衛当局さえ慎重姿勢をとっているのに、なぜ政府・自民党が強硬方針をきめたのか不可解である。
 自衛隊と別個の平和協力組織を設置することは先の自民、公明、民社三党合意の経緯からみても当然である。しかし、形のうえでは北欧型の国連待機軍をモデルにしながら、部隊参加の自衛官を併任とすることで、実質的には国防軍の一部をPKO部隊にあてているカナダ型を採用しているようにみえる。
 北欧諸国と同じような憲法上の制約からいえば、日本型のPKO組織は北欧型に準じて、文民や自衛官OBなどを中心にした方がいい。現職自衛官の参加を認めるにしても、休職・出向として個人が志願する形が望ましい。国の基本政策の変更にもつながるので、歯止めを明確にしながら国民合意を探るべきで、その任務は選挙監視や停戦監視にとどめるべきではないだろうか。
 冷戦後の国連の機能は、平和維持(ピース・キーピング)にとどまらず、行政、民生分野にわたる和平実現(ピース・メーキング)との結合による包括的な和平プロセスが重視されている。日米欧の三極のひとつを担う国として、冷戦後の世界平和と安定のために積極的な役割を果たすのは当然である。大局的な視点からの国際貢献をめざして、国会の合意を期待したい。
 
 
 
 
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